閑話 ライバル【下】

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 姉と共に蘭さまを玲衣奈お嬢様の部屋へと案内した。

 玲衣奈お嬢様の部屋には、専属の序列つきのメイドが忙しなくて動いていて、部屋には呪いを弱める符が貼られ、香が焚かれている。

 蘭さまは、息を荒く、目元に隈ができ、痩せ細っている玲衣奈さまに近づいた。


『初めまして、玲衣奈さま。陰陽師見習いの京極蘭です。

今日は、父さん――京極弥杜に代わり、破呪を行います』


 言葉を発するのも辛かったのでしょう。玲衣奈お嬢様は頷くだけでした。

 いえ、今まで高名な陰陽師や法師、術師と看て貰っても誰1人として治せなかった事から、諦めていたのかもしれません。


『のろいよ。のろいよ。出ていけー。出ていけー

のろいよ。のろいよ。出ていけー。出ていけー』


 まるで母親が子供に「痛いの痛いの飛んでけー」と言うかのように蘭さまは言った。

 それを聞いた誰もが落胆したというのは言うまでも無い。

 所詮は女子小学生の戯れだと、9割の人が思ったことでしょう。

 私は畏れ慄いてましたとも。言葉とは言霊。あんな魔力を込めて発したら、生身の人間で対魔力が低ければ「死ね」と言われたら、その場で死にかねない。

 後に私は同じ同世代の陰陽師である京華さまに、蘭さまがしたような事が可能かと聞いた所、


『無理に決まってるでしょう。たぶん弥杜さんでも無理よ、そんなこと。

言っておくけど、蘭が超特殊な子だから、陰陽師が全体的に蘭レベルなんと思わないで下さいよ』


 と、力説されました。


 蘭さまの言霊を直接受けた呪いは、まるで泥のように玲衣奈お嬢様の肉体から剥がれていきました。

 泥のような呪いは、玲衣奈お嬢様の肉体から床に溢れると人型へと姿を変えていきます。

 悍ましい。悍ましい。なんて悍ましい。

 黒そのものの人型には目は無く、赤色の口から言葉を紡ごうとする。

 呪いが紡ぐ言葉は呪詛。

 ここで紡がれたのは、聞いた者、全員が何かしらの呪いにかかる。

 誰も戦々恐々としている、蘭さまが一言。


『黙って? 口臭がキツそうだから、さっさと滅びなよ』


 まるでデコピンをするかのように中指を折り曲げると、指の周りに黒い魔力が雷のよりバチバチと音を鳴らし、その呪物を弾いた。

 どういう威力か。呪物の上半身を消し飛ばした余波で、その呪物の背後が、家の壁ごと吹き飛ばした。外の景色が分かり、風が部屋だった所に入ってくる。

 酷いギャグ漫画でも見せられている気分だった。


『えええ。想定より100倍ぐらい紙装甲過ぎ――せめてこれぐらいは相殺してよ

――って。ま、待って。もしかして。わ、わたし、人様のいえを半壊、させた』


 露骨に肩を落としたと思うと、ふと、自分のした事を見て顔面蒼白させた。

 壊れた人形のように振り返ると、悟ったような顔をして勢い良く土下座をした。


『申し訳ございませんでしたぁぁあああ』


『……玲衣奈。玲衣奈の呪いは』


『それは、もう完全に解いておきました! ワンパン――ではなく、ワンデコピンで!

玲衣奈さまの身体は、体力などを戻してますので、リハビリなしで明日から日常生活を送れます!』


『――お父様。お母様。わたし、身体が軽いです。夢のようです!』


『玲衣奈!』『玲衣奈!』


 私は玲衣奈お嬢様の姿を見て、唖然とした。

 ありえない。

 一目で健康体だと分かった。

 目の所に出来ていた隈も、やつれて痩せ細っていた姿が、まるで嘘のように元に戻っている。

 玲衣奈お嬢様、当主様、奥様は涙を流しながら抱き合う。

 感動的な場面で、蘭さまは土下座をしていた顔をあげて、親子の感動的な場面を、まるで何かを知りたいようにずっと観察していた。

 私の視線に気づくと、観察していた目を逸らして、3人へ話しかけた。


『あ、あの、弁償は、将来払いで、お願いしたい、です』


『弁償なんて、とんでもない!』


『ええ。家は建て直せば良い。でも貴女は、換えの効かない私達の大切な娘を救ってくれました。ありがとう――』


『い、いえ、その、そこまで喜んでくれると、ありがとう、ござい、ます?

一応、アフターサービスで、呪いをした術者と関係者に、玲衣奈さまが苦しんだ痛みを魂に直接味わうように改良して、百足の痣がでる呪い返しに』


『『『あぃぁああああ、ぎゃぃあああああ』』』』


『そうそう。こんな感じで絶叫、って、え?』


 声がした方向に指を差した蘭は、驚きの声を上げた。

 苦しみだしたのは玲衣奈お嬢様付きの序列メイド4人。

 そして喉元から顔にかけて、黒い百足這っているような痣が浮かび上がっていた。


 この後の空気は最悪だった。

 私と姉さんは当主さまと奥様に命じられ、蘭さまと玲衣奈お嬢様を別室へ連れて行き。残された方々が、どうされてどうなったかは、私の預かりの知らないことだ。

 ただ数ヶ月に渡り四天院家の綱紀粛正が行われ、十数人が行方不明になり、姉さんと私は、玲衣奈お嬢様の専属の序列つきのメイドになった。

 愚行を犯したメイド達の動機は『呪いをかけてずっとずっと生活の全てを世話したい』というサイコパスな動機だったようです。




 

 昔の事を思い出していると、玄関を開けパジャマ姿の蘭さまが姿を出した。


「きょーちゃん。玲衣奈。人の家の前で、何を騒いでるの?」


「……きょーちゃん。そう言えば蘭さまは、京華さんの事を……」


「言ったでしょう、蘭とは幼馴染みでずっと一緒にいるって!!

愛称を呼ばれない、自称・唯一無二の親友さんとは年期が違うのよっ」


「――――っ」


 玲衣奈お嬢様は悔しそうに顔を歪め、スカートを握りしめる。

 あの-、うちのお嬢様を煽らないでもらっていいですか。

 蘭さまと関わるようになってから斜め上の行動をするようになったんですから。

 玲衣奈お嬢様は、蘭さまの所まで歩いて行くと蘭さまの両手を握り、とんでもない事を言い出した。


「蘭さま、私と既成事実を作りましょう。そうしましょう。

蘭さまは攻めと受け。いえ、ネコとタチは、どちらが好みでしょう。

私は蘭さまに激しく攻めて欲しいところですが、望まれるなら私が攻めでも」


「この、ビッチ! 蘭に何を言っているのっ」


「び、ビッチっ。この私に対して? 四天院玲衣奈に向かって、ビッチといいましたか!!」


「言ったわよ。外でエロい事を言い出す貴女にはちょうどいい言葉でしょう。

それとも淫乱お嬢様の方がいいのかしら」


「――いいでしょう。一度、実力上位者への態度をどうするべきか。私、直々に教えて差し上げましょう」


「上等じゃ無いっ」


 困ったような表情をする蘭さまを見て、思わず「なんだか普通の中学生みたいだ」と、場違いな感想を抱いてしまった。

 ふと目を合った蘭さまは、私の近くまでやって来た。


「あの、これってどういう事態ですか」


「そうですね。一言でいうと蘭さまが愛されているということですよ。

それに、喧嘩するほど仲が良い、と、いう諺もこの国にはあるのですよ」


「ふむふむ。なら、私も喧嘩できる友達を作った方が」


「やめましょう。やはり喧嘩せずに仲良くするのが一番良いです」


 危ない危ない。私の不用意な一言で、危なく殴殺されるヒトが生まれる事でした。


 因みに京華さまと玲衣奈さまの喧嘩は、蘭さまのお母様が現れて止めに入り、一先ずは終わったんですが。

 理不尽なことに、傍観していた私と、ついでにという事で蘭さまも怒られる事になりました。



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 時系列補足

・京華が誘拐される 小学6年

 ↓

・玲衣奈にかかっていた呪いを破呪 小学6

・蘭が発散できない事から、力の制禦が難しくなる

 ↓

・京華は強くなる為、陰陽師専門の学校へ。

・蘭は一般学校。玲衣奈は蘭が通う学校に無理を通して転入

 ↓

・力の制禦が難しくなり、日常生活に影響が出始めた事から、玲衣奈に相談したところ、ダンジョンや潜る事を勧められ潜る事にする 中学1

 ↓

・深層でクエビコを拾う 中学1年

・配信者としの活動開始

 ↓

・マンダラ初突入 中学2年(1話)





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