下らぬ神に祟なし

 るるるるるかっかっか...

 強靭な足腰を持った1台の黒い馬が、舗装もされていない道を止まる事も無く進んでいく。

「すごいパワーです...。」

 運転席に座るのはやはりルアだった...相変わらずのサイズ比である。

 助手席にはピシーがローブにくるまって寝ている。

 キャディが居る後部座席は、既に取り外されていたので箱の上に座っている。あと銀のバイクも載っている。

 いつの日か乗っていた車に比べればかなりサイズアップしたはずだが、それでも少し窮屈に感じてしまう。特に後部...しかし、世には良い窮屈と悪い窮屈があると思っている、これは良い窮屈だろう。

 一行は新しい足を持って次の国へと急いだ。


『こんにちは! ようこそ我が国へ! 入国でしたらこちらにサインを』

 何か怪しい点がないか紙をしっかり確認すると、ようやく偽名を書いた。

 入国後はクルマのまま宿探しへ、やはり楽に越したことはない...その分燃料費はかかるのだが。


 るるるるる...

 最近この街では旅人や商人の定住率が上がっているらしい。何か底知れない魅力があるのだろうか...。

 まぁ取り敢えずだ、良さげな宿が少し外れの山にあったのでそこで停車、エンジンを停める。

 るるるかっかるるるる...ととっ!

 部屋を借りる時、流石に部屋は分けようとルアは言ったが、拒否された挙句に「お金かからないよぉ」とか「面識あまりない人だよぉ」とか「......」とか言われたので結局体制は変わらなかった。

 荷物を置いてから、別の場所に設置されたシャワールームを順々に使って部屋に戻る。マップを開くと、明日の行動を軽く絞って...

「おやすみ」

「おやすみです。」

「おや...zzz」


 日が昇る。


 燃料の補給をする、実に久々だ。新しい車がどれだけ食いしん坊なのかまだ深くは分からないので、大きめタンクにできるだけたっぷり詰めておく。

 さて、道を進んで行く...車高が随分高いので慎重にゆっくりと。

「で、どうするの〜」

「そうですね...。」

「......ごはん」

「じゃあお昼ご飯にしましょう。」


 適当に馬車スペースにクルマを停め、サンドウィッチを買う。車内食である...と

『あらあら貴方達様は旅人でいらっしゃるかしらねぇ!』『いらっしゃるかしら〜』

 急につばの広い帽子を被ったおばさんが2人zそう言って現れた。

「ん...あ、そうです...けど。」

『最近辛いこととか有りませんかぁ?』『有りませんか〜』

「辛いこと...。」

『心当たりありそうじゃあないですかねぇ』『ありますね〜』

「えぇ...。」

「あるの〜?」

「んん〜...。」

『神様を信じましょう!』『信じるので〜』

『信じればきっと救われますよぉ』『救われる〜』

 どう見ても宗教勧誘である。

「どうやって救われるのですかねぇ! あっし凄く気になるであります」

『あらら〜! 簡単な事です』

『この土神、ヒルブを模した土偶を購入するのよぉ』

見せられたのは狼の土偶。だがそれをしっかり見ることも無く、

「あ、いいです。僕が神なんで。じゃあ。」

 そんな断り文句を投げると、ドアを閉め、エンジンをかけ、逃げるように立ち去った。

「神だったんですか!」

「なわけないですヨ。」

「......」


「ここまで追っかけては来ないでしょう。」

「だといいねー」

 コンコン!

「ひぃ。」

『あの〜! 神様、信じてますか?』

 驚いている小さな運転手に向かって、間髪入れずに窓の外の青年が言った。

 窓は開けていないがかなりはっきり聞こえる、大声なのだろうか。窓を2ミリ開けると

「信じませんッ!! 本当にいるのなら、信じて願いが届くなら! 僕はここにいませんよ!!!」

 2ミリ閉めるとクラクションを鳴らして牽制、離れた隙に走り出した。

「国中信者だらけかねぇ?」

「それならちょっとめんどくさいですね...。燃料費もかかっちゃうし......。まぁ、宿をチェックアウトして国を出ましょうか。」

「はいはい〜」




『今日でダメだったわねぇ』

『そうですね〜』

 おばさん2人はドロドロと融け、土の塊となって死んだ。


『あぁ〜はははははははははh』

 青年もその夜、笑いながらべちゃ...と潰れ、土に還った。


 それらをルア達が見ることは無かったが...代わりに


{国内、山}

 道確認の為に一度車を降りた時の事。

「えぇ...。」

「ほええ」

「......」

 キッ...とその鋭い目で一行をのは1匹の狼だった。それもデカいの一言では表せないような巨体。最初は、何かモンスターが城壁を越えて紛れ込んでいると思ったが、どこか別格な佇まいからそれは至極一般的なモンスターではない事は火を見るより明らかなのだった。

 にしても、その見下したような視線はピリピリと刺さる。

 少しのあいだ、ピシーとファネを除き、にらめっこして固まっていたが。

『下らぬ者でも無い、喰えぬか...』

 そう言ってその狼は森の中に消えた。

 その一言が何を意味するか...その本質は分からなかったが、あの時に狼の土偶を買っていたのなら、先からの現状が変わっていたとしたら......そう考えるとおっかなく感じた。

 ただ、戻る理由も無い...一行は宿でチェックアウトを済ませると、一気に下って国を後にした。

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