保障期限切れ

『監視級識別ID、{SS-19}......ルア』

 メガネ”だった”少女はそう言った。

「キャディさん...?」

 ルアには理解できなかった。撃たれたのだ...仲間に。

『もう私に”さん”付けするのは君に悪いよ...今から敵だからね、呼ぶならスポイラー4って呼びなよ』

「それは...。」

『あぁ、私も無論監視級だよ...でも命の保障はされてる。起動監視課ってやつだ...それの特例部門的な? スポイラーって言うんだ、さっきまで騒いでたこのドMS野郎もそうさ...こいつと同じ区分ってのも、気が引けるね』

 キャディはそうルアに諭した...。もう仲間にはなれない事を

「あ...。わ...分かりました。旅は、えと...もう。はい。」

『ふん...悩む暇があれば撃ってみればどうだい? そこのカスを...』

『おぉい! そりゃないだろう!?』

『少しは頭を使わないか? もう弾き飛ばしたよ...銃は』

『冗談きついな! とうっ!!』

 男は飛び上がった。

 そのままルアを蹴り飛ばすと首の骨を鳴らしてキャディの元へ...

『あ! 名前伝えなきゃね! 僕はスポイラー2のなんだけど...あれ、名前なんだっけかなぁ』

『私も知らんよ...』

『まぁいいや! スポイラー2だ! それ以上でもそれ以下でもない! さて...』

 手持ちのナイフ拳銃を確認した後...

『続きやろうかぁ!』

 宣言と同時に直ぐに懐に入ってくる。

 目はいいとは言えルアには捉えられなかった。

「うぅぐっ!?」

 綺麗に吹き飛ばされた。

 着地地点には...

「いたい...」

「ぴ...ピシーさん。」

 ピシーと呼ばれたどこかの制服のような姿の少女...

「状況を言います...キャディさんが敵に。気持ちが悪いのも...まだ生きてます。」

「うん...」

「正直言うと、僕はあの気持ち悪い奴に勝てないと思います。策も尽きました...。ピシーさんには僕が...キャディさんの、動きを止めるまで時間稼ぎ...を頼みます。あと拳銃取れますか...?」

「わかった」

 ふぅ...と息を入れるとピシーはよろりと立ち上がる。そして直ぐダガーを投げた!

 飛んで行ったダガーは男の目の前をかすめる。

『あぶねっ』

 その目くらましの隙にピシーは大移動、向かった先は星の灯りを反射するL字の道具...

「これ...」

 ピシーは小さい手で掴み上げるとそれを丁度後方へと放った。

 ぼす!

 と草原に落ちたそれは最も近い人物の、真っ赤で優しい左手で拾い上げられ...

「やりましょう...。僕はここで終わりたくないんです。」

 第二ラウンドの銃声ゴングが鳴った!

 ルアは左手に収まった拳銃から、情けない音を肩まで届く髪を持つメガネだった少女に向けて叩き出した。

 ぱすっぱすっ!

 放たれた弾は真っすぐと飛んだ。本来の反動の少なさと、丁寧に手入れされた組織、そして負傷したとは言え完全なまでの集中を見せたその主によって、本来のポテンシャルが現れ、その炎は狂いなく目標スポイラー4に向かう。

 きゅっ!

 だがどうか...掠る様な音だけを経て結局は外れてしまった。

『残念ハズレだ』

 スポイラー4は歩きだす。

「......!」

 ぱすっ!

 然しそれる。

 夜目が効いてきた頃合い、コンディションは何故か抜群というのに当たらない。

「ぐっ...。」

『おしまいか? まぁ弾の無駄だから...やめたほうがいい。いや、撃ち切ってもらった方がお得か? なんにせよ当たらないよ。私が監視級と言われる所以だ...私には未来が見える。それも、私が望む未来へ進む為のベストナビゲーションだ。』

 スポイラー4は声を張り上げる。余裕だ。


「どうにか...。」

 キャディに対する攻略法だけがなにも無い...能力のネタバレはされたが、

「でも試す事なら...。」

 小声でつぶやくと

 ルアはスポイラー4から遠ざかるように走った。スポイラー4もそれに応じて走り寄ろうとする。

 そして、

 ぱすっ! ぱすっ! ぱすっ!

 放った弾は地面に着弾する。

 瞬間地面は盛り上がり、スポイラー4の軽めな身体を吹き飛ばそうとした! 現れたのは大岩だった。

 紐を取り付け回収できるようにしていた、岩を取り込んだ第二類書物を予め設置しておき、それに当てたのだ。

 走っていたスピード、走ってきた角度、ジャストだった。

 然し避けられてしまった。というより弾を撃った瞬間には相手が立ち止まっていたのだった。

『小細工を仕掛ける...』

 そして次、発砲!

 ぱすっ! ぱすっ! ぱすっ!

 見当違いな方向に発射。

『何か言ったらどうだー』

「僕はちょっと当てるために考えないといけないんで黙っててください。小細工の意外に弾も撃てませんよ!!」

『ふん...』

『おぉい!! 銃声うるせぇんだ、さっさとやってくれ! 4!!』

『したか?』


 この瞬間、ルアは気づく。

 消音器で消されたはずの銃声に反応したのは魔力強化されてるらしいあの男だけだ。しかしキャディの答えは「したか?」...聞こえていなかった。音が...そもそも双方、ある程度声を張らないと声が届かない。なのに避けたのだ。しかし、岩はかなり余裕での停止だった...撃たれる直前に止まっていたのだ。全ての事が予測されている。しかし、何が起きるかは検討がついていない!! つまり完全な予測能力ではなく...最善択で都合のいい未来に進む為の事前告知だけされる能力...。そして予想外には対応できるがその答えは分かっていないのだ。

「つまりそれは!! まだ...まだ、確定していない未来があるという訳ですね?」


 EXT

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