デジャヴ
kanaria
デジャヴ
「開けて」
ずっと頭の奥で響いている。優しくて不気味で甘くて残忍な声。
「開けて」
ずっと頭の奥で鳴っている。痛くて湿っていてどこか懐かしい音。
「開けて」
ずっと頭の奥で、奥で、奥で。
ここ一週間ずっと同じ夢を繰り返している。ただ一枚の扉を隔てて何もない空間にひとりきり。扉の奥からは男とも女とも分からない声がずっとしていて低いのか高いのかも分からないノックの音がずっと鳴っている。夜眠ってから途中で目を覚ましてもう一度眠りにつくそして同じ夢を見るこの繰り返し。夢には記憶を整理するという機能があると聞いたことがある。でも、こんなことは経験していない。似たこともなければ同じこともない。それにノックの音もかけられる声も毎回一言一言違う言葉のニュアンスもイントネーションも全部違う。こんなことが続くから全く授業にも集中できないし、この話をしたら家族にも友達にもバカにされた。考えすぎだ、ただの夢だなどと僕はそういう話をしているんじゃない。僕の直感が危ないと言っているんだ。これがずっと続いてもし、もしも扉が開いてしまったら。僕はどうなる。あんな暗くて何もないところで。それにあの夢にはひどく現実味がある。ちゃんと五感が働いている感じがする。聴覚や視覚はもちろんあの空間に流れる生暖かい空気も甘ったるい匂いもちゃんと感じるんだ。眠るのが怖い、夜が怖い、どうすればいい、どうすれば。
何を思ったところで時間は過ぎていくものだ。僕は眠ることの恐怖でずっと目を開けている。眠ればまた同じ夢を見るかもしれない、次に眠ればどうなる。二度と目覚めないかもしれない。睡魔が唐突に襲ってくる。あくびを堪えて目を開け続ける。
「開けて」
どうして、起きているはずなのにどうして、この声が聞こえてくる。
「開けて」とんとんとん
音も聞こえる。乾いた木を叩く音。俺の部屋の扉を叩く音。いやだ、いやだ、こわい、いやだ。
「開けて」どんどん
次第に音が強く乱暴になっていく。声に怒気が篭って口調もどんどん荒くなっていく。
「開けろ」どんどんどんどんどんどんどんどんかちゃ
あいた
そこで俺の意識は途切れた。眠ったというよりかは気を失った。結果として何もなかった。体にもどこにも異常はなくこうして登校している。朝起きたら扉は開いていなかったしそれどころか俺は布団の中で仰向けになっていた。目覚めて最初に見たのは自分の部屋の天井だった。扉でもなければその先にいるモノでもなく。
結局あれからあの夢を見ることはなくなった。何故あんな夢を見たのかも、その先に何があったのかも分からずじまい。煮え切らない感はあるがこれ以上恐怖に苛まれず済むのなら何でもいい。でも、あの時聞いた『あいた』とはなんだったのかそれもまだ分からない。
デジャヴ kanaria @kanaria_390
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