第3話

「………………どういうこと?」


 俺は訳が分からず、とりあえずAのカードを、上にスライドさせて取り出してみた。


 ……うん、普通のカードだ。


 表にはデカデカと中央に〝A〟と書かれており、何の説明も書いていない。強いて言うなら、左上には円の中に〝1〟と数字が書かれていることだろうか。この意味も当然分からん。


 また裏は、墨を塗り潰したかのように真っ黒で、ところどころ血管みたいな赤い筋が刻まれているデザインだ。このデザイン自体はシンプルでちょっとカッコ良いけど。


「さて、これがどう呪文と結びつくってのか……って、ん?」


 そこで気づいたのは、元々Aのカードが収められていた箇所だ。


 7:59:48


 いつの間にか数字が刻まれていて、三つ目の数が一秒ごとに減っていっている。


「……何のカウントダウン? これって約八時間後に何か起きるってことだよな?」


 俺は何気なくAカードを元の場所に戻すと、カウントダウンが消失した。そしてまた取り出すと、8:00:00からカウントダウンが再開する。それは他のカードでも同様だった。

 やはりカードを取ったことにより起きている事象のようだ。


 ……分からん。とりあえず時間に関しては置いておこうか。


 俺は《フォルダー》から数枚のカードを取り出し手に取ってみる。


「A! C! E! I! K! N! V!」


 とりあえず持っているカードに刻まれたアルファベットを口にしてみた。呪文を唱えるみたいに。


 まあ……何も起きなかったんですけどね。


「う~ん……どういうことだよ。マジでミステリーじゃんか……」


 それから投げてみたり、天にかざしてみたり、大人気トレーディングカードゲームみたいに、「召喚!」とか言ってみたり、いろいろ試してみたがすべて空回りに終わった。


「ああくそ! わっけわかんないぞぉ!」


 俺はカードをベッドの上に叩きつけると、そのままベッドに仰向けに寝そべり天井を見上げる。

 すでにひまるからは規則正しい寝息が聞こえてきていた。


「世界が大変なことになってもコイツは平和だよなぁ」


 まあ五歳児なんだから当然っちゃ当然だけど。


「そういやあそこのアイス、当分食わせてやれなくなったな」


 下手をすれば一生だ。駅前ということもあって人気で、特に女子中高生や子供には爆発的な知名度を誇っていた。

 俺も食べたことはあるが、美味いのはもちろんのこと、舌触りが良いというか若干粘り気のようなものがあるのが特徴で、それが癖になるとSNSでも話題になっていたのだ。


 きっと店員の中にもモンスターに変貌した連中だっているだろうし、そうでなくとも、あんな場所で商売を続けようとは思わないだろう。

 一応チェーン店ではあるので、他の場所へ行けばあるいは……だが、世界中がこの街のように大パニック状態になっているのなら、アイスを買いに行くなんてできるわけがない。


「……アイス、かぁ」


 何となくベッドに散らばっているカードに視線を向ける。

 そして、C、E、Iのカードを手に取って順番に並べ替える。


「……『ICE』、これでアイスだっけか?」


 するとその直後、三枚のカードが発光したと思ったら、俺の手の中で重なり一枚のカードに融合してしまったのである。


「…………へ?」


 今、俺が手にしている一枚のカードを見て呆けてしまう。

 そのカードには大きく『ICE』と書かれていて、左上の円は青く塗り潰されていた。


 突然の出来事に思考が定まらず固まっていたが、俺は上半身を起こして、『ICE』のカードをマジマジと観察する。


「何で? 三枚が一枚になったぞ……どういう原理だ?」


 当然疑問を口にしても誰も答えてはくれない。

 俺は三枚のカードを手に取って『アイス』って言っただけだよな?


「……まさか」


 確証はまだないが、恐らくと思った仮説はある。

 ベッドの上にある残りのカードを手に取って、もう一度『アイス』と口にしてみるが何も起こらない。


「……それじゃあ」


 《フォルダー》からまた新たにカードを加え、四枚をその手にした。


「…………ゴ、ゴールド!」


 するとさっきと同じような現象が起き、四枚のカードが再び融合して一枚に変化したのである。

 そしてそこには――。


「マ、マジでできた……『GOLD』のカード」


 つまりは『金』。お金をイメージして口にした言葉だ。


「どうやらコイツは、作りたい英語の綴りにあるアルファベットを持って唱えりゃ、その綴り通りに一体化するってことか…………だから何?」


 徐々に判明してきた《スペルカード》の使い方だが、それが分かったところで何になるのかサッパリだった。


「……あ、そっか……そういうことかぁ……! ああくそ……やられたわ。スペルって呪文じゃなくてスペリングの方だったのな」


 確かに英語の授業で、よくこの単語のスペルは……とか教師が言うし、俺たち生徒だってスペルや綴りって言葉をよく使う。


「いやでもなぁ……《スペルカード》って聞いて、普通浮かぶのは魔法だろ? 何でそこで英語のスペルなの? 嘘だろ?」


 期待外れもいい加減にしてほしい。天国まで持ち上げられ地獄にまで叩き落された気分だ。




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