第2話誘う場所として間違えてる気が
「汐嶋さん、交際してるなんて聞かないわね。私、貴女を満足させられるだけのテクはあるけれど……委ねて、みない?」
「きっ……教師っ、がっあっっ……
スカート越しに撫でていた手をどさくさに紛れて、スカートの中に滑り込ませる好狭野先生。
太腿の付け根に彼女の手が到達する寸前で、彼女の手首を掴み、ギリギリながら阻止する。
「えぇ〜良いじゃない。好きな相手が居ないんだし、私に——」
不発に終わり、不満そうにいじけて拗ねながら攻めようとする彼女。
「嫌っですぅっ!こんな……趣味はない、ですからっ!」
「こんな趣味ねぇー。
鋭く艶めかしい眼光で、私の顔を見つめながら意味ありげなトーンで確かめる彼女。
そんな彼女に言い返さずに唇が震え、口を開けたり閉じたりを繰り返すしか出来なかった。
「じゃあ……近いうちに鎌倉に二人っきりで出掛けない?その後で返事をくれたら良いじゃない。そんなに焦って即答しなくても。ねっ、汐嶋さん?」
「……どうしても、諦めないと?好狭野先生」
「……」
無言のまま圧力を眼光で掛ける彼女。
「えっと……鎌倉のどこに——」
「
訊き終える前に返答した彼女。
「私を巻き添えに心中しようとしないでください、好狭野先生」
「ははっ!よく知ってんなぁ、読むクチか、汐嶋さん。マイナーだと思ったんだけど……予想外だわぁ〜!」
「いえ……ある小説で、知ったのを覚えてたので」
「はは〜あ、そっち系を
「ええ、まあ……祖母からです」
太宰治が心中した場所を学生の私が知ってることに驚いた彼女だった。
昼からたまに再放送をしてるドラマの原作で、観たらハマり出して小説にも手を出して好きなミステリーのひとつだ。
彼女との意外な共通点に驚く。
「へぇ、じゃあ——」
会話を続けようと彼女が口を開きかけると同時にジーンズのポケットでスマホが着信音を鳴らし、私の身体に触れていた両手を離し通話に出る。
「あっ、る——」
『んでかけてこねぇーんだよ、オバさん。かけるつったオバさんがかけてこねーでどうすんだよ、はぁあっ!』
若い女性の捲し立てる怒声が割れんばかりの音量で教室に響いた。
「ごめんごめん、ルイ。掛けようとしてたところだったの。そんな捲し立てないで、落ち着いてルイ。うん——」
スマホを手に取っていないもう片方の手で口もとを隠し頭をぺこぺこと上下に振り、教師の威厳もない応対をみせる彼女だった。
「——じゃあ。汐嶋さん、用事を思い出したから職員室に戻るね。引き留めて、ごめんなさいね汐嶋さん。気を付けて帰ってね、また明日」
通話を終えた彼女は、ジーンズのポケットにスマホを戻し慌てて教室を出ていく。
「はぁー……疲れたぁ」
私は、好狭野先生の攻めから解放され、全身から力が抜けてため息を吐く。
身体が汗ばみ、ブラウスが肌に張り付いて気持ち悪い。
最終下校時刻はとっくに過ぎていた。
最終下校時刻の十五分前には部活は終わっていたのに……
校門は締まっている。職員室に立ち寄る羽目に……
私は机から下り、教室を後にし職員室へと駆け出した。
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