第9話
――【日々星高等学校】。
生徒数400人程度の、それほど大きくはない学校ではあるが、規模に見合わない巨大グラウンドや、プール施設や講堂に体育館も完備されていて、生徒たちは充実に学生生活を送れる環境が整っている。
また結構偏差値も高く、卒業者の多くは名のある大学へと進学しているのだ。
ただあまり部活が盛んな高校ではなく、その数もあまり多くない。ほとんどが同好会だったりして、のびのびとしたスローライフを送る生徒が多い。
実際部活で何か賞を、という話も本当に数えるほどしかない。
「やっぱりそれなりにいやがるな……」
学校の近くまで来たのはいいが、正門周りには、すでにモンスターがウロウロしており、外壁としてあるフェンスを通して見えるグラウンドにも多くのモンスターの姿が確認できた。
中には生徒がモンスター化したものもいるだろう。俺のクラスメイトだって。
特に親しいという奴はいないが、それでも普通に話すくらいの間柄ではある連中だ。それが一夜にして人間の敵になったのだから信じられない。
こっちはダメだと思い、今度は裏門の方へと回ることにした。
そこは案外モンスターの気配もなく、容易に近づくことができた。
裏門から中を覗き込む。ちらほらとモンスターはいるものの、侵入するくらいならできそうだ。
「ひまる、今から俺がいいって言うまで声を出しちゃだめだからな? あのバケモノに見つかったら大変なことになるし」
両手で自分の口を押さえながらコクコクと頷く。この子も一度怖い思いしているから素直に聞いてくれる。
俺はひまるを抱えると、周りを警戒しつつ素早く中へと入った。
目的地は、裏門から行けばすぐ近くにある部活棟と呼ばれる校舎である。部室や更衣室などがあって、比較的小さな部活関連の建物だ。
壁に沿って歩きながら、部活棟の入口ではなく、反対側にある外階段へと向かった。
ここから上に行けるし、俺が目指す場所へと最短距離なのだ。
幸いモンスターの姿はなく、そのまま階段を上っていく。
そして最上階の三階まで上がると、そこにある扉へと手をかける。
「……やっぱ鍵はかかってるか」
しかし想定内だ。
俺はひまるを下ろして、この子に誰も来ないように見張っててくれと頼むと、《フォルダー》を出し、その中から数枚のカードを取り出す。
「――オープン」
俺が持っていたカードが一つになり、そこには『OPEN』と刻まれたカードが生まれた。
そしてカードを扉に触れさせ、「――スペル」と唱える。
――ガチャ。
ロックが外れる音がして、ひとりでに扉が開き始めたので、慌ててノブを手に取って開くのを止めた。
いきなり開き切ってしまうと、もし向こう側に誰かいた場合、こちらの姿が見えてしまうからだ。
こうならないように、本来なら開錠する――『UNLOCK』とかの方が良かったのだろうが、同じ開けるならカード数が少ない方が利点があると思いこちらにした。
俺はゆっくりと扉を開き、その奥を覗き込む。
……よし、誰もいないな。
真っ直ぐ突き当たりまで通じる廊下にはモンスターらしき影はない。
この三階は文化部関連のフロアだし、昨日は部活があったとしても運動部くらいだろうから、ここには人は来なかったのだろう。
それでも元人間じゃないモンスターがいるかもしれないと警戒したが、その懸念は少なくとも廊下にはなかったようだ。
「ひまる、おいで」
ひまるの手を引いて中へと侵入し、すぐ傍にある扉の前に立つ。
当然その扉にもロックされているのだが、俺はポケットから一つの鍵を取り出すと、簡単にアンロックすることができた。
実は俺もある文化部に入っていて、ここがその部室なのである。
さらにいうなら、俺がその部長で部室の鍵をいつも持っているというわけだ。とはいっても俺のはスペアキーではあるが。
部室の鍵は、部活が終わると職員室に返さないといけないのが面倒で、いけないことだが黙ってスペアキーを作成したのだ。もちろんバレたら事ではあるが、こんなふうに役に立つとは思わなかった。
扉を開いて中へと入ってしっかり鍵をかける。
するとクイクイッと、ひまるが服を引っ張ってきた。
「ん? どうした?」
するとひまるが自身の耳をトントンと叩く仕草を見せる。
「ああ、悪い悪い。もう喋ってもいいぞ」
「ぷはぁ。ねえ、にぃやん、ここどこ?」
「しばらく住むとこだぞ」
ひまるが「ここで?」と言いながら周囲を見回している。
「ここがあたらしいおうち?」
「まあ……そうとも言うかな」
家というには今まで住んでいたところと比べても狭いが、結構使い勝手がある部屋でもあるのだ。
狭いといっても部屋数は二つあり、元々教室だった場所を改装していることもあって、ボロアパートなんかと比べると断然こっちの方が良い。
横の扉の向こう側には、仮眠用のベッドや、小さいがキッチンスペースもある。まあライフラインが完全に止まっているなら使用不能ではあるが。
そしてメインのこの部屋には、ベッドとしても使えるソファーがあり、大小それぞれの木製テーブルと、木製の椅子が四台、黒板の下に埋め込み式で設置されている横に長い棚には、様々な本がギッシリと詰められている。
また他にも壁には本棚が並べられていて、これまた本で埋め尽くされていた。
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