第18話

 レベルⅢには一歩足りなかったが、それでも大成長を遂げることができた。

 これでまたグッと強くなれたので満足のいく結果だ。

 それに阿川もレベルとスキルが上がって、パラメーターも大幅に上昇したことで、やはり嬉しいのか顔を綻ばせていた。


「良かったな、阿川。《ホワイトウィング》のレベルが上がって、どんなことができるようになったんだ?」

「えっと…………やってみた方が分かりやすいかも。ちょっと見ててね」


 ステータスを確認しながら、阿川は実践してくれるようだ。

 すると翼から数枚の羽が分離すると、それらが自在に室内を飛び回り始めた。


「! もしかして羽ダーツを操作できるようになったのか?」

「うん、そうみたい。これで真っ直ぐじゃなくて、いろんな方向から攻撃できそうだよ」


 ちょっと羨ましいと思うくらいカッコ良い攻撃方法だった。

 それに攻撃力も上がったことだし、今後は殺傷能力を期待できる戦法として利用することができるだろう。


「……けどツキオ、あの穴……あのままでいいのかな?」

「どうせ誰も使わないだろうしいいんじゃないか? まあ、見た奴はビックリするだろうが」


 グラウンドの真ん中に突然謎の大穴があるんだ。この学校のことを知っている奴らなんて特に、このことを知ると度肝を抜かれるだろう。

 しかも穴の下には大量のモンスターの死体が……。


「……あ、見てツキオ! グラウンドにまた新しいモンスターが!」

「へ?」


 見ればグラウンドの地面が盛り上がったと思ったら、そこから先程もいた砂でできたモンスターやスライムたちが生まれた。


「……アイツらは〝イセカイウィルス〟によって自然発生したモンスターってわけか。ゴブリンとかオークはいない。……もしかして人型に似たモンスターは、人間を媒介にしなければ生まれないのか?」

「……ということは人型モンスターは全部元人間?」

「その可能性は高いってことだな」


 なら俺の家に襲撃してきたあのゴブリンもやはり元人間ってことになる。


 ……ま、今更だけどな。


 すでにもう何体もこの手にかけてきたのだ。後悔なんてしている暇はない。

 俺にとって必要なのだ。恨むなら恨めばいい。女々しい言い訳なんてするつもりなんてない。殺された者たちにとって、俺はただの悪党でいいのだ。


 すべてはひまるの平和を守るために。俺は何だってする。

 ただ気になることがあるとすれば、やはり阿川のことだが……。


「大丈夫だよ、ツキオ。僕だって逃げたりしないから」

「阿川……ああ、お互いに生き抜こうな」


 するとその時である。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 突然地鳴りとともに部室が揺れ始めたのだ。


「じ、地震!? ひまる!」

「にぃやんっ、こわいよぉ!」


 俺はすぐにひまるを抱きしめると、阿川がそんな俺たちを抱きしめ翼で覆ってくれた。

 揺れはかなり激しく、正直立ってはいられないほどだ。


 このまま部活棟が倒壊でもしたら大変なことになる。俺は《フォルダー》を出して、阿川のように飛翔できるようなカードを作ろうとしたが、徐々に揺れが収まり始めたのだ。

 そしてしばらくして地震は完全に鳴りを潜めた。


「ビ、ビックリしたねぇ……! ツキオもひまるちゃんも無事?」

「お、おう。ありがとな阿川、守ってくれて」

「あいあと、ミーちゃん!」

「どういたしまして! けど……一体何だったんだろ?」


 俺はひまると手を繋ぎつつ、窓の外を確かめてみた。

 そして視界に飛び込んできたものに思わず言葉を失う。


 さっきまでは校内や、俺が住む街並みがそこに広がっていた。

 しかし今、その街並みの景観を崩すような驚愕の物体がそこにあった。


「……何だありゃ?」


 そこには、遠目からでも見上げるほどに高い塔のようなものが街の中から突き出ていたのである。

 当然これまであんなものは存在していなかった。

 まず間違いなく、アレの出現と、さっきの地震は関係があると断定できる。


「――ツキオ、スマホに!」

「え?」


 阿川がスマホを手にして俺に見せつけてきた。

 その画面には、またもあの男が映っている。


「……ロウ・レ・アーザ」


 俺も自分のスマホを取り出し視線を落とした。


「やあ諸君、元気かね」


 相変わらず、俺たちの状況を楽しんでいる様子が見て取れる。


「先の地震、驚いたことだろう。当然、〝イセカイウィルス〟による影響さ。ウィルスは時に変異し、世界の在り様を、そしてそこに生きるものすべてを変容させていく。今回のはその一端だと考えてもらって結構だ」


 やはりコイツの仕業だったか……。


「さて、世界各地に様々な変異が起きたと思われる。そうだな……一つ例に挙げれば、街中に奇妙な建物が出現したのではないかね?」


 ……この言い方。つまり世界のあちこちに、今みたいな地震が起きて、何かしらの変異が起きたということだ。


「変異が起きた場所――そこはいわゆるダンジョンと呼ばれるものなのだよ」


 ダンジョン……? 


「ダンジョンにはお宝が付き物だ。きっと攻略すれば、とてつもない恩恵に肖ることができるであろう。……恐らくは、な」


 コイツ……とてもじゃないが信じられない。

 確かにRPGなどでダンジョンといえば、宝が眠っていたり、ストーリー攻略に欠かせない重要点だったりするが、アーザの言葉通りとは到底思えないのだ。


「さあ、挑みし者たちよ。我こそはと思う者は、ダンジョンに足を踏み入れ是非とも攻略して頂きたい。力、名誉、地位、あらゆるものを欲する者であれ。では諸君らの奮闘に期待する」


 それだけを言って画面が黒くなった。


「好き勝手言いたい放題だな、コイツは。マジで腹が立つ」

「あはは……そうだね、けれどダンジョンか……」

「まさか行きたいとか言わないよな?」

「言わないよぉ。絶対に危険だもん」

「だろうな。たとえ攻略すれば、強い武器とか手に入るとか言われても、さすがにアーザの思うがままに行動するのは危な過ぎる」


 とはいっても、中には攻略に向かう連中だっているだろう。

 確かにアーザの言った通り、お宝が眠っている可能性もなくはないからだ。

 だが何の情報もないのに、足を踏み入れるなんて馬鹿のすることだと思う。

 たとえ挑むとしても、力のある者たちと組んで攻略に臨むべきだろう。


 ……こんな世の中で、ゲームみたいにチームを組んで攻略なんてする連中がいるとも思えないけどな。


「ただこれからもあんな感じに世界が変貌していくんだとしたら、もう誰にも止められないかもしれんよなぁ」

「……! ツキオのカードで食い止められないかな?」

「言ったろ、このカードにもやれる限度があるって。さっきの『TRAP』でも、精々があの程度の穴しか作れないんだ。世界規模の変革を止めるなんてできやしないよ」

「あ……そっか、残念」


 ただ俺のレベルが上がったらどうかは分からない。

 今でも十分に強力ではあるのだ。もしかしたらこの先、大規模に渡って効果を発揮できる力を得られるようになるかもしれない。

 何せ、俺のスキルは、いまだに謎を秘めたミステリースキルなのだから。


「とにかく俺たちはダンジョンなんて放っておいて、今は一日一日を大事に生きていこうぜ」

「うん、そだね!」

「ひまるもね、がんばうのー!」


 世界がどんなに変わったとしても、俺たちの絆だけは変わらない。それだけは確かな本物だと言える、俺たちの強みでもあった。




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