第14話 本選開始
ボルドたちをドカ食い気絶させた、翌日。午後7時ちょうど。
十分な身支度を整えた上で、直行列車に乗り、ラウラたちはたどり着く。
「そろそろ、時間か……」
イタリア、ローマ市内にある、世界遺産。コロッセオ。
巨大な円形の建築物。古代ローマ時代に建てられた闘技場だ。
中央には四角形の武舞台があり、集まるのは勝ち残った12組のチーム。
二階には5万人ほど収容できる真新しい観客席があり、席は全て埋まっていた。
――そして。
「私がストリートキングの主催者。ピエトロ・ファルネーゼでアール」
武舞台のど真ん中で、マイク片手に語り出すのは、銀髪の中年男。
髪は腰ぐらいの長さで、ちょび髭を生やし、赤いタキシードを着ている。
(……こいつが今回の黒幕か。うさん臭さマックスの成金貴族って感じだな)
本選前の演説を聞きながら、ラウラは相手をそう評していた。
「ここに集まるは、予選を勝ち抜いた古今東西最強の精鋭。それをローマが誇る最高の舞台。コロッセオで雌雄を決してもらうでアール。ルールは3対3のチーム戦。決勝にふさわしい2組をトーナメント方式で決めるのが本選の趣旨とナール」
その間にも、大会主催者――ピエトロは独特な口調で説明を続ける。
観客席からは、割れんばかりの拍手の音と、大きな歓声が響き渡ってくる。
(……口調はともかく、外ズラはまともっぽいな。中身はどうかしらねぇが)
大会をつつがなく進行する姿に驚きながらも、ラウラは疑いの目を向けていた。
「今回、戦績上位4チームには、シード枠が与えられており、トーナメント表は追って発表する。出番があるまでは、地下にあるチーム控室で待機。呼ばれ次第、この武舞台で決闘してもらうでアール。説明は以上。諸君らの健闘を祈る」
そうして、なんの滞りもなくピエトロの説明は終わる。
他のチームは、足並み揃えて移動を開始しようとしていた。
「終わったみたいだね。行こ、ラウラ」
そこで隣にいたジェノは、声をかけてくる。
このまま従ってやっても良かったが、どうも気に食わねぇ。
「……ジルダと先に控室へ行ってろ。僕はちょっと野暮用があんだ」
心に浮かんじまった違和感を解消するために、ラウラは、ジェノにそう告げる。
「野暮用? まぁ、いいけど、変なことしないでね」
懐疑的な目を向けながらも、ジェノは納得し、ジルダと共に去っていく。
その背中を見届けながら、ラウラは武舞台にいる人物に厳しい目を向けていた。
「――おい、主催者。殺し合い前提の裏トーナメントがあるってのはマジか?」
そして、誰もいなくなった頃、ラウラは主催者に疑問を投げかけた。
もう、マイクは切れている。これなら、選手にも来場者にも伝わらねぇ。
オフレコの状況ってやつだ。陰謀を心置きなく話すには、これ以上ない舞台。
「裏トーナメント……。初耳でアールな。陰謀論はほどほどにした方がよいぞ」
しかし、ピエトロは顔色一つ変えず、とぼけている。
まるで、何も事情を知らないと言わんばかりの道化っぷりだ。
(しらを切る、か……。まぁ、こうなるよな)
目に見えた証拠はない。ただの言いがかりでしかねぇ。
「お前の化けの皮は僕がぜってぇ剥がしてやる。心震わせて待っていやがれ!」
それでも言い切ってやった。
こいつが黒なのは、ほぼ確定だからな。
◇◇◇
コロッセオ地下。選手控室。
室内は現代風の洋室。12畳ほどのスペース。
そこに着替え室。モニター。テーブル。ソファがあった。
そのほとんどが赤色で構成されていて、目が軽くチカチカしてきやがる。
「いよいよ本選か……。あの中に、眼鏡職人さんを拉致した人がいるんだよね」
立ったまま緊張した面持ちで語るのは、ジェノ。
主催者より、参加するチームの方が気になってるみてぇだ。
服装は青い制服のまま。着替え室にあった衣装は気に入らなかったらしい。
「だろうな。ただ、僕は主催者が黒だと踏んでるがな」
ソファに腰かけ、足を組みながら答えるのは、黒スーツを着たラウラ。
当然、狙いは主催者。証拠さえ掴めば、芋ずる式に引っ張り出せるはずだ。
「……うーん、本当にそうなのかな? ただの出資者って感じがしたけど」
「ばーか。主催者がラスボスってのは相場が決まってんだよ。いいから見とけ」
疑問の声を上げるジェノを一蹴し、ラウラはモニターを見つめる。
今、気になるのは、この後に表示されるであろう、対戦相手の情報だ。
どちらにせよ本選で勝てなきゃ、尻尾を掴む機会も作れねぇだろうからな。
『お待たせした。これより、トーナメント表を発表するでアール』
すると、モニターの画面が映り、ピエトロの声が響く。
画面には、12個の白い枠組みと、チーム名が表示されていた。
「……おっ、きたな。どれどれっと」
目を凝らし、ラウラは表全体をざっと確認する。
ボルドたちは、右側のシード。こっちは左側通常枠。
トーナメント途中で当たるっつうことはないみてぇだった。
「あいつらとの試合は決勝までお預けか」
情が湧いちまったのか、戦うのが先延ばしなったことに内心ほっとする。
「……なに、これ」
すると、ジェノはなぜか、顔を凍り付かせ、戦慄していた。
「なんだ? なんかあったか?」
「俺たちの初戦の相手のチーム名見てよ……」
「ん? えーっと、ジルダ・マランツァーノ様、万、歳……だと」
うすら寒いネーミングセンス。それだけだったらまだいい。
書いてある名前が問題だった。だってよ、その名前はうちのチームの。
「……あの、これ似合ってるです?」
着替え室のカーテンがザッと開き、中から現れたのはジルダ。
本選用に用意された、長い白スカートに赤いレースや刺繍がある服。
バレエ作品のナポリに登場する村娘が着るような衣装を着こなしている。
普段なら、褒め言葉の一つや二つでも述べてやるが、今はそんな場合じゃねぇ。
「お前、一体、なにもんなんだ?」
一回戦に対する敵のチーム名。ジルダ・マランツァーノ万歳。
その名前を冠する身内に、生じた疑問をぶつけることしかできなかった。
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