第6話
「で、では。あなたが空とこの世界を遮断していて、人々を閉じ込めているっていう伝説は」
「ああ、全くの嘘っぱちさ」
どちらを信じるかはきみの自由だけど。そう呟いて再びララバイは眠そうに顔を伏せました。
シュレーニはどうしていいかわからず、とても気持ちがいっぱいになってしまいました。けれども、そこに寝そべるララバイはなんだかとても寂しそうで、それでも気高さを失わない美しさを感じて、シュレーニはその背にそっと自分の背を合わせるように座りました。
幼い頃から歌っていた、誰も知らない歌。遠いどこかの言語かもしれない、誰にも通じない歌。口ずさむと、やがて静かにララバイがその歌に合わせて歌い出したのです。
「……どうしてきみがこの歌を知っているんだい?」
「やっぱり……! この声は絶対そうだわ、幼い頃から風に乗って聴こえたの。この歌はあなたが歌っていたのね」
けれども、ララバイはそれを肯定も否定もせずに、シュレーニの方を見ることすらしません。
ただ、突き放すような冷たさではなく、その背中からはほのかな優しさを感じられるような気がして、シュレーニは歌を歌い続けました。
「大いなる空への……帰還を祈る歌なんだ」
どれくらい刻が経ったころでしょうか、寝そべったままのララバイがそうぽつりとつぶやきました。
「帰還……祈り……、あなたは元の世界へかえりたいの?」
「まぁね、だって空の中に生み出された怪物さ、青空の中を……叶うものならもう一度でいいから力いっぱい飛んでみたいものだよ。それに……」
「それに?」
「いや、なんでもない」
「青い空はどこにあるの? わたし、あなたの護っている扉の向こうに青空があるってお話で聞いたのよ」
「翼のないものには無理な話さ、諦めた方がいい」
「でも。でも、ここが一番空に近い場所じゃない」
「近いようで、果てしなく遠い、それが空さ。さあもう諦めて帰った帰った」
それきり、再びララバイは眠ってしまったようでした。
帰れと言われても、帰る方法すらわかりません。シュレーニもすっかり歩き疲れていた事を思い出して、ララバイに寄り添ったままやがてすやすやと静かな寝息を立てはじめたのでした。
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