15 両手持ち用の杖は別の町へ飛ぶ

 さて、今一度現実を見よう。


 現在、街がフルボッコだドンをされた状態になっている。


「……もうほんと何が起きてんのこれ」


 もう今の街は街〝だったもの〟になっていた。


 取り敢えず宿から出る。


 いつも穏やかな通りは今大量の荷物を抱えて走る人でいっぱいだ。


「おい! メルア!」


 ん? この声は……


「ギルドマスターさん!」


 生きてたのか! 良かったぁー。


「メルア無事か?」

「はい」

「そうか、実はな、どうやらルーファがとんでもねぇ化け物と戦い始めたらしい、その結果がこれだ」


 そう言ってギルドマスターは街だったものを見る。


 ……え? 今の話聞いた限りだとルーファさんとその化け物がタイマン勝負をした結果がこれって事?


 うせやろ。


 タイマンでこれ?


 巨大ドラゴンが100体きて踏み荒らしまくった後みたいな感じだけど?


「いいか、お前も逃げた方が良い。この街は恐らくだが壊滅する。ここから数十キロ先にルスガナっつー町がある。お前さんも、そこへ行け」


 そう言ってギルドマスターは街から出ていく人の列を指さす。


「あっ、分かりまし――」


 返答しようとした瞬間


「見つけたぞぉー!」


 街の建物を突き抜け誰かが向かって来た。


 誰誰誰誰だれだれだれだれ!?


 声に聞き覚えはございませんが!


 というか鎌振り下ろしてない!? えいっ! 【完全防御パーフェクトウォール】!


 カキーンと音がして相手の鎌が弾かれる。


「うぉ!?」


 彼がよろけているうちに近づいて


「何の用?」

 とだけ言う。


「いやぁ〜、ひっさしぶりに新しい〝覇者〟が生まれたっていうからさ、どのくらい強いのか確認したかったんだよ。あ〜いやほら、その席はずっと空席だったからさぁ、その席に相応しいかのテスト的なやつさ」


 ……何言ってるんだこいつは?


 言ってる事が本当によく分からない。


 新しい覇者? もしかして『称号:両手持ち用の杖の覇者』ってやつのことか?


 あー何となく分かった。


 つまりこれさ、武器ごとに世界から一人〝覇者〟が選ばれる的な感じ?


 んで『両手持ち用の杖の覇者』は今までいなかったら見に来たって事?


 そゆこと? 合ってる?


 うーん、つまり目の前のコイツもなんかの覇者なのか。


 そういえばルーファさんにも『称号:鞭の覇者』があったな。


 なーるほどねぇ……………………………………うそーん。


 めっちゃめんどくさい事になっとるやんけ。


 めんどくさいにも程があるわ。


「突然殺しにかかるのがテスト?」

「え? あれで君は死ねるの?」


 逆に死ななないの? と聞きたい。


 でも回答はほぼ間違いなく「死なない」だろう。


 強すぎだろ! 私のDP聞くか!? 150やぞ150!


 そんな事を考えていると何者かがとんでもない速度で飛び出して来た。


「あら、メルアちゃん」


 ……ルーファさん……。


「えと、大丈夫ですか?」

「ええ大丈夫よ」

「ルーファ、オメェなぁ……ここまでやっちまったらダメだろ、王都の騎士団がお前を捕えようとするだろ」


 おおお、だいぶ大事になってるなぁ。


「うふふふ、大丈夫よ。王都の騎士達が私を捕まえることなんて出来ないわ」


「あのさ、俺もう帰っていい?」


 と、鎌を持った男が言う。


「あらダメよ、せめてメルアちゃんが遠い場所に行くまでは私と喧嘩してもらうわ」

「チェ、やっぱそうか」


 ル、ルーファさん……あざす!


「んじゃあメルアちゃん、さっさと逃げちゃってぇー」


 そう言ってルーファと彼は消えた。


「……はぁー、ったくあいつらは色々とやらかすなぁ……。んでメルア、あいつの言っている通り早く逃げた方が良い。あの気色悪い野郎はお前にちと興味があるっぽいからな。俺らとは違う所へ逃げた方が良い。そうだな……少し待て」


 そう言うとギルドマスターは紙に何かを書き始めた。


「よし、この町にいるラーダという人物を訪ねろ。俺の知り合いだと伝えれば、まあ面倒くらいは見てくれるだろ」


 うっわー、マジありがてぇ!


「ありがとうございます!」

「ああ、じゃあまたな、メルア」


 そう言ってギルドマスターは街から逃げる人々の元へと向かった。


 さてと……じゃあ私も言われた通り向かいますか。


重力無効サイレントグラビティ】で空に浮き、地図に描かれた町、ミンジャー町へと飛ぶのであった。

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