第16話
この短期間で部活棟を制圧できたのは大きい。
やはり何といっても《スペルカード》の存在だろう。これがなければ、とてもじゃないがこなせなかったミッションだ。
それに阿川という力もあってこそである。
「まずは本当にお疲れ様、ツキオ」
「何言ってんだよ。お前も頑張ってくれたじゃんか。お互い様だろ」
俺たちはペットボトルのジュースを片手に、互いを労っていた。
「僕はツキオほど苦労してないよぉ」
「それでもお前がいたからスムーズに事が運べたんだよ。だから二人の成果だ」
「ツキオ……うん、ありがと」
はぁ……もっと見つめていたい、この笑顔。
「ところでツキオ?」
「……! へ? な、何だ?」
いかんいかん。ちょっとトリップしてた。
「ずいぶんカード使っちゃったけど大丈夫?」
「あーしばらくは休息期間が必要だな」
《フォルダー》を開くと、歯抜けな場所が多い。
全部コンプリートするには十五時間以上はかかる。
と、思ったのだが、見ると少し違和感を覚えた。
何故なら先程使用した空白カードだが、カウントダウンは七時間を切っているのだ。
おかしい。カードをクリアファイルから取り除いてから一時間も立っていない。
それなのに、〝6:35:22〟という数字が刻まれている。
「どういうこと……あ、もしかして!」
俺はステータスを開いてみて、その謎が解けた。
称号:カードユーザー レベル:Ⅱ KP:105/500
体力:41/41(82)
攻撃:35(70)
防御:33(66)
敏捷:30(60)
耐性:40(80)
幸運:57
属性:黒
スキル:スペルカードⅡ
どうやらレベルもスキルも、ワンランク上へと昇格していたようだ。
スライム、ゴブリン、オークを結構倒したが、まだレベルアップには遠かったが、恐らくは先の怪物オークを討伐したことで、一気にKPがもらえたのだろう。
パラメーターも、すべてレベルⅠの時の限界値まで上がっている。もしかしたらレベルが上がれば、その時に限界値まで引き上げてくれるのかもしれない。
そして何よりも《スペルカードⅡ》についてだ。
恐らくはレベルが上がったことにより、カードの生成時間が短縮されたのではないだろうか?
時間的に見て一時間縮まっていると思う。これはかなり大きい上、実のある情報だ。
つまりレベルを上げていけば、いずれはもっと早い時間でカードを入手できるということだから。
「どうしたの、ツキオ?」
「ああ、レベルが上がってスキルもちょっと使い勝手が良くなったみたいなんだ。あ、そうだ。阿川も確認してみな。ちょっと聞きたいことがあったしな」
「え? う、うん……ステータス。……え? あれ?」
阿川がステータスを見て困惑気味に声を上げた。
「……もしかしてKPが増えてた?」
「えっ!? 何で分かったの!?」
「やっぱそうだったか……」
どうやら試してみたことが実利を得たようだ。
「……どういうこと?」
「ほら、お前にあのでっかいオークを倒す手伝いをしてもらったろ?」
「う、うん」
「多分それでお前と協力してモンスターを倒したってことでKPが入ったんじゃないかな? ほら、RPGだって仲間に経験値が入るって仕様があるだろ? あれみたいに」
「そっかぁ……僕はモンスターを倒したことがないし、多分ツキオの言ってることは合ってると思う」
「それにその前のオークを誘き出して倒した時の分も入ってると思うぞ。いくらポイントが入ってる?」
「えと……28だね。結構高いや」
28か……。ゴブリンは確か3だったが、オークやスライムは調べてないから分からない。だがオークやスライムは、ゴブリンとそう変わらないKPのはず。
俺が倒した数を考えても、怪物オークを倒すまでは、俺の合計KPは、せいぜい50前後くらいだったはず。つまり怪物オークは、単体で50KPほどの価値があったってことだ。
そして阿川が関わった戦闘は二回だけ。オークと怪物オーク。これで28KPを手に入れたってことは、恐らくだが実際に殺した奴(俺)の半分のポイントが入ると仮定できるのではないだろうか。
これも確証はないから、いずれ確かめる必要があるが、多分俺の考えは的を射ているような気がする。
ただこのシステムは、俺たちにはありがたいものだ。
「でもこれで効率良く俺たちのレベルを上げる方法を思いついた」
「え、ほんと?」
「ああ。今日はもうカードも心許無いから、やるのは明日以降だな」
俺のやり方なら、直接手を下すのは俺になり、これなら阿川の罪悪感だって少しは減らすことができるだろう。
本当は彼にも覚悟を持ってもらった方が良いのだろうが、それは徐々にで構わないと思う。阿川は繊細だし、強烈な罪悪感を与えて立ち直れなくなるよりは、少しずつ強くしていった方が俺は良いと判断した。
「けど次のレベルアップは500かぁ。相変わらず遠いな」
「500なんだね。確かに普通のRPGだったら、ゴブリンを十体も倒せばレベル2か3くらいにはなるかも」
「まあ全部でレベルⅩが最高らしいし、上がりにくいのも当然と言えば当然かもしれないけどな」
それにこのパラメーターの成長はかなり大きい。今でも阿川が持ち上げるのも一苦労の斧を軽々と振り回せるような力を得たのだ。
筋トレすらしていないのにもかかわらずである。今ならプロボクサー相手でも一発でノックアウトできそうだ。これがレベルを上げていけば、一体どれほどの力になるのか想像できない。
しかしアーザが『新人種』と名付けた理由が理解できる。
恐らくレベルが上がれば上がるほど、それまでの人間とは全く違った個体へと変わるだろう。
まさに新しい人種である。普通の人間は、絶対に敵わないような存在へと成り上がっていく。
そう考えれば、見た目が人間のままではあるが、凶悪な力を持つモンスターと何ら変わりのない存在と言えるかもしれない。
『新人種』とモンスター。
もしかしたらこの二つはコインの裏表のような関係なのか……?
アーザが撒いた〝イセカイウィルス〟によって、上手く適応したのが『新人種』であり、適応に失敗し理性とそれまでの姿を失ったのがモンスター。
しかしその身に秘める力は相応に高められている。
そう考えれば、俺とモンスターもそう変わらないのかもしれないと思えてきた。
俺も何かが違ってたら、きっと人間の敵になっていたのだろうから……。
「そういえばツキオ、休憩したら他の部屋からカーテンを引っ張ってきて、一階のフロアにある窓とかを目隠しするんだよね?」
「おう、その方が外から見られないからな」
「じゃあ僕、カーテンを回収してくるね」
「あ、俺も……」
「ううん、ツキオは疲れてるでしょ? これくらいは僕がやるよ!」
そう言って、阿川は部屋を出て行った。
うん、マジで出来た人間だよなぁ、阿川は。できればこんな世界でも長生きしてほしい。
俺の初めての親友だし、信頼できる仲間でもある。だから俺も大切にしていきたい。
そうしてカーテンを見繕ってきた阿川と一緒に、再び一階へと降りて目隠しをしていった。
これで多少ながらモンスターの目に留まる率を減らすことができただろう。
それにレベルも上がったし、新しい拠点での生活は、思ったより順調に第一歩を踏み出すことができたのであった。
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