第4話
「まあでも、もしかしたらって思うこともあるし。……一応試してみるか」
俺は『ICE』カードを手にし、
「発動! オープン! リリース! オン!」
などといろいろな言葉を口にする。だがウンともスンとも言わない。
「コレじゃないってことか? ……じゃあ単純に――スペル!」
これでどうだと思った瞬間、カードがまたも発光しボボンッと白い煙が出現し、そのあとに驚くべき光景を目にすることになった。
「お、おお……まさかって思ってやってみたけど……!」
俺の手の中には、さっきまであったカードは失われていて、代わりにヒンヤリとするものがそこにあった。
それは例のアイス屋で大人気のカップアイス(ストロベリーチョコ)。そのものが俺の手の上にチョコンと載っていたのである。
「……ん……んぅ……? に、にぃ……やん? ああー! それアイシュー!」
何故このタイミング? とばかりに目覚めた我が妹は、カップアイスを目にして大急ぎで詰め寄ってきた。
「にぃやん! それ! それアイシュ! ひまるのは!?」
「え、えっと……」
どうしようか。ていうかコレ……本物のアイスなのか?
「ちょ、ちょっと待ってな、兄ちゃんも一口だけ食べたいし」
「えぇー!」
「大丈夫! 一口だけだから! あとはぜ~んぶひまるのもんだからな!」
「うぅ……ほんと?」
「ほんとほんと。だから、な?」
「……ひとくちだけだからね?」
こうして許可を頂いた俺は、このアイスを口にせざるを得なくなった。
ええい、妹のために毒見くらいしろ!
俺は小指でチョイッと掬うと、そのままパクリと口へと運んだ。
口の中に甘い口溶けとともにイチゴの柔らかな酸味が広がっていく。
これは間違いなく、あの店に売っているアイスで間違いない。
「ねえねえ! ねえねえ! はやく! はやく! ひまるもー!」
「あ、はいはい。今スプーンを持ってきてやるからちょっと待ってな」
「はやくねー!」
俺はカップアイスを手に持ちながら、部屋を出てキッチンへと向かう。
その間にも、俺の視線はカップアイスへと注がれていた。
「マジで本物……だよな? つーことはやっぱ俺の考えてた通りのスキルってことか?」
仮説ではあったが、これで確証を得ることができた。
実際にこうして本物を手にしているのだから疑いようはない。
俺はスプーンを持って自室へ戻ると、餌を待つ燕のヒナのように待ち焦がれていたひまるは、俺からアイスを受け取るとすぐに食べ始めた。
「んーおいちー! ひまるねー、これすきなのー!」
「そっか。良かったな」
幸せそうなひまるを見てホッとする。本物で良かった、と。
もし偽物なら、どうやってご機嫌を取ろうかと考えていたから。
にしても……だ。
俺は《フォルダー》と、『GOLD』のカードを手にしながら思案する。
これまでの状況を整理するに、この《スペルカード》というスキルは、収納されているカード単体では意味を為さない。
英語のスペルを示す複数のカードを手に取り、英単語を口にすることで初めて使用可能となるのだ。
つまり――。
俺はひまるに背を向けながら、『GOLD』カードに意識を集中させ「スペル」と唱えた。
すると『ICE』の時と同じ現象が起き、俺の手の中には一万円札があった。
「わ、わお……!」
このようにイメージしたものを生み出すことができるってわけだ。
しかしどこまでのイメージを創造してくれるのかは、これからの課題だろう。
今、俺は一万円札をイメージしたが、『金』は、そのまま金そのものだってイメージできるし、他の貨幣だってそうだ。
それにもし俺が一億円を想像していたら?
思わずゴクリと喉が鳴る。だってそうだろう。もしそれが実現できたら、俺は一気に大金持ちになるのだから。
実際にこうして無から金を生み出したわけである。一万円の利益を得たのだ。働いてもいないというのに。
だからこそ、このスキルでどこまでが可能で、できないことはどれだけあるかを確かめていく必要がある。
……ワクワクしている自分がいる。
さっきまでは魔法じゃないとか凹んでしまっていたが、これはこれで物凄い汎用力のある能力だ。
「……これを使えば、ひまるだって守れるかもしれない」
まだこれも仮設の域ではあるが、何となくこのスキルならばできるような気がする。
そしてそれが実現できるのならば、モンスター渦巻くこの世界から、ひまるを守り続けることが可能だろう。
なら俺は、できるだけ早くこのスキルの全容を掴んで使いこなす必要がある。
俺はいまだ美味そうにアイスを食べているひまるへと近づき、その小さな頭を撫でる。
「んぁ?」
「ひまる、お前は絶対に兄ちゃんが守るからな」
それが家族として、兄としての役目だから。
そうして俺は、変わり果ててしまった世界の中で、改めて妹を守る騎士になることを誓ったのであった。
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