第17話

 ――翌日。


 一夜を学校の部室で過ごした俺たち。

 時刻は午前八時。持ってきたポケットガスコンロを使い、ひまるの好きなフレンチトーストとベーコンエッグ、そしてサラダを作って食べた。


 さすがに二日連続フレンチトーストはどうかと思ったが、ひまるが嬉しそうなので問題ない。阿川も「美味しいよ」と天使の声を伝えてくれたので作り甲斐があった。

 昨日と比べると、そこそこガッツリ睡眠が取れたのは大きい。疲労も相まって早めに就寝したせいだろうか。

 これもひまるを守っているのが俺一人じゃないっていう気持ちの軽さもあってだと思う。


「ツキオ、カードの補充はどう?」

「おう、あれから十四時間以上経ってるしな。全部のアルファベット、二枚ずつコンプリートしてるぞ」


 これでまたフルに動くことができる。


「今日は何か予定を立ててるの?」

「昨日言ってただろ? 効率良く俺たちのレベルを上げる方法を思いついたって」

「そうだったね。どんな方法?」


 俺がその方法を阿川に伝えると、彼は「なるほど」と頷きを見せた。


「昨日の経験をさっそく活かすなんて、凄いよツキオ」

「そうでもないって。こんなこと誰だって思いつくし。それに今回もどちかというと、お前にリスクがあるしな」

「ううん、空を飛ぶモンスターさえいなければ、僕が一番適した役目だし頑張るよ!」

「上手くいけば、俺だけじゃなくて、阿川もこれでレベルアップできるかもしれないしな」


 俺は座っていたソファから立ち上がり、窓から見えるグラウンドを確認する。

 そこには数多くのモンスターが蠢いていた。


 アイツらは間違いなくあの時、部活をしてた連中だろうな……。


 野球、サッカー、陸上などの部活で汗を流していた者たちがモンスター化したものである。


 悪いな。お前らの命、俺たちの糧にさせてもらうぞ。


「……阿川、準備ができたらさっそく頼めるか?」

「うん、大丈夫だよ」


 少し緊張気味というか表情を強張らせている。これから行うことがどんなことか、彼にも分かっているのだろう。

 それでもこれが自分たちに必要なことだと無理に言い聞かせているのかもしれない。


「それじゃ、コレを」


 準備を終えた阿川に、俺は予め作っておいた英単語カードを二枚手渡す。

 受け取る手が震えているのが分かる。


「……やっぱ止めとくか、阿川?」

「え? ううん、やるよ。だって……生きるためにはレベルを上げなきゃならないもんね」

「それはそうだが、今回のは結構キツイと思うぞ?」

「……ツキオだけには背負わせるつもりはないから」

「阿川……」

「じゃあ、行ってくるね」


 阿川が翼を出現させると、部室の窓を開き、そこから外へと飛び出していった。


「あれぇ? ミーちゃん、どこいくの?」

「ちょっと用事があってな、すぐに帰ってくるよ」

「ふぅん。きをつけてねー」


 ひまるが手を振りながら見送り、声が聞こえたのか阿川が振り返って笑顔で振り返し、そのままグラウンドの方へと飛んで行く。

 俺はその様子を黙って見守り、一応空を飛ぶモンスターがいないか周囲を確認する。


 そして阿川が大量のモンスターがいるグラウンドの中央へと降り立った。

 当然その様子に気づいたモンスターたちが、こぞって阿川目掛けて突っ込んでくる。


 様々なモンスターがウヨウヨだ。ゴブリン、オーク、スライムのみならず、砂でできたナメクジみたいな奴や、駅前で見たような木のモンスターもいる。


 中には昨日シャワー室の前に寝ていた怪物オークもいた。まさにモンスターのパラダイスみたいな状況である。そんな中に降り立つなんて、普通は正気じゃない。たとえ力があっても、さすがにあの場で生き残る自信なんてないだろう。


 五十体くらいいるもんな。凄い数だ……。


 すると阿川が、手に持っていたカードを地面に投げ捨て、そのまま上空へと飛翔する。

 モンスターたちが、阿川が立っていたグラウンドの中央へと接近し上を見上げた。攻撃が届かないもどかしさにギャーギャーと喧しく唸っている。


 さらに阿川が、空から羽ダーツを雨のように降らしてモンスターたちを襲う。攻撃力はあまりないが、それでもダメージは少なからずある。

 そのためモンスターたちは頭などを覆い足を止めてしまっていた。

 阿川が俺の方へ向いてグーサインを送ってきた。


「よし、ナイスだ、阿川」


 十分モンスターを引きつけられたと思い、俺はさっそく行動に移す。


「まずはお前だ、『TRAP』――スペル!」


 ご存じ、昨日と同じ罠のカードだ。その効果はもちろん――落とし穴である。

 イメージしたのは直径百メートルほどの大穴。


 しかしここで誤算。穴はその半分ほどしか生まれず、その周りにいたモンスターを落とすことができなかったのである。

 それでも大多数のモンスターを落下させることはできたが。


 ……なるほど。直径五十メートルくらいが限界か。


 実はこれも確かめたかったことの一つ。いくら万能といえど、できることには限界があるのが《スペルカード》だ。その限界値を知っておきたかったのだ。

 誤算ではあったが、想定外ではなかった。


 だから――。


「続けて――スペル!」


 そう、これは阿川に渡していたもう一枚のカード。


 それは――『DOUBLE』。

 その意味は『二倍化』である。


 モンスターと一緒に落下したであろう、そのカードが効果を発揮した直後、穴の大きさ、そして底に存在する針山も当然倍化した。

 そのため穴の周りで生き延びたモンスターたちもまた、突然足場を失って落下し、針山の餌食になっていく。


「……よし、上手くいった」


 見事、グラウンドにいたほとんどのモンスターを一掃できたのである。

 ミッションを終えた阿川が、こちらへと戻ってきた。


「お疲れ、阿川。よくやってくれたな。成功だ」

「うん……」


 やはり顔色が優れない。あの中には元クラスメイトだっていたかもしれない。そんな奴らを攻撃し、結果的に殺す手伝いをしてしまったのだから手放しでは喜べないのも無理はないだろう。


「少し休むか?」

「ううん、背負うって決めたから。だから……俯かないよ」

「……分かった。じゃあさっそくステータスのチェックからだ」


称号:カードユーザー   レベル:Ⅱ    KP:410/500


体力:41/66(82)    

攻撃:65(70)

防御:58(66)

敏捷:50(60)

耐性:71(80)

幸運:62

属性:黒


スキル:スペルカードⅡ



称号:翼を持つ者   レベル:Ⅱ    KP:180/500


体力:30/38(60)    

攻撃:40(60)

防御:43(62)

敏捷:45(70)

耐性:46(72)

幸運:85

属性:白


スキル:ホワイトウィングⅡ



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