いわかがみ

 しゃぁん....

 洞窟の中....深い深い奥の奥....。


 もう少しで嵐に包まれるであろう草原を一人歩くニンゲンがゐた...。翠よりのターコイズブルーに、微妙に長い黒い髪はボサボサ......。

 少年ルアは旅人だ。

ぴしゃあん!

 いかずちを合図に雨が降り出す...。昼だが暗い空は今にも垂れ落ちそうな程に重い具合いをしていた。

「.......。」

 ルアは何も言わず濡れながらも足を止めなかった....進んでいくと岩場が目立つようになり、突如、雨風を凌げるであろう洞窟が現れる....いつからそこにあったのか、ルアには考える暇は無かった。

 その洞窟に逃げるように飛び込むと、自分の状態は後回しで、直ぐ様荷物の浸水状況を気にした。

 食べ物の一部は湿気っており、中々に悲惨な状況だった。古代異装オリジナルの拳銃を水気を拭き取った工具で分解し手入れ....再び元に戻すと、次はカメラを取り出す。

 こちらは割とダメージは無さそうだ....レンズフィルターだけ水垢にならないように丁寧に布巾で磨くと元通りに取り付け、布に巻いて仕舞った....。と

 かつかつかつ....

「...どうしたのファネ....。」

 嘴をカチカチ鳴らしている....

「なんだよ....うん....ありがとう。」

 雨は降り続いている、水を吸ったカビの臭いが鼻を刺激する。

「にしても...なんだか他の世界に来たみたいだ....。」

 ぼーっとその上から下へ落ち続ける雫を、見ているぐらいしかやる事は無かった。

ぴしゃああん...!

 時折雷が大地を揺らす...

「はぁ......。」


しゃりん....


「ッ!?」

 雷....いや、違う。さっきのは洞窟の奥からだ....自然的に身体は身構える。

「........。」

 こうなってしまった自分を少し虚しく思った....しかし、警戒だけはとかずに、

 その深い深い暗闇に進む事にした。


 入りくねったその岩洞にはキラキラと輝くガラス質の部分があり、幻想的と言えば幻想的な空間だ....。しかし音の正体は更に奥、次第に散りばめられたガラス質は増え何処か触れては、踏み入れては行けない...そんな場所に来ている気になる。

「......ッ!?」

 前から誰か来る...ルアは立ち止まるとその影も立ち止まる....。歩けば影も歩き始める....その影の正体を遅くもルアは理解した。

「鏡だ....。」

 最果ては道を塞ぐ鏡になっており、それ以上先へは行けず......この空間に辿り着いた者を、なんじを知れと言わんばかりに映し出す...

 よく見れば自分の表情は軽く窶れた重い表情で、そんな表情になっている事に少し驚いた.......耐え凌ごうとする顔だ。

「師匠はこんな顔しないだろうな...。」

 楽しむ心よりこれからの不安が勝っている、其れがはっきりと目に映った。

ぐっ....

 指で口角を上げ、そのままキープ...そして深呼吸をひとつ....

「よし...!」

 一声上げるとルアは立ち去った。鏡に映っていたもう1人の自分も、その姿を見届けると、満足気に帰って行った。


 相変わらず心で呼ぶだけで、手元に飛び込んでくるファネを軽く撫で、嵐の音を胸に刻みながらその日は眠りに就いた。


 再び目を覚ます時、空は晴れているだろうか...。

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