愛国の国の民

『"目"ニ"針"ト書キテ"民"、知ルコトモ無ク、知ル事モセズ。タダ前ニ向クノミ』


「んん...これは。」

 カチッ!

 スイッチを押した一人の少年。黒い髪は細い首の半分まで伸び、華奢な容姿からは力強さなど微塵も感じられない。彼の名はルアと言った。

「どうしましたー」

 四輪自動型に分類される古代異装オリジナル、その後部からする声。

「キャディさん、これみてくださいよ。」

「こーれーは...おぉ! ラジオか!」

 そうですよ! とルアは頷く。

 キャディと呼ばれた少女はメガネが落ちない様に左手で抑えつつ、興味丸出しで身体を運転席と助手席の間から前へ伸ばす。

 そうだ、助手席にも座っている者が居る。少女が膝を抱えた状態でローブを羽織っており、その上からシートベルトで固定されている───そのベルト余り意味が無い気もするが...そのルアに負けないくらいに細身の少女はピシーと言う名前があり、ローブのフードとそのモフモフの髪の狭間で白き龍のファネとただ寝ている。

 と、ラジオのつまみグリグリ捻っているときだった。

[[ハローエブリワン! 国営第5放送のお時ジジジ...りました!]]

 ガクッ! と驚いたピシーがダガーの持ち手に手を添え身構える。落ち着けとまだめると、改めて耳を澄ます。

[[日の第5放送は、ゲストの○○さんと、"○○ですよろしくお願いしまーす" いつも通りわたくしΔΔがお送りします! では一言近況コーナーです! このコーナーでは、あなたの街の近況報告をさっぱりと流していくコーナーです! "楽しみですね" そうですね、では参りましょう! えー、近くに国営の店ができて嬉しい! なるほど、これは素晴らしい! "たしかに新オープンのお店が近くにできると嬉しいですね〜" 何より、国営ですから圧倒的信頼感が良いですね]]

「そうなん? 少年くん」

「どうでしょうね?」

[[次の近況報告は、国の為に山を譲ることができて嬉しい! "なるほど、公共の役に立つと思うといい気分になりますね" そして何より国の為になった訳ですから、我がほかの国民も出来ることが有るという良い呼びかけにもなりましたね!]]

「......」

「......。」

「おなかすいた」

[[それではお次が最後の一言近況です! えー、国産目覚まし用刻み魔鉱石(刻み石とも呼ばれ、定間隔で固有の動きを見せる石。これは加工されて目覚まし機能など便利になったモノ)を買ったおかげで楽に起きれて良い...というお便りです! "国産と言うとアレですね? 913型の奴でしょうかね? 私も使ってますよ" なんと、ここにももしかしたら同じ愛用者が! 素晴らしいですね、お国が生み出した魔道具まどうぐがこのトップライターの○○さんにも使われているのです! これは国中からすっからかんですね!]]

「まどうぐ?」

「そのまんま魔法の道具ですよ。レプリカモノの車で魔鉱石が使われてれば魔道具の仲間入りです。あとこの放送も恐らく魔鉱石で放送してると思います。」

「はえー」

「......zzz」

「にしても」

「そうですね。」

 運転席のルアと、運転席まで上半身を乗り上げているキャディは互いに顔を見合わせ、ラジオに戻す。

「自分の国大好きなラジオだなぁ...」

「自分の国大好きな放送ですね...。」

 2人は同時にそう言うと、愛国心たっぷりなその国へと黒い鋼の馬を走らせた。

 るるるるるるるる、かっかっか...るるるるる


[[さてお次のコーナーです! 今週の禁書発表! "......。" なんと今週の禁書は4冊! 1冊目は『愛国国家の闇を暴く』2冊目は『奴隷の目に針』3冊目は『地獄の政治家ファイル』4冊目は『緋空の...ジジジジジジ!!!!!!

 それ以降は五月蝿いだけだったのでルアはそっと電源を落とした。


 で、肝心なその愛国心溢れるラジオの国についてだが...


「これは......。」

「やぁ〜すごいねぇ...まるで」

「まるで?」

「車の整備用のトルクレンチが無くて家中大騒ぎで探すような...」

「僕にしか伝わりませんよ?」

「あはははは〜」

 ちなみに、トルクレンチとは同じ強さでボルトを締め付けることが出来る計測器で、締めすぎ緩すぎなどのムラを抑えることが出来る...スーパーウェポンである。目盛りと針で読み取る直読式や、ある程度でカチッと鳴って知らせてくれるシグナル式があり......もういいだろう。

 国の様子、車両整備スーパーウェポンを無くした様にカオスな現場...。

 暴徒となった民がありとあらゆる情報の開示を求め半分テロじみたデモ活動を行い、新聞屋は砕かれ、一時間ごとに爆発し、結界魔法で守られた城に人々が押寄せる。掘りに落ちてもお構い無しに...。

 GUILDギルドの古代異装用燃料も放火に全部運び出されてスッカラカン。

「ぬぬぬぬ...次の国まで燃料足りるかなぁ?」

「どうでしょう? 取り敢えずどのくらいかかるかだけ聞いて出ましょう。」

 この国の情勢、この状況。

 全て何人かの民の怒号で伝わった。

『俺たちは奴隷じゃないッ! いつまで目を潰しているつもりだ! バカ国王どもがァ!!』

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