皿の国
つたつたつたつた、ごろごろ...
2人の人間がゆっくりと湿地を進む...いや、湿地終わり。急にカラカラな草原に...
「お、見えてきましたよぉ!しょうねんくん!しょうねんくーん!」
声を大にしてそう報告するのはメガネがトレードマークなオーバーオールの少女、キャディだ。
「聞こえてますよ...見えてますよぅ...。」
ちょっとだけノリ悪くそう返すのはターコイズブルーの瞳を持つ黒髪の少年、ルア...それが彼の名だ。そしてこの2人は旅人なのである...
そして...
ばさっ、ぱたぱたぱたぱた......
飛び上がるように、というより飛び起きた..."翔"び起きたのは白い小さな龍。
「ファネくん、なんだか元気満々ですなぁっ! 私達も元気にっ!」
「くんなのか分からないけど...、って...速いですっ!!」
ファネと呼ばれたその小さな龍を追うように2人はペースを跳ね上げた。目指すは遠くに浮かび上がった皿の様な城壁の国......
『ようこそ我が国へ! 旅人さんですね!』
それからテンプレートな入国手続きをクリアし門を
「おぉ! こりゃあデカい国だ!」
「そうですね〜、」
いつか訪れた高層建築が建ち並ぶ国に比べたら小さいかもしれないが、それでも大きい部類の国だ。何百年といった莫大な単位だが...周りの国に比べたら割と若い国である。
で、大きく感じるのには恐らくこの低めで、上に行くにつれて広がっていく不思議な城壁が、空を見せる事によって視覚的にも作用しているのだろう。
この壁について聞くのが良さそうだろう...恐らく聞かれに聞かれて誰でも答えられるだろう。
「今回は何日くらいでしたっけ!」
「3日目の朝には出るので...今日含めて2日くらいですよ。」
「...了解ッ! では参りましょうぞっ!」
「よーし。」
取り敢えず1日目は宿へ、宿は既に指定されている。明日の観光に向けて体力を回復させよう。
翌日、
国を満遍なく照らす太陽はまるで自分達を歓迎しているかのようで、心地が良い...。
さて、国の雰囲気はその明るさに負けないほどに生き生きとしている。住民も陽気で、屋台も楽しげな音楽を魔法鉱のひとつである
お昼ご飯はサンドウィッチ...と言いたいところだが、この国名物らしい麺類の食べ物を食べた。それを選んだのはやはり
「うごぉ! 美味いじゃないですかぁ! 縮れた麺が浸けたスープに絡み乗ってぇ〜! 余すことなく染み渡るッ!」
「おかわりは無しですよぅ。お金無いですから。」
「わかってますよ〜!」
『ノリがいいからおかわりサービスしてあげるよ。ほれこれをあの人に持って行ってあげなさい』
『わかったっ!』
そう言われて子供がテーブルまで
『はい!』
「うぉあ! ありがとうございまするっ!」
『お安い御用さ!』『おやすいごようさ!』
キャディは勢いよく食べ始め、食べ終わった。
「ごちそうさまでした。」「ごちそうさまでしたっ」
会計の時に水増しされてないか確認し、何も問題がないようなので、払ってその店を去った。
「良い店主さんでしたっ」
「そうですね...。さて、あと何処を周りましょう。」
「どうするかな〜どうするかな〜...そうだっ! 城壁の沿いを歩いて見ませんかっ!」
「壁沿い...ですか? そうですね...行きますか!」
足音とタイヤが回る音を立てて、最も壁に近い方向に向けて歩き出した。そう時間は掛からなかった。
「にしても...。凄い壁だ...。内側からなら頑張って走れば上まで登れそう...。」
「ですなぁ〜こういう建物見るのもなかなかなかに興味深い物がありますなぁ...もう少し体力が有れば登ってみちゃうところでしたよ! あ、でもそんなことしたら怒られるだろうな! 体力無くて良かった良かったァ!」
独り言なのか聞いて欲しいのか分からないマシンガンのトリガーを引いてしまったらしい...
「人が来てないのかそこそこに汚れてますなぁ...食事後で良かったぜ。そういえば壁の底の縁からかなり家が離れてますな! なんなんだぁ? 何かあるのかぁ!?」
「どこ行くんですかー。」
「おっ!」
「待ってくださーい。」
「骨だ!」
「そうですかー。」
「...。」
「......」
「...骨?」
「骨です」
骨、と言っても...ごく普通な人間の大腿骨。
「これは...。」
「なんか見ちゃ行けない物な気がしますッ!」
「...少し気味が悪いですね。」
それから、ルア達は壁について聞く気にもならずに真っ直ぐ宿へと向かった。道中
「なんだか申し訳ないですな...」
とキャディが言ったものだから、ルアは意外と彼女が勢いだけでは無いな...という事を感じつつ
「気にしないでください! やる事はやりましたよ。」
と返しておいた。
宿では軽く話し合ってすぐに国を出る事にした。
「お世話になりました」と2人で宿の人に伝え、チェックアウト。そのまま出国。壁を越えて少し進んでいると、前方から天を貫く程の入道雲が流れ寄ってくる。今から戻るより、正面から抜けて行った方が速い気がしたので、迷わず突入した。
国はもう遥か後方の雨の下に沈んだ...
皿満杯に雨を受け、叫びと共に文字通り沈んだ...。その内、日も沈むと一体の魔龍が大地から目を覚ます。
ただの生物として産まれるはずが、中途半端に龍脈の才を得たが為に、その能力と知恵を
そんな一体の魔龍は、片方だけしか無い大きなボロボロの翼を広げ、夜空を背負って立ち上がる。どしんどしんと、大地を揺るがし歩く。
そして不思議な壁を持つ国だった泉にゆっくりと蛇のように長い首を潜り込ませると、浮かんだ肉を幾らか
ある時子供の一人が問う。
『あなたは...たすけてくれたの?』と
だがその問いに何も答えずしてただ
遠い昔に自ら造らせた、百年に一度満ちる、この広い食器を背にして......。
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