第4話

 ろうそくの火が消えて、冷たい風が吹きつけると、とうとうシュレーニは高い螺旋階段の上で足を滑らせてしまいました。

 シュレーニの身体は、そのまま空中へと放り出されてしまいました。

 しかし、真っ逆さまに落ちてしまう……! と思わず目を瞑ってしまった彼女の耳元で、風が少しばかり優しくそよぎました。


「約束しただろう? ぼくが成ったら、かならずきみのところへ飛んでいくって」


 それは、あの日の下向きに咲いた紫色の花——ずいぶんとずんぐりした紫色の実に成っていましたが、まるで物語に出てくる天馬のように空を駆けては、シュレーニの身体を受け止めてくれていたのです。


「あなた……空を飛んでいるわ」

「そうさ。空の向こうではね、ぼくは死者の魂を迎えにいくことができる不思議な実でもあったんだ。この世界に堕ちてきて、実になることができずにずっと森で小さな花ばかり咲かせていたんだよ」

「空の向こう? あなたは空の向こうを知っているの?」


 シュレーニの言葉に少しばかり茄子は嬉しそうに身体を震わせて答えます。


「さあ、ヒトデナシ。優しい優しいヒトデナシ。ララバイが待っているよ、ぼくが塔の先まで連れていってあげる」

「ララバイですって……?」


 シュレーニは茄子の胴にしっかりと手を回しながらも、幼い頃に聞いたララバイのお話を思い出してはとたんに恐ろしい気持ちになりました。


「へいきだよヒトデナシ。きみなら、白いきみならきっと大丈夫」


 そう言うと茄子は力強く羽ばたいて、雲と砂に覆われた空の中を一直線に駆けてゆきます。

 遠くから見るだけだった、世界の空を支配しているような象徴。しかし地上からはその先端しか見えなかった逆さの塔が、シュレーニの目の前に現れたのでした。


 その塔は造りも古いものでしたが、決して老朽化しているわけではなく、まるでシュレーニを迎え入れるかのように少しだけ開いていた天窓のステンドグラスは、塵ひとつなく輝いております。


「ほんのちょっと、お腹に力を入れておいて」

「えっ、何。きゃああああっっ」


 天窓を通り抜けると、どうしたことでしょうか。

 塔の向きと同じく、とたんに天地が逆転してしまったのです。

 シュレーニは塔の一番下、空の裂け目に近いところまで一気に落ちてゆきました。

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