第2話

「モンスターを討伐って……あの人たちは元々は人間だろ?」


 だが強くなるには、彼らを討つ必要があるようだ。


 俺に……そんなことができるのだろうか。


 向こうは俺たちのことは敵や餌としか見ていないかもしれないが、それでも同じ人間だったというのが、どうにも引っ掛かりを覚えてしまう。

 ただモンスターの中には、元人間でないものだっている。俺は街路樹やコンクリートがモンスター化したのを見た。もし倒さなければいけないのであれば、そういった情が湧かない相手の方が当然良い。


 ……いや、今はとにかくできることをしよう。


 俺はパラメーターを調べることにした。こちらも文字通りの意味だ。ただし()の部分は重要な要素だった。

 これが上限らしく、モンスターを討伐することにより、それが経験値となって、少しずるパラメーターが上がっていくらしい。


 しかしどれだけ経験値をもらっても、上限に達してしまえばそれ以上は上がることはない。

 つまりそれ以上強くなりたければ、KPを貯めてレベルアップしないといけないということだ。


「なるほどな。よくできた嫌なシステムだ」


 どうやら包帯男は、守りたいものがあれば、強くなりたければ、どう足掻いてもモンスターを殺さないとできないぞと言っているようだ。

 そして幸運は、日々に応じて上下するランダムパラメーターとなっているらしい。その上限もレベルアップでは突破することはできず、最大で100が限界値らしい。


「この属性ってのもよく分からんよなぁ」



属性


 赤、青、緑、黄、白、黒の六属性。森羅万象すべてのものに存在する性質。属性には相性がある。赤は緑に強く、緑は黄に強く、黄は青に強く、青は赤に強い。そして白と黒はそれぞれが強みでもあり弱みでもある。相性の良い相手と戦闘する時は、ダメージを受ける率が減り、与える率が増える。無論その逆に悪い相性が相手の時は注意すべし。



 どうやらゲームみたいな仕様になっているようだ。


 その中で俺は――黒。つまり白の属性に対しては、ダメージ量は増えるものの、逆に受けるダメージ量も増えるようだ。

 属性に関してはまだピンときていないが、今はそういうものだということだけを理解しておこう。


「そんで最後だ……これが一番気になってた。ちょっとワクワクしてるな俺」


 理由は明白だ。


 《スペルカード》――この言葉を見て真っ先に連想したのは〝呪文〟。つまりは魔法を扱えるのではないかということだ。

 何故ならスペルというのはそういう意味だったはずだから。


 俺の予想では、様々な呪文の効果を持つカードを駆使することができる能力だと思っている。

 これは応用範囲も広がるし、何よりもゲームや漫画好きの男にとったら間違いなく〝当たり〟の力だろう。俺も例外じゃない。だからステータスが現れた時は、無論戸惑いはあったが、このスキルに関しては嬉しかったりもする。


 俺は一体どんな魔法が扱えるのかと思い、ドキドキしながら文字を指で押した。



スペルカード


 すべてが謎に包まれたミステリースキル。ユニークスキルよりも稀少で、ほとんどの情報は失われている。使用方法は自身で学ぶしか方法はない。


「…………おい」


 思わずツッコんでしまうほどガクッと肩を落としてしまった。

 説明文を読むのを楽しみにしていた俺の気持ちを返してくれ。


「てか何だよ《ミステリースキル》って……はぁ。とりあえず意識して名前を呼んでみれば何か起きるかもな。……《スペルカード》!」


 これで何も起きなかったらかなり恥ずかしい思いをすることになるが……と不安だったが、どうやらその懸念は払拭された。

 俺の言葉に呼応するかのように、目の前に突然あるものが出現したのである。


 それは真っ赤な革で作られ、ボタンで閉じられている《フォルダー》のようなもの。ノートパソコンくらいのデカさで、結構大きい。

 俺はどういう原理か、プカプカと宙に浮いているソレを手に取り、ゆっくりとボタンを外して中を確認する。


 恐らくこの中に、例の《スペルカード》が収納されているのだろう。

 だが開いて思わず目を疑ってしまった。

 確かにそこにはカードが収納されている。中には、赤、青、緑と色分けされた数枚のクリアファイルがあって、赤いファイル一枚に、それぞれ九枚ずつカードが収められていた。


 だが別にそこは驚きでも何でもない。俺が驚愕……というか困惑しているのは、そのカードそのものだ。

 左上から横にA、B、Cとあり、次の段の左から順にD、E、F、そして最後の段にも同じようにG、H、Iとだけ書かれたカードがあるだけ。


「……何でアルファベット? え? 呪文は? 魔法は?」


 他のページも見たが、やはりアルファベットの26文字分が収められているだけ。そして最後の二十七枚目に至っては何も書かれていない白紙のカードが配置されている。



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