第10話 奥の手


 9字を切り結界を張ってはみたものの……正直あまり意味なさそうね。

 蘭の対峙する白金鎧が、どれぐらい強いかは想像できない。

 ただ分かっている事は、私なんかは歯牙にも掛けずに殺す事ぐらい簡単で、蘭レベルで無いと対峙することは出来ないということだけ。

 横にいる絵馬さんが、震える手を握ってきた。


「ごめんね。大人なのに、私がフォローしないと、いけないのに。

――でも、無理なんだあ。もうアイツに心が折られちゃって、震えるしか出来ない」


 仕方ないと思う。

 あれが放つ禍々しさは、一度も戦っていない私でも、今すぐに逃げ出したいと思えるぐらいにプレッシャーを与えてくる。


「……なんで京華ちゃんは、平気なの」


「蘭がいるからです。蘭なら、きっとどうにかしてくれる。私は信じてます」


「そっか。――京華ちゃんは強いね。私なんかより、ずっと強いよ」


 そんな事はない。

 私は弱い。ずっと蘭を頼りっきりで、甘えてしまう自分を自覚している。

 だから、強くなりたい。



“あれが【ナイトメア】、いや今は【ルナティック】か。なんだよ……あの化物は”

“PCの画面越しからもプレッシャーを感じてしまう”

“――何人か気絶してるんじゃね”

“ああ。気絶してないのは、多少魔力耐性がある奴だけだろ”


“威圧感と、情報の多さで、軽く混乱してるんだが”

“同意。深層の更に奥のマンダラだっけ。なんだよ、それ”

“あのランって子は、もしかして深層を攻略したのか”

“もしも、深層攻略が本当なら世界初だな”

“中国とアメリカ。有名所でもまだ深層攻略は成ってなかったはずだ”

“攻略出来ていたらいの一番で、世界に向けて発信するだろうなぁ”


“深層到達するレベルの実力者は、国の総合戦闘力にも反映されるからそりゃそうよ”

“軍人はダンジョンへ潜る訓練が義務化されてるんだっけ”

“外国だと一部のダンジョンは、軍事訓練用に国が徹底管理している所が少なからずある”

“日本だと高知が、自衛隊をダンジョン関連の誘致に成功して、沖縄には及ばないけど、自衛隊マネーが国から給付されてるらしい”

“京都と山梨は反対勢に圧されて否決されたんだっけ。懐かしいな”


“化物と対峙している子と思われるチャンネルを見つけたぞ”

“【現役女子中学生による生ダンジョン配信チャンネル】↓https://www.dungeontube/@□□□□□□□”



 え。蘭のチャンネル!!

 直ぐにチャンネル登録しないとッ。



“おい。今は過去アーカイブを見ている場合じゃ無いぞ”

“化物がダンジョンの天井を別空間にして、10000を越える武器を召喚。流星の如く降り注ぐらしい”

“冗談乙。冗談だよな。冗談って言ってくれ”



 ドローンが上へ向いたと同時に、私も首を上げた。

 黒い空間には無数の光が輝いている。

 遠見の術で、輝く光が何かを見た。

 それは武器だった。

 刀。槍。剣。斧。鏃などなど、古今東西、様々な物語に登場する武器がそこに存在していた。

 見ただけで身震いするような魔剣。見ただけで絶対に手に入れたいと思ってしまう聖剣。

 もはや苦笑しか漏れない。


「あ、あは、ははは。無理だ。あんなの、どうしようもない」


「絵馬、さん……」


 同じく上を見ていた絵馬さんは、絶望な表情をして乾いた笑みを零しながら涙を流していた。

 気持ちは痛いほど分かる。

 絵馬さんが言ったとおりに、あんなのどうしようもない。

 蘭の実力を知っている私ですら、絶望を覚えずにはいられない。


 ――もし、ここに絵馬さんと私が居なかったら?

 きっと回避などして、蘭なら生き残る事は出来たハズだ。でも、私達がいるから逃げたり、回避などは蘭はしない。

 私は足を引っ張ってばかりね。

 ごめんなさい、蘭。


「きょーちゃん。私は何一つとしてアレに奪わせる気もないし、何一つとさえ勝ち星を与える気はないよ

例えこの肉体が、人外に近づこうとも、絶対に護ってあげる。だから安心して見ててね」


「ら、ん?」


 そう言った蘭の背中には、身長と同じ高さの黒と金に輝く穴が空いた円が浮かんでいた。

 高速で回転するそれは、二重、三重と成っていき、最終的には漆黒と白金が回転する三重の円が蘭の背中に現れた。


 恐い。怖い。コワイ。


 三重の円環が発する魔力もそうだけど、一番コワイのは、まるで蘭が蘭で無くなるような感じがする事が、私に恐怖を与える。

 でも、弱い私にはどうする事も、どうすることも出来ない。


 降り注ぐ数多の武具の数々。

 蘭が左手を上に上げると、10000ほどある光速で降り注ぐ武器は、完全に停止した。


「――へぇ、凄い! 凄いね。まさかこの攻撃を止めるとは思わなかった!!

でも、止めるだけで精一杯と言ったと」


『クリエイティブ・スライム。全てを喰い。纏め。萃め。創り出せ』


 拍手でもする勢いのシューティング・スター・プラチナ【ルナティック】の言葉を遮った蘭は、上げた左手の掌に見た事も無い模様の魔法陣を出現させた。

 魔法陣からは噴水のように黒色の粘着性のあるスライムが、噴水のように上空へ噴き出す、蘭が魔力で止めている武器を吸収し始めた。

 まるでブラックホールの如く吸込をした「クリエイティブ・スライム」は、あっという間に10000を越える武器を呑み込むと、まるで逆再生の如く再び魔法陣へ戻っていく。

 ただ1つ。

 蘭の前に一振りの黒光りする刀を残して。


『銘が無き物。■■■■の名の下に銘を授ける。『終焉(エンド・オーダー)』。全てに終わりを迎えさせる一振りとなれ』


 刀に話しかけた蘭は、刀を柄を握ると地面から引き抜いた。

 すると呼応するかのように、刀は爛々と輝くと鳴いた。

 分かる。あの刀は嬉しいんだ。

 蘭に使用して貰う事が、自分の存在意義とでも言わない


「おいおいおいおい。まさか、ワタシが喚び出した10000を越える武器をスライムに呑み込ませて、新しい武器を、そ、ウ、ゾう、あ、。う、あ、」


 蘭が刀を腰に下げていた空の鞘へ仕舞うと、シューティング・スター・プラチナ【ルナティック】は空間ごとバラバラになり崩れ落ちた。

 たぶん、納刀した瞬間に斬ったんだと思う。

 まるで時間も空間も終わりにして、0にしたようだった。

 粒子となり消えていくそれは、嘲笑するかのような声色で言う


「楽」「シマセテ」「貰」「ッタ」「次」「ニ」「会」「エル」「マデ」「ニ」「死」「ナナイデ」「ネ」


 蘭は振り向かずに私達の前に来ると、ポツリと何かを呟いた。

 空間にノイズ走ると、そこは今までいたダンジョンではなく、青木ヶ原樹海ダンジョン入り口に変わっていた。


 蘭の背後に浮かんでいた三重の円環は回転はほぼ停まり、ボロボロと朽ちていき地面に落ちて黒い粒子となり消えていく。


「ら、ん。ね、ねぇ。貴女は、蘭、よね」


「――――うん。当たり前、じゃん。私は私。京極、らん。だよ。

それと、きょー、ちゃん。ごめん。」


「え」


 私の前が紅く染まる。

 蘭が、血を吐いて、倒れて――、


「いやぁあああああああ!!」





/・/・/・/・




 これにて一章は終わりとなります。


 二章は陰陽師サイドがメインで、ダンジョン要素はサブになる予定。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 ★や感想などで応援していただけると、執筆の励みになります。

 これからも、宜しくお願いします








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る