Gemini's pitfall

『あれ! あんた! 久しぶりじゃん!!』

「え!?」

そう言われて華奢な少年は腕を掴まれる。



るるるるるるかっかっか...るるるる

鋼の肉体を持つ青毛の馬が、空の一斗缶を叩くような音を定期的に響かせながら...心臓エンジンを高らかに響かせ駆けていた。

圧倒的に広く感じる運転席に座る華奢な少年。彼の艶のある黒い髪は開けた窓から入る風でバタバタと揺らめいていた。この少年の名はルア、旅人だ。

彼の左、助手席には硝子の如く透き通った寝息を立てる少女がローブに包まっている。ピシーと言った、彼女の頭とローブの狭間でもう一匹寝ている白い龍も居た彼、若しくは彼女はファネと呼ばれている。この御二方はいつも寝ている。

そして、

「お次の国は一体どんな国なんすかねぇ」

そんな声が人用の座席が無い車体後部からした。その声は基本帽子とメガネは外さない、オーバーオールを身につけた少女、キャディの物だった。

「さて、どうですかね?」

ルアは前を見ながらそう答えた。

「お、見えて来ましたよ。」

続けてそうも言った。


ゲート式、開けっぴろげの柵だけの国。新しめの自動車用大型ゲートを堂々とくぐる。3方にゲートがあり、出る道によってこの先の旅も出会いも変わるだろう...だが今はどうでもいい、ただ入国して感じて心のままに出るだけだ。

「まずは宿探しましょう。」

「がってんしょうちのすけっす!」

「...ん」

宿は直ぐに見つかった。脇道をずっと行って存在する少し人目につかない様なホテル、しかながら手入れされた白い壁は木漏れ日によって真珠のように光り輝いていた。

ととん! とエンジンを止めると、宿のチェックインを済ませた。ホテルのオーナーの粋な計らいによって2人部屋と値段変わらずに、部屋が4人用のサイズアップを果たした。

借りた部屋には窓がついているが、休むことなく鬱蒼と茂る森を映している。一足先に備え付けのシャワーを浴び終えたルアは改めて気づく、ダブルベットが2個ずつである事だ...。

「難しいなぁ...。」

「やっぱあれっすかねぇ...一人ソファって事ですかねぇ? ま、私は2人インでも構わんがなッ」

「そうですね...。」

「ん? 添い寝さんッ!?」

「まだ良いとは言ってませんよ...。」

ガチャっ!

2番目にシャワーを浴びたピシーがメインルー厶に

「お! ピシーさんはどこに寝るんで......すね」

キャディが喋っている途中だったが、睡眠魔はそのままソファに身を投げ出した。もう動かない。

「じゃあ、こっちのベッド貰いますネ。」

「あ、ハイ」


翌日だ

るるるるるるるるかっかっか...

「皆さんにお伝えしますね。」

「え!!???」

「まだなんも言ってないですよっ!」

「はっはっはっは...で何かね」

「ふぅ、えーと今日から明日の予定考えるのやめようと思います。」

「ほう、それは如何にして?」

「流れるままに動いた方がいいと思ったんですよ。なんとなく。それだけですけど...。」

「まぁ、合流前とは変わらないし! めんどくさくないし! いいとおもうぞい!」

「アハハハハ...はい。そういう訳でお願いします。」

クルマは広い街道に出た。

適当な飲食店に車を停めると、食事にすることにした。

その時だった。

『あれ! あんた! 久しぶりじゃん!!』

「え!?」

そう言われて華奢な少年は腕を掴まれる。

その腕を掴んだ女は...

『あ! 人違いだでした...ごめんなさい、すみませんね』

そして女は何処かへと去っていった。

「なんだったんだ...?」

「そっくりさんがいるんすかねぇ」

「どうなんだろ。 あ、ピシーさんとファネも行くよ!!」

食事はやはりサンドウィッチ、安い、早い、楽。で、車に乗り込んで食べながらいい感じな場所で停車、降りて歩きで散策を繰り返した。ちなみにピシーはクルマから食事決め以外で降りない...何故か? それは彼女とであった時の手紙にクルマを守る事が示されていたからだった、だから降りない。お陰で街を歩きで楽しめるのは嬉しい。が、宿の前に放置というのも可愛そうなのでクルマごと連れまわしてはいるが...。


そうだ、不思議なことがあった。


この国の散歩中、幾度となくルアは話しかけられた。


『ひさしぶり!』『あ! ちょっと! 返すものがあったよ!』『お前こんなところにいたのか!』『おばあちゃん...』


止まる度にそんなことが繰り返されるのだ...驚く者や泣く者もいた。


「なんなんでしょうか...。」

「ちょっと怖いねぇ、でも最近知らない人が寄ってくるの多いから、わたしゃ既にちょい慣れたけどな!」

「ん〜...。まぁ、そうですね。割り切ってしまえばなんとも無いかもですネ。」

「と言うか少年くんのそっくりさんはみんな悲しい事があったのかしらねぇ〜」


ルアは出国する3日目の朝までに、実に35回の人違いの対応をしながら街を巡った。

そうしてルア達一行は3つあるゲートの内、第2ゲートから次の国へと向かったのだった。


あぁ、そうだ...街柄についても幾らか分かった事があった。

街並みは綺麗で、ゴミも全く落ちていない。定期的に配置されたゴミ箱が無意識的に街中への投棄を防いでいるのだろうか...?

気になったので、人違いで寄ってきたヒトに聞いてみると、

『この国はね、景観を汚すゴミを許さない...その上、リサイクルもリデュースもリユースも完璧な究極の国なのさ! あの沢山配置されてるゴミ箱兼特殊分解処理強魔力ばこけんとくしゅぶんかいしょりきょうまりょくポータルのお陰で即座に落としたゴミは空間転移で回収・処理されるんだ! それと不法投棄をする様なゲスも社会のゴミだからそれでしっかり処理されているよ! 綺麗で住みやすい、なんて素晴らしい事か!!! おあっ! ハンカチ落としt』



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