フェイストゥーフェイス
るるるるるる...かっかっかっ。ととん!
「今日はここでキャンプです。前回の襲撃の件もありますから。見張りを付けましょう...。」
黒い鋼の馬の扉を開き、高い車高からヒョイと飛び降りる一人の少女...
「むっ」「なんです!? 敵襲!??」「いや、なんでも...。」
少年、ルアはそう言うと続けて
「準備手伝ってくださいね? こればかりはみんなで、です。」
「りょうかーい!」
メガネに帽子をかぶった少女、こちらは少女で合っている...が、ルアの明けたリアのハッチから降りる。彼女の名はキャディ...
「ピシーさん?」
「ん...しごと、おしごと」
呼びかけに応じて助手席から渋々地に足を付けたのはピシーと呼ばれた少女。頭には白い甲殻に身を包む龍、ファネが乗っている。
今日、用意するのは焚火セットだけだ。
なぜか?
それは先にルアが発した通り、襲撃者がいる為である。直ぐにクルマで逃げ出せた方がいいのは間違いないので寝るのはクルマの中。テントは張らず、使い捨ての焚火セットだけを組んで食事をとるのだ。準備はそれをよく燃やすための枯草集めにとどまった。
晩餐をたしなむと直ぐに星に闇がくる。今まで数えるほどしかなかったが、活発化したモンスターに襲われる事故も普通に発生する。直ぐに見張り1、仮眠2での夜越えが始まったのだった。
「では先ずは僕から...。」
2時間が経過、次の見張り役としてキャディを起こす。
「星が綺麗ですよ。」
「んんぅ~実にロマンティックだ! 少年くん! ...じゃあ、ぐっすり眠って頂戴! まかされたよっ!」
「おねがいします...お休みです。」
満点の星空の下で、数十分が過ぎる...意外にもあっという間だ。炎を見て、星を見る。その繰り返し...そしてキャディはメガネと帽子を外す。
少しあくびをして...ポケットから一欠けの魔法鉱を取り出した。
媒音石...。だったか? よく覚えていない。
コツンと弾くと、直ぐに交信が始まる。
「あ、あぁー...。私だ、スポイラー4だ。今は車外ではあるが...、聞かれると不味い。耳のいい者もいるからな。これくらいのボリュームが限度だ。あぁ、誘導はできてる。仕掛けるタイミングは任せる。私に当ててもいいが...呪ってやるよ。今日でもいい。あと石はこれ切りだ。じゃあな」
そう言って見張りの少女は石を踏み割った。
暫しの沈黙の末に、メガネと帽子を被り直し...
「おろっ! こんな時間っ! ぴっしーさーんぴっしーさーん♪」
「んん...おしごと」
「じゃあ頼みまっせ! おやすみっ!」
そう言うや否やキャディはバイクに抱きついて寝た。
「...ん」
ピシーは慎重に車から降りると見張り番のおしごとを開始した。
そして間も無くであった。
「!!」
それは一種の野生の本能か、ローブを捨て、瞬間腿部に巻いたベルトホルダー、右と左それぞれから一対の棒を引き抜くと強く握る。
カッ! と輝くと一端から結晶が即座に成長していき...棒、と呼んだ物は一対のダガーへと変化する。
実態を伴う二振り、そして厚く力強いダガー...。
それを宙に叩き付けるように振りかざすと、
ばすっ!
草原に微妙に重いような音を立てて転がるものがあった。
銃弾。
「ッ!」
フワフワ羽ばたいていたファネが異常を感じて直ぐに半開きの窓から入ると、その主達を起こす。
「敵? ピシーさん!!」
「来たのかぁ!?」
「じゅうでうってきてる...」
戦慄が走る。走りきる前にルアは車のエンジンをかけた。
闇夜に沈んだ馬が目を輝かせ嘶く。
「直ぐに出ます!!」
「よっしゃ! 乗ってこぉい!」
助手席をキャディが開け、スムーズにピシーが乗り込む。
勢いよく大地を蹴り、馬は駆け出した。
どうるるるるるるるるっ!
パァン!
しかしその足も直ぐに挫かれてしまう。
「パンク! でも四駆だッそのまま行けるはず!」
キャディが叫ぶ。
「承知してます!!」
ルアはそう答えると、鋼の馬もその意思に応える。
何ら問題なく前進する、そして聞こえてくる。
ぐぁああああああああ! どぅるるるるっ!
弾けそうなほど激しい心音!
「少年くん! 並ばれるっ!」
「逃げ切れそうにありません...。やるしかないのでしょうか...!? いや、まだ!!」
ルアは例の心音の持ち主の前に立ちふさがると...
「キャディさん!! 衝撃に備えて」
「おわぁぁぁ!!」
赤いランプが燃えるように閃く!!
踏み込んだのはアクセルではなくブレーキ。
がごっぉおん!!
衝突。
すると車高高めの黒い馬を飛び越えて暗殺者の肉体が前方に落ちてくる。ピクリとも動かない。
「ごめんなさい!! でもあなたがわるいです!!!」
フロントガラス越しにそう言い残すとルアは進路を切り替え、時折岩吹っ飛びそうになりながらもためらわず全速力で逃げた。
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