消えた道

 がうっ!

 そう聞こえてきそうな勢いでピシーは手に持ったダガーで噛みつこうとする。

 怯ませるまでは余裕、しかしその先の進展がない

『ははぁ! たのしいぞ!』

「.........」

 金属が擦れ合う音は鳴る度に後味の悪い残影を耳に置いていく。

 だが嫌がった所で逃れることはできないと、ピシーは理解より簡単に本能で知っていた。

 ひゅっ!

 男の高い振りを消えたかのように見えるほどに、姿勢を低くして避ける...そこからのダガーを逆手に持った状態でのアッパーカット。

 不意をとったつもりだったが本当に”つもり”で終わってしまう。

 後ろへの簡単なステップ、そこからの跳躍、宙で一回転してからの踵落とし。

 質量も加速も十分だが真正面から拳で弾かれた。

「......」

 いつも無感情なピシーでさえフラストレーションが溜まってくる。

『やーい、やーい! 効いてる? 効いてるねぇ??』

「.........」

 ピシーはペースを上げる。

 足払い、再び足払い。ブレイクダンスのように自信の体をぶん回し、確実に態勢を崩す。次の行動に出る直前、ピシーは腕力にまかせ少し跳ね上がると倒れ始める男に上方からすかさずダガーを突き立てる。

『わおだよ!』

 確定コンボにも見えたが男は倒れながら頭を地面に”意図的に”打ち付け、その反動で起き上がる、上から迫りくる二本のダガーに向かうように起き上がる、そしてそのまま体に深くダガーは突き刺さった!

 だが、男が注視するのはダガーではなくその先の少女だけ。

 ダガーの痛みに目も、いや感覚もくれずに直立すると上下逆さのピシーの細いウエストを抱き掴む。

『つかまえたっ!』

「............」

 ピシーは脚を即座に縮め、男の頭を蹴りつける

『はははぁ!!』

 しかし男は痛がる素振りすら見せない。

 それどころか...

「......つッ!」

 抱えた上下逆さまの少女に顔面を蹴られ続けながら微動だにしない男。

 彼はそのまま万力の様にゆっくりと力をかけ始めた...

 それは、強靭な肢体を持つ狂種バーサーカーですら苦しめ始めた。

「うがっ...!」

『君の選択ミスだっ、よ...だってあのとき慢心がっ、あったろう? てかちょっ、とピりツっ...イてたろう? そんなんだっ、から...つ か ま る の !! わかる?』

 蹴られたときにセリフは飛ぶが、それ以外はいたって平然と言葉を並べ続ける。

「わぅ......!!」

 きりきりと締め付ける...ピシーの肉体の何か、どこかが破裂する。

 ぐじっ...

 そんな音。

 そして...

 ぱすっ!

 こんな間抜けな音が鳴った。

『ん? なんかあたっ...』

 ぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱす!!

「そのぼったちも...! 判断ミスじゃ...ないでしょうかっ!!」

 男の顔面左側面にいくつか穴が開く...さすがに意識外に置けなくなり、ピシーを草むらに投げ捨てるとその間抜けな音へ向き直す。

『ありゃあ、来たの? 大量出血で死んでれば死なないのに?』

「意味不明です。 ホントに...。」


 ルアは心の底からその男を睨んだ。

 ここで持てる手持ちは昔から愛用している拳銃だけ、今銃に入っている弾は無い。

 放った弾のうち当たったのは6、7発程...片手の射撃ではブレもひどい、そして応急処置をしたとは言え、血も完全に止まりきっていないその右腕は銃の支えには役に立たない。ピシーに当たらなかったのは奇跡だ。マガジンをその場に落とし、まだ役に立つ右腕の脇に挟んでいた予備マガジンをなんとかはめ込む。

「だあぁ!!」

『あの子にあたったらどうするのぉ!! まぁいいけど!!!』

 男は叫びながら一目散にルアへ走り出す。

 銃のマガジンが完全にはまり合う前に男はもう接近していた。

「...ッよらないでっ!!」

 ルアの上げた声は悲鳴に近かった。

『情けないんばぁ!』

 完全に射程に捕え男は銃型ナイフを振り下ろす...

 ルアは3発程発砲するがすべて足元に落ちた。

 だが、突如として男の踏みしめようとした地面は消滅した。

『おぉ!?』


「格納魔法ですよ? 知りませんか? 僕は使えませんが。」

 ルアはそう言うと男は理解する。

『なんか捨てたと思ったら...! 第2類のなんかかッ』

 先、ルアが捨てたマガジンには男の言う通り第2類のなんか...そう、使い捨ての第2類魔法書物の1枚を食い込ませていたのだった。ルアはギリギリまでひきつけたタイミングで悲鳴を上げて意識をそらし、うまくタイミングを合わせてそのマガジンを撃ち抜き、着弾のエネルギーでその魔法書物に刺激を与え発動。

 その魔法書物の保持していた魔法は格納魔法。逃走時に踏んだ埋まった岩を思い出し、それをタイミングよく格納することで簡易的そして突発的な落とし穴のトラップとしたのだった。

「岩が思ってたより大きかったですし...弾が上手く当たって良かったです。 

 では死んでください。」

 ちゃこっ...


 ぱぅん! 

 銃撃音が響いてルアの手の中の拳銃が吹っ飛んだ。

「!?」

 振り向く。

 月明りに照らされた人影

 それは言った。

『きみは...ヒトを信じすぎだよ 少年くん、いや...』

 そうしてそのセリフの持ち主は手に持っていたメガネと帽子を足元に放った。

 冷たい夜の風に纏めていたせいで分からなかった、以外にも長い髪がなびく。

 細く、鋭い眼光がルアを見つめた。

『監視級識別ID、{SS-19}......ルア』


 EXT

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