第6話

「……さてと、これからどうすっかなぁ」


 落ち着いたところで今後の動きについて考える。

 食材はまだあるし、飲み水だって問題ない。切羽詰まっている状況ではないのは確か。


 しかしいずれ枯渇し、外に出て回収する必要が出てくるだろう。

 ただ今、外出は死と隣り合わせにある。

 どこにモンスターがいるか分からないのだ。


「まあ、俺のスキルを使えば幾らでも補えるっていえば補えるが」


 そう、《スペルカード》を駆使すれば、どんな食材でも飲料でも、カードを対価にして入手することができるのだ。


「でもできるだけカードは無暗にそういうことで使いたくないしな」


 それは試行錯誤で明らかになった事実に起因する。

 この《スペルカード》。無から〝ナニカ〟を創り出すことは分かった。


 だが『ICE』や『GOLD』の時点では、物体そのものを創り出すことしかできないと思っていたのである。

 しかし――そうじゃなかった。


 俺が思っている以上に、この能力は幅広い汎用力を有していたのである。

 例えばこの目の前にある汚れた食器類。当然このあとは綺麗に洗剤で洗って汚れを落とす。それが一般的だ。


 でも俺が『WASH』――つまり『洗う』というイメージをしながら作ったこのカードを食器類に向けて使用すれば、一瞬で綺麗に洗った状態になるのである。

 また俺が怪我をした場合、今度は治すをイメージして『CURE』を行使する。すると瞬く間に傷が治癒するのだ。


 これは驚くべき発見だった。

 ということはだ、俺がイメージして造り上げた英単語ならば、どんなものでも現実化することができるということ。


 その気になれば、このまま宙に浮くことも、炎を生み出すことも、何ならテレポートだってできるかもしれない。


「とんでもねえ能力だよな……《スペルカード》」


 俺は《フォルダー》を開きながら嘆息していた。

 これほどまでに強力だとは思ってもいなかったからだ。つまりやろうと思えば俺にできないことがほとんどなくなる。


 問題は英語力次第。高校二年生レベルまでは知識としてある。ただこれからのことを考えると、もっと覚えておく必要があると思い、昨日は英和辞典を読み耽っていた。まあだからこその寝不足ということもあるが。


 そしてこの《フォルダー》についても分かったことがある。

 まずは昨日気になっていた、赤いファイルに収納されているカード――アルファベットカードを取り出すと現れるカウントダウンについて。


 これはどうやらカウントがゼロになると、新たなカードが誕生するという意味だったらしい。

 つまりAのカードを抜くと、そこには八時間後に新しいAカードが生まれる。


 そして取り出したカードだが、そのまま放置していると〝一時間〟で煙のように消えるのだ。合成したカードも同様に。


 実際昨日消えた時はマジ焦った。貴重なカードを落としたのかと思い探し回ったが、結果的に他のカードも消えたことで、実際に試してみて判明したのである。


 《フォルダー》には全部で七枚のクリアファイルがあり、前三枚の赤いクリアファイルは、元々カードが入っていて、次に青のクリアファイルが三枚、そして残り一枚の緑のクリアファイルはそれぞれ空白だ。


 赤以外のクリアファイルには、カードを入れたり出したりしてもカウントダウンは始まらない。どうやらこの四枚は、一枚ずつストックすることができる設定らしい。二枚以上は入らない。


 また緑のクリアファイルには、合成したカードだけを収めることができるようになっている。

 この青と緑のクリアファイルに収納しておけば、一時間で消えることはないようだ。


 ということは、時間をかけてカードを量産していくという手法は使えないということ。

 どうやら世の中そんなに甘くはなかったようだ。

 まあ、そんな制限でもなければ無限にカードを作れるし、確かに無敵過ぎだ。


 それと一枚だけ白紙のカードがあったと思うが、これはいわゆる何でもありのカード。どの文字でも一枚分を補ってくれる効果を持つ。

 例えばIとCしかない場合、空白のカードをを使えば、Eとして効果を発揮することができ『ICE』カードを創り出せるのだ。


 まだいろいろ俺が知らない機能とかありそうだが、それもおいおい解明していきたいと思う。

 それとカードの左上に書かれた数字についてはまだよく分かっていない。これも今後に期待である。


 俺は今、とりあえずはこの《フォルダー》内を満タンにしておくつもりだ。何かあっても対処することができるように。

 すでにストック分は揃っていないが、全部一枚分ずつは確保できている。あと四時間もすればコンプリートだ。


「……何か動き始めるとしたら四時間後の方が良いよな」


 外に出るのは危険だといっても、いつまでも部屋の中に閉じこもっているわけにもいかない。

 いくら万能な能力を持っているからといって、複数のモンスターが襲撃、あるいは理不尽な強さを持つようなモンスターが現れれば、俺が対処する暇なく殺されてしまうかもしれない。


 ならばどうするか。


 レベルがあるのなら、RPGのように上げるしかない。そうすることで強くなれるのなら、俺は嫌でもその選択肢を選ぶ必要がある。

 弱いままではひまるを守ることができないから。



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