第1話
「――お分かりかな?」
テレビ画面から流れてくる野太い声音に、俺の硬直していた思考が再び動き出す。
「まずはおめでとうと言っておく。目の前にステータス画面が現れた者たちこそ、この私とともに選ばれた者――『新人種』だ」
そして――と、包帯男はそのまま続ける。
「ステータスを持たない者は、残念ながら『新人種』足り得ないガラクタとなる。まあガラクタのうち一方は、すでに私の言葉も届かないモンスターと呼ばれるケモノに成り果ててしまっているがね」
……!? つまりウィルスには即効性があるってことか? じゃあまだ何も変わってないひまるは……!
俺はひまるを抱き上げて横に座らせ、
「なあひまる、ステータスって言ってみろ」
「? しゅてーたしゅ?」
「……ここ、何かここに出てないか? えっとテレビ画面みたいなやつが」
五歳児にこれで通じるか分からないが、ひまるは「でてない」と頭を振るだけ。
これは噛んだからなのか、それとも奴の言う『新人種』じゃないのか、ちょっと判断がつきにくい。
「そして『新人種』でもモンスターでもないガラクタのもう一方こそが――〝餌〟だ」
「え……さ?」
えさ、というのは恐らく餌のことだと思うが……。
「餌とは言葉通り、生物が自らの糧とするための食料のことだ。この世界においては……モンスターのな」
「!? モンスターの……餌だと? ひまるが……!?」
「モンスターは『新人種』の天敵にして、餌を求める獰猛な生物だ。そして餌は『新人種』なしではこの世を生き抜くことはできぬであろう。これが――新世界の摂理となる」
するとテレビ画面の向こう側にいる包帯男は、おもむろに両腕を広げながら言う。
「さあ――存分に踊り狂え、世界よ」
プツンッと、音を立てて電源が落ちたかのように画面が黒くなる。
それからはただただ静寂が続く。いや、耳を澄ませばあちこちから悲鳴や怒号などの様々な音が聞こえてくる。
俺は呆然と立ち尽くしながらも、自分の目の前に現れているステータス画面に視線を落とす。そしてそのままひまるを見る。
「にぃやん? どしたん?」
「……! いや、何でもないぞ。なあひまる、どこか痛いところとかはないか?」
「うん! ひまるげんきー! あ、でも……」
「な、何だ!? どこか具合でも悪いのか!?」
「ううん…………アイシュ、たべたかったの」
「……あ、はは……ああ、そうだな。うん、アイスはまた今度買ってきてやるから、今日は我慢してくれ」
どうやら体調などに変化はないようでホッとした。
にしても、と俺は考え込む。
ひまるにはステータスが無かった。それはハッキリとした発音じゃなかったためなのかどうかは分からない。
だが最悪な状況だけは逃れられたような気がする。
少なくともこの子がモンスターには変貌しなかったのだ。
ただ餌だとしたらどうだ? 包帯男はモンスターに狙われるようなことを言っていた。そして餌は『新人種』がいなければ生き残れないとも。
……いや、そんなことどうでもいい。何があってもコイツは俺が守るだけだ。
しかし現状、あんな凶悪そうなモンスターと戦って勝てるとは思えない。
ということは、やはり……。
「コイツの解明をしなきゃならないってことだよな」
ひまるを守れる武器になるかどうかは、このステータスが鍵となる。
「ねえ、にぃやん、ひまるねむたい」
「ん? ああ、寝ていいぞ。夕飯ができたら起こしてやるから」
「これ、とっていい?」
ああ、マスクか……。
「……いいぞ。兄ちゃんも取るしな」
「ん……じゃあクマたんといっしょにねるー」
マスクを取ったひまるは、ぬいぐるみを抱いてベッドに横になった。
この子は寝つきは良いからすぐに舟を漕ぎ始めるだろう。
俺はベッドに腰かけ、ステータスを調べることにした。
まず気になるのは最初からだ。
この【称号】に書かれた『カードユーザー』というのが初っ端から分からない。
何気なく指で文字を押すと、別画面が開いた。
カードユーザー
カード系スキルを扱う者が有する称号。
「……え? それだけ? じゃあ【称号】は……」
そちらを押すと、同じように別画面が現れる。
称号
ステータスを持つ者に与えられる呼び名。それぞれの資質に合わせ命名されている。
なるほど。つまり『新人種』すべてに存在する名前ってことだな。
次に俺はレベルを調べてみたが、これは俺の予想とはかけ離れた答えではなかった。ただマックスが〝Ⅹ〟というのが気にはなった。
俺の概念じゃ、レベルというのは1から始まって、経験値が上がっていくと大体が100くらいまでを限度にしてレベルアップする。
それが〝X〟ということは、数字にすると〝10〟までしか上がらないということだ。
「成長幅が狭いってことなのか?」
ただ次の〝KP〟の説明を見て、これがレベルアップに関係していることが分かった。
モンスターを討伐すると得られるポイント。モンスターには、それぞれ強さに応じてポイントが振られていて、自身の手でキルすることによって、そのポイントを得られる。限度まで貯めるとレベルアップすることが可能。その都度、パラメーターの上限をアップすることができる。
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