19 両手持ち用の杖は抜け道を見つける

 ―約1時間前―


 さて、演技はこれくらいにしておこう。


 ふっふっふ……気付いていないと思ったかストーカーめ。


 私は何かを探す時には大体【見る者】を発動している。


 そしてその発動中には人の名前も分かるのだが……発動している時、めちゃくちゃ映り込んだ名前がある。


 それは……《ウェルガ・マーダ》という名前である。


 この街に来て迷った時に道を教えてくれた女性だ。


 絶対にコイツは私をストーキングしている。


 うわぁー、前世では私なんてストーキングされた事ないのにこっちでされるとか最悪だわぁー。


 まあ取り敢えず気付いていないフリをしていた。


 相手が何で私にストーキングするのか探るためだ。


 そして道を探している間のみ近くでストーキングしており、それ以外では離れた所からストーキングしていたので、恐らくあの周辺には何かがある。


 そしてその何かとは……何かとは…………


 何だろ?


 なんかお宝でも隠されてんのかな?


 まあいいや。


 取り敢えず今、ストーカー野郎はどこかへ行った。


 動くなら今……なんだろうけど。


 いざってなると怖いなぁ……。


 あと何で演技をしていたか説明しよう。


 理由は単純、心読める魔法を使ってきているかもしれないからだ。


 なので寝たと思わせて何処かへ行かせようとした。


 まあ結果は成功だろう。


 どっか行ってるし。


 よし! じゃあ……『生成杖』で私の姿の人形を作るか。


 この部屋に細工がしてあって見られてるかもしれないから一応ね。


 というわけで私そっくりの人形を作り、布団に寝かせる。


 よしこれで偽装は出来た。


 あとは素早く外に出て寝ている人の部屋の窓に【重力無効サイレントグラビティ】で行く。


 そしてしばらく観察して【変質者パーバート】の条件を達成させる。


 そしてその人に成りすまし、例の道へ行く。


 よし、完璧だ。


 ただ【変質者パーバート】で変身した姿が小太りなおじさんだということを除けば……


 いや、それで良い。死ぬよりは良い。


 まあそうそうバレないと思うけどね。


 んじゃ、早速ラーダさんの所行ってみますか。


 挨拶するならかなり遅めの時間だが、ストーキングされていると言えば何とかなるだろう。


 そう思いながら歩いて向かった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


 さて、どうやらここのようだが……。


「壁やん」


 目の前には普通に壁があった。


 でも【探す者】いわくここらしい。


 うーん? 取り敢えず壁壊して【完全修復パーフェクトリペア】で直そう。


 そう考え『自爆杖』で目の前の壁を破壊した。


「……おぉ」


 目の前には植物がたくさん生えていた。


 しかしその空いた穴以外からは植物は一切生えていない。


「なぉるほど、ここからしか行けないって訳か」


 その植物の中に入り、【完全修復パーフェクトリペア】を壁にして直した後、進んだ。


「うおっ、結構鬱陶しいな」


 植物の先端がチクチクと刺さり、まあまあ痛い。


 探し進み続けると館の様なものが見えてきた。


 高級そうな洋式の館だ。


 そしてポーチにお婆さんが座って紅茶を飲んでいた。


「ようやく来たのね」


 え? 誰? 


「まあ入りなさい、話はそこで聞くわ」


 そう言ってお婆さんは紅茶を机に置き、館の中に入った。


 ……行くべきなのか? 行っていいのか? 


 死なない? 私死なない?


 大丈夫……なのかぁ……?


「早く来なさい」

 

 そう言われた時に少し圧を感じた。


 やばっ、行かないと死ぬ。


 そう思い、走って中に入る。


「さて、じゃあまずはそこに座って」


 そう言われて近くにあった椅子を指さされる。


「はっ、はい」


 座ると結構柔らかくて座り心地が良かった。


「それじゃあ聞くけれど……どうやってここまで来たのかしら?」

「えーと、壁を壊して進んで……」

「……壁を……壊した?」

「はい、壁を壊すと植物が生い茂っている空間に繋がったので進んだらここに……」

「……なるほどね。そんな抜け道が……取り敢えず、貴方の名前は?」


 言っていいのかこれ?


 ……まあ良いか。


「メルアです」

「メルアちゃん、今はもう無い道が描かれた地図を持っていないかしら?」

「まあ……待ってます」

「では、それをどうやって手に入れたのかしら?」

「前にいた街のギルドマスターに貰いました」


 そういうとハッとした様な顔をして


「その人の名前は!?」


 と凄い勢いで聞いてきた。


「すっ、すみません。知らないです」


 そう言うと彼女は背もたれに寄りかかって


「ふぅー」

 と一息ついたあと


「じゃあ前にいた街の名前を教えて頂戴」

 

 と質問してきた。


「確か……オウレオ街……だったかなぁ?」


 そう言うと彼女の目が変わった。


「分かったわ、それで、そのギルドマスターさんになんて言われて地図を渡されたの?」


「えと、街が壊滅したからここにいるラーダという人物を訪ねろ……と……」


 彼女は驚いた顔をしていた。


「……なるほど、分かったわ。どうせそのギルドマスターは泊めて欲しいと頼めとか言ったのでしょう。まあ、私の仕事の邪魔をしないならば良いですよ」


 え? じゃあこの人が……。


「あぁ私が自己紹介していなかったわね、私の名前は『シルファー・ラーダ』どうぞよろしく」

「よっ、よろしくお願いします!」


 この人がラーダさんだったぁぁぁぁ!!


「では、貴方の部屋に――」

「申し訳ありませんッッ!!」


 ラーダさんの言葉を遮り誰かがそう叫ぶ。


「!?」


 お前はぁ…………


「…… 〝マーダ〟、どうしたの?」

「はい、実は……監視対象を見失いました!!」




 ストーカー野郎じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!


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