追撃

 そう、逃げ出した...だが現実はやはり甘くは無かった。

 しかしそれに現実味なんてなかった。

『やあ! こんばんは!』

「ッ!?」

 窓に映る人影はそう元気に(くぐもって聞こえたが...)、人として大切な事である挨拶を繰り出した。

 パンクしたタイヤにもかかわらず時速80km強で駆ける一台の黒い鋼の馬にソレはへばりつきながら...。

 運転席に収まる少年、ルアは酷く驚いたが、運転は止めない。この窓越しの”生物”はヒト型には収まらない力を持っていることは火を見るより明らかだったからだ...。

 止まる気が無いと見るや、ソレは大口径のリヴォルバーを取り出すやいなや、迷わず窓に引き金を引いた。ホルスターにはまっている時点で引き金を引くだけになっていた。

「しまっ。」

 ばっすふぉおおおん!!!

 貫通も貫通、窓の一枚どうってことないぞと吹き飛ばし、ルアの右上腕をノリで抉り取った。

 ハンドルの力の向きが変わり一瞬大きく車体が振れる。

 何やら楽し気に、その窓越しでなくなった男は、銃口から硝煙の上がるリヴォルバーを眺める。

『うぉっとぉ! 運転あぶないね...とはいえすごいなぁ!! 新しくしてもらってさぁ!! きみのあいばも、僕のリボルバーもっ』

 妙にワクワクしたようなその喋り口、

「あなたは...。」

『覚えてたぁ? うぉ』

 その気色の悪い笑みを掠ったのは一本のダガーだった。

「ころす」

 助手席から男の顔面をかすめ飛んでいったダガーは空中で消滅。光がその投げた主のところへ戻っていく。

 細い手でその光を掴むのはピシー。

 戻ってきた瞬間に彼女バーサーカーはひびの入った左のドアの窓を蹴破ると窓枠の上部を指だけでつかみ、遠心力でするりとルーフ上を越える。美しく、そして凶悪に男の後ろに回り込むと輝きの後にダガーを発生、深々と男の背中に突き刺し、そのまま二人もろとも流れる草原へと落ちて行った。

「まずい...!」

 急いでブレーキをかけ、停車する。飛び出て行った彼女達を追う。


 ばっふぉおおおん!

 ばっふぉおおおおおん!!

 酷く鈍い音が次々と闇に吸われていく。

「ぐぅっ...!!」

「少年くん!」

 半分ほど吹き飛んだ上腕ど真ん中からドクドクと飛沫を上げる血液。

「止まって...! 簡単な応急処置だけどっ...」

 キャディは車から新品のウェスを取り出すと強く患部に縛り付けた。

「ありがとうです...。」

 目線を前に向けるとルアは再び走り出した、慎重にそして急いで...。

 近づくに連れ強くなる銃声。

 一方通行で宇宙そらに消えていく銃声。

『いいねぇ...いいねぇ!! 素で強いんだ君ね!! 面白いねぇ、ばーさーかーとはいったものだぁ...』

「だまれしね」

『でもねぇそれよりも倍々で強いよぉ...大した鍛錬積まずにねぇ才能のうちだねぇ? 僕は天才とかそういうの嫌いだからサ、死んでもらわないとちょっと困るの』

「......」

『ギルドはその分いいよ? お金と飯と頑張りと調整で僕を望みのチカラへと仕上げてくれた!!! 技術という努力の結晶でさぁ!!』

「ちっ」

 ばっふぉおおおん!

 ばっふぉおん! ばっふぉおおおん!

「ッ!」

 ピシーが動く。六発の弾丸を放ち終えたその一瞬を逃さない。

『よぉっとぉ!』

「ふっ!」

 かい―んッ!

 金属が火花が散りそうな勢いでぶつかる。鳴る甲高い音!

『ざんねんナイフでした!』

「しらない」

『そりゃあ君にはみせてないかr...!!』

 突如光を放ち、男が受け止めていたはずのピシーのダガーが消失。

 そして...

 ざうっ!!!

『ギャアッ!?』

 再展開。

 瞬間的な格納魔法による鍔迫り合いの一方的な無視キャンセル

「つぶれてっ」

 深々と喉元に刺さっていく一本のダガー...

 ある程度まで行ったところでピタリと男の動きは止まった。

 血飛沫が舞う。しかしそれを確認するにはあまりにも光が足りなかった。

 べたべただけが残る。

 どさっ!

 雑に蹴り、突き飛ばした男に

「さわるな...わたしたちに」

 狂少女バーサーカーはそう告げた。


EXT

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