第8話

 家を飛び出してきたのはいいものの、どこへ向かうべきかはまだ決めていなかったので、とりあえずは人がいるであろう場所のリストアップからした。

 学校、駅、大型ショッピングモール(デパートなど)、病院、商店街……。


「いろいろあるけど、人が多いってことは、それだけモンスター化した人間も多いってことかもなぁ」


 だとしたら逆にそれらは危険場所になるのかもしれない。

 こういう時、ネットが使えれば様々な情報を得られるのだが……。


「やっぱネットはできない、か」


 恐らくは〝イセカイウィルス〟のせいで、電波がおかしくなっているのだろう。というよりライフラインそのものが。


「映画とかゲームにみたいに地下シェルターとか近くにあればいいのになぁ」


 しかしそんな場所はない。あったとしても一般庶民の俺は知らない。

 国のお偉いさんたちは、すでにそういう場所に避難したかもしれないが。


「! ひまる、こっちだ!」


 俺はひまるの手を引いて、さっと脇道へと隠れる。

 何故なら目の前でうろつくモンスターを発見したからだ。


「うわぁぁぁぁぁっ!?」


 すると少し離れた家から住人が悲鳴を上げながら出てきた。後ろにはモンスターが追ってきていて、あえなく捕縛されそして……。

 俺はひまるには見えないように背後に彼女を隠す。


 ……やっぱモンスターは人間を食うのか。惨いな……。


 良心としては助けてあげたかったが、こちらもリスクを負うので、見知らぬ他人のためにひまるを危険には晒せない。

 俺はひまるを抱えながら、モンスターに気づかれないようにその場をあとにする。


 やってきたのは車が往来する大通りだ。

 そこでもやはりモンスターがいて、事故車が多数煙と火を吐いていた。地面には無惨な姿になった人間や、大量の血液がこびりついている。


 どこかしこも地獄だなこりゃ……。


 耳を澄まさなくても、あちこちからパトカーや救急車のサイレンの音も聞こえるが、この状況を何とかできるとはとても思えない。

 この光景がもし世界中に広がっているのだとしたら、まさに終末と呼べる時代に突入したことに間違いないだろう。


 それにまともな人間の数が少ないように思える。さっき襲撃されていた人間を見たっきりで、全然他の人と遭遇しない。

 ほとんどの人間がモンスター化したか、モンスターに殺されたのか。


 あるいは建物に立てこもっているということも考えられる。確かに息を殺して身を潜めていれば安全かもしれないが、それも一時的だろう。食料問題が発生するからだ。


 いずれ外に出て確保する必要が出てくる。だがそういう人たちは少し考えが甘いかもしれない。

 何故ならその頃には、すでに他の人たちに先を越されている可能性が高いからだ。


 こんな状況になったことで、無論コンビニや食料品店などは、真っ先に狙われる対象となるだろう。生きるためには食べていく必要があるからである。


 賢い者たちは、今まさに食料確保に向けて行動しているかもしれない。あまり長い目で見ていると、周りにある食料が根こそぎ奪われた後ってことにもなりかねないのだ。

 だからこそ俺もこうして動くべきだと思ったのだが。


「にぃやん、のどかわいたー」

「喉? ああ、ちょっと待ってな」


 俺はリュックからペットボトルの茶を取り出し、蓋を開けてひまるに手渡してやった。

 俺はその間、ステータスを開いて確認する。


称号:カードユーザー   レベル:Ⅰ    KP:3/100


体力:21/21(41)    

攻撃:16(35)

防御:13(33)

敏捷:11(30)

耐性:20(40)

幸運:65

属性:黒



 見れば少しだけ変化があった。

 KPが増えているのと、攻撃と敏捷がそれぞれ〝1〟だけ増加している。

 これは説明にもあったように、モンスターを討伐したことによる恩恵というやつなのだろう。


 つまりモンスターを討伐すればするほど強くなっていくというのは事実のようだ。

 すでにモンスターを殺している俺は、今更討伐することに躊躇はしないが、それでもやはり気分が良いものではないのも確かである。


 ただ襲ってくるのなら、こっちも容赦はしないということだ。

 俺は喉の渇きを潤して満足したひまるからペットボトルを受け、俺も三口ほど水分補給してからリュックに戻す。

 安全な道を確保しつつ、どんどん先へと進んでいく俺たち。


 そういや、この近くに近々取り壊し予定の廃ビルがあったよな?


 そこなら元々人気はなかったはずだし、モンスターもいないはずと判断し向かうことにした。

 しかし向かってみて頭を抱えてしまう。何故ならすでに解体されていたからだ。今はもう空き地になっていた。


 くそぉ……もう少し待っててくれてたらなぁ。


 嘆いていても仕方ない。ここは切り替えて別の場所を探すしかない。


「……一度学校に行ってみるか?」


 昨日、部活をしていた生徒や教師もいたし、モンスター化した連中もいるだろうが、学校は拠点としては申し分ない場所でもある。

 広さもあるし設備もいろいろ整っているから。それに勝手が分かっているので、いざという時に逃亡経路もしっかりと確保できる。


 そういうことで、俺たちは俺が通う【日々星高等学校】へ向かうことにした。



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