第14話

 すぐ隣はトイレになっていて、できればそこは絶対に攻略しておきたい。

 俺はそろりそろりと移動し、まずは男子トイレの扉を開けていく。


 中を覗き込むと、どうやら何もいない。しかし個室の場所も確認する必要がある。

 ただこのまま中に入るのは危険だ。いきなり襲われてはかなわない。

 扉を開けてその瞬間に噛みつかれてはたまらん。そんなゾンビゲームみたいな襲撃をされては、心臓が幾つあって足りない。


 ……どうする? 物音を立てて、中にモンスターがいるか確かめるか?


 それが一番現実的だと思ったが、ふとある方法を思いつき、一旦トイレから離れるように阿川に指示を出す。

 部室の前まで戻ってきた俺たち。


「ど、どうかしたのツキオ? 何か見つけた?」

「いや、ちょっと試したいことに気づいてな。やってみる」


 俺は《フォルダー》を出して、結構な枚数のカードを手に取る。

 阿川は俺が何をするのか、若干楽しみな感じで見ていた。ひまるも同様にだ。


「よし――クレアボヤンス!」


 カードが一つになり、『CLAIRVOYANCE』カードとして生まれた。


「クレアボヤンス? もしかしてそれ……!」

「ああ、そういうこと。――スペル!」


 カードを使用した瞬間、特に視界に変化が見られないのでおかしいと思い目を凝らすと、じわ~っと視界に変化が生じ、どんどん建物内が透けて見え始めた。

 俺がイメージしたのは『透視』、あるいは『千里眼』の意味を持つ英単語だ。


 どうやら普通にしていれば視界はそのままだが、凝視することで能力を発動することができるようになっている。

 またモニターを見ているように、視界の右上にカウントダウンが刻まれていた。


 恐らくは能力の持続効果時間だろう。いろいろ試した中にも、同じような状況があったから。

 制限時間は一時間しか続かないので、早々に行動するべきだろう。


 合計十二枚、AとCに至っては二枚も使用して勿体無い気もするが、これで安全にモンスターの存在を確認することができるなら安いものだ。

 俺はそこから建物内を見回し、モンスターがどこにいるのかをメモ帳に書き留めていく。


 どうやら三階には嬉しいことにモンスターの気配はないようだ。

 だが二階と一階には、それぞれなかなかの数のモンスターがいる。これら全部を始末するのは骨が折れそうだ。


「ど、どうツキオ? 見えたの?」

「ああ、バッチリだ。三階にはいない。だから今すぐ二階に降りて殲滅しようと思う。見たところほとんどがゴブリンやスライムっぽい奴ばっかだ」


 ただ一階の気になる部分には、ちょっと厄介そうな存在がいるが、それはまたあとだ。

 俺たちは廊下の中央付近にある階段から二階へと降り、透視の能力を駆使しながら、モンスターが少ない部屋へと近づいていく。


 扉は開いていて、中を確認することができた。

 この部屋にいるモンスターは一体で、ゴブリンが間抜けな顔をして床の上で寝ている。


 俺は音を立てずに忍び寄り、静かに両手で握ったナイフを静かに上げた。


 ……悪いな。


 そのまま真っ直ぐ仰向けに寝ているゴブリンの胸部へと突き下ろした。


「グガギャァァァァァァッ!?」


 悲痛な叫び声を上げてもがくゴブリンだが、すぐに力を失ってぐったりとした。


「す、凄いやツキオってば! 一撃で仕留めちゃうなんて!」


 一応ひまるの目を隠した阿川が、興奮気味に近づいてきた。


「実はこの透視の能力、モンスターの弱点みたいなものも見えるんだよ。心臓というか核というか。それを一突きすればってな」

「こんな感じで油断してるモンスターを次々と倒していく」


 言葉通り、透視のお蔭で俺はモンスターの背後をついたり、待ち伏せを成功させたりと、無傷でモンスターを討伐していった。


「はあっ!」


 俺が振るったナイフによって真っ二つになったスライムが床へと落ちた。全体が青色のゼリー状をしているスライムだが、たとえ真っ二つになっても身体の中央にある核を潰さなければ、すぐに再生してしまう。

 俺は再生する前に、剥き出してになっている核目掛けてナイフを突き出した。


 するとウネウネと動いていたスライムは、粘着質のある液体になって床へと広がっていく。倒すとこうなるらしい。凄く気持ちが悪い。


「……ふぅ。これで二階は掃除完了だな」

「お疲れ、ツキオ。少し休憩した方が良いんじゃない?」

「いや、透視には時間制限があるしな。このまま一気に攻略を進めていく」


 疲れてはいるが、まだまだ動けるうちに事を終えておきたい。

 口にしたように、そのまま一階フロアへと降りるが、階段のすぐ傍では三体のモンスターが徘徊しているようなので慎重に動く必要がある。


 しかも三体ともがゴブリンではなく、オークらしきモンスターだ。手には斧を持っている。三体同時に相手にするのはリスクが高い。

 二体が廊下の方へ歩き出し、一体がその場に残ったので、何とかそいつだけを誘き出したい。


「ツキオ、僕がやってみるよ」


 そう言うと、彼は翼を出して、例の羽ダーツを使って、モンスターの足元へと突き刺す。


「グフ?」


 ザッ、ザッ、ザッ!


 次々と等間隔で羽が床に突き刺さり、それが階段の上へと続いていく。

 するとオークは、羽が気になりあとを追ってきた。


「ナイスだ、阿川!」


 俺は息を殺し潜む。そこへゆっくりとオークが階段を上ってくる。

 そして近くに来た瞬間に、ナイフでその首を刈っ切ってやった。


「グプァッ!?」


 切られた首から大量の血液が飛び散らせながら、急に現れた俺を見て驚愕するオーク。それでもまだ絶命するまではいかず、その手に持った斧で俺を攻撃してきた。


 くっ、浅かったか!?


 太い脂肪のお蔭で、完全に切断とまではいかなかったのだ。

 避けなければと思ったが、斧を持つオークの右手に羽が突き刺さって、その衝撃で奴は斧を落としてしまった。


 ――マジで最高だぞ、阿川!


 やはり援護に特化した能力だと思いつつ、俺はオークが落とした斧を拾い上げ、奴の頭部目掛けて振り下ろした。

 回避する暇もなかったオークの頭部は割れ、今度こそ絶命してくれた。



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