〜 崩壊のきっかけ 〜

「いい加減出てきたらどう?」


 私は今、背後から狙っていた男に声をかけた。


 危険な奴なのは分かってる。


 まあだからメルアちゃんにギルドに行くと嘘をついてこんな裏路地に来たわけだし。


「あちゃ〜、バレちまってましたか」


 そう言ってその男は出てきた。


「ほら、やっぱり貴方だった」


 そしてその男とは面識があった。


 彼とは昔、一悶着ひともんちゃくあったのだ。


「で? なんの用かしら?」


 そう男に問う。


「いやぁ〜実はですね、新たな〝覇者〟が生まれたと小耳に挟みましてねぇ、会いたいなぁー、と」


 もうそんなに早く情報が。


 ……不味いわね。


「というかー、彼女に嘘ついたでしょ?」


「!?」


「〝偽物のステータス〟並べてさぁ、汚いと思わないの? 知ってると思うけどさぁ俺、嘘つきは嫌いなんだよね。魂が汚れてる。送られることもできない惨めな魂さ」


 相変わらずヤバい奴ね。


『鎌の覇者 ジャックス・ウォルター』


 二つ名は『死神』


「別に? 覇者相手に偽物のステータスをやるなんて普通の事でしょ? 【見る者】を持ってる可能性があるんだから」


「おいおい、まだ伝説の【者】スキルを警戒してるのか? あんなのあるわけないだろ。馬鹿か?」


「確かに未だに存在が確認されない【者】スキルのうちの一つ、【見る者】を警戒するのは愚かなことかもしれないわ。

 でも彼女は両手持ち用の杖の覇者、絶対に警戒はしておくべきよ」


「まあそれもそうだな。んじゃ、どうする? 俺はまだ仕事があるんだ」


「させないわよ、貴方の仕事は私の仕事の妨害をしてるの」


「……久しぶりにやるかい?」


 彼がニタァっと笑った。


 その笑顔だけで冷や汗が背中をつたる。


「良いわよ」


 私のこの言葉を皮切りに、戦いが始まった。

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