第9話 シューティング・スター -流れ星-


「痛ミ」「ヲ」「感ジタ」「ノハ」「久方」「ブリ」「ダ」


 相変わらず色々な人間の声を使ってくる。

 ――正直、白起以上に読めない。

 声は言霊。それが様々な声を継ぎ接ぎのように言ってくるので、先が読みにくいったらありゃしない。


「私(俺)(儂)(僕)」「ニ」「マデ」「攻撃」「ヲ」「届」「カセル」「トハ」「予想外」「ダッタ」


「生きるというのは、予想外の連続なんだよ。1つ賢くなって良かったね」


 皮肉を言ったところで、意味ないんだろうけど、言うだけは言ってやる。

 攻撃した感触で、コイツがどんな存在かは、前世の記憶を元にした記録から大体予想が付いている。

 高次元存在体。

 この次元とは別の高い次元にいる奴が、気紛れで投影により姿を顕した時の感触と同じだった。

 存在自体がチート。

 こっちの世界に姿を顕しているのは影でしかないので、こちらの攻撃は向こう側には届かない。逆に向こう側からは、こちら側への干渉は好きに出来る。

 正にワンサイドゲーム。

 今の私ですからも、フルパワーの攻撃は本体に少しのダメージを与える事しかできていない。


「残念」「居ル」「場所」「ハ」「高次元」「デハ」「ナイ」


「普通に人の心を読むのは止めてくれる? 乙女の心の裡は、プライバシーの塊なんだけど」


「居ル」「場所」「ハ」「普遍的無意識」「――」「マンダラ」「深層」「最深部」「ソコ」「ニ」「私(俺)(儂)(僕)」「ハ」「居ル」


 おっと。無視ですか。コノヤロー。


「――待ってたんだ。キミのような存在が現れるのをずっとずっと長い刻のなかで」


 急にまともな声で、しゃべり出したッ。

 こればかりは予想できなかった。

 なんか意表をつかれた感じがして悔しい。


「ああ。別に普通に喋る事はできるのだけど、ほら、キミ(人間)達はああ言った演出的な声が好きだろう?」


「なら、なんで奇妙な繋ぎ合わせの汚い声から、普通の声に戻したの」


「あれ以上、あの声を続けていたら、怒って話も聞かずに攻撃してきたでしょ。

先(未来)を読めるのは、別にキミの専売特許じゃあない」


「先が読めるぐらいたいした事じゃないんですが?

マウントをとろうとするの止めて貰えますか?」


「……あのさ、ワタシのこと、キライ?」


「ゴ○ブリ以下の好感度だよ」


 別に好き嫌いはない。

 ただゴキ○リはキモチワルイけど、素直に斃すことが出来る。目の前のこれはキモチワルクて、素直に斃させてくれない時点で、○キブリ以下の好感度しかない。

 そもそも高次元的な存在は、どいつもこいつも碌な事をしないというのが前世から培ってきた経験法則。

 基本、サーチ&デストロイ。

 どうせこちら側で殺しても、向こう側の本体はほぼダメージないんだし、かまってちゃんみたいにちょっかい出してくるから、面倒くささしかないと思っている。


「そんな何処の誰ともわからない者と比べられても――。

キミへの好感度下げないように、コッチは気を使ってるんだから、そこは分かって欲しいところだね。証拠に後ろの2人はまだ殺してないだろ」


「2人に指1つでも触れたら殺すよ?」


 正直、一緒の空間にさえ一緒に居させたくないぐらいの嫌悪感を我慢して相手をしてあげてるので、そっちこそ察して欲しい。

 ゴキブ○から病原菌へとランクダウンしていた。

 今世で喋っているだけで、これほどイヤになる存在にあったのは初めてだ。

 さっと用件を聞いて話しを終わらそう。


「人類で初めてマンダラに到達した人間だから、一度会ってみようと思ったんだ

普通に居たら無視されそうだからね

キミは死にそうな相手を見捨てられるほど、人間を捨ててないだろう」


「褒めてくれてありがとう。……ところで、もし想定していたと同じく1秒遅れてたらどうしてた」


「人生にifはない。あるのは結果だけだ。キミはワタシの想定よりも1秒早く中層に達して、彼女を救った。それだけが真実だ。

とはいえ、彼女達も運が無かった。ちょうど近くに【ナイトメア】が居たから、借りることができたのだからさ」


「――借りた?」


「影として現れるにはユニークポイントが必要なんだ。ダンジョンにおいてワタシが影として投影できるユニークポイントは、【ナイトメア】級のモンスターだけなんだ。

他の存在と、耐え切れずに崩壊してしまう

――ああ。同じ【ナイトメア】だと分かり難いか。

よし、クエビコくん。ワタシをアナライズしてくれよ」


『――。信じられません。個体名の変化を確認。【ナイトメア】から【ルナティック】に名称が変更を確認。現在、唯一確認された【ルナティック】級個体です』


 悪夢から狂気に呼び名が変わっただけじゃん。


「残念だけど、変わったのは、名称だけじゃあない。

――せっかくだ。キミの底をワタシに見せてくれよ」


 指を上へ向けた。

 すると土岩で覆われていた天井は、まるで宇宙空間のような黒い空間が広がっていた。黒い空間には光輝く星のような存在が、100、ううん、1000、いや、10000を越えて見える。

 ただの星じゃあない。

 あれは……、


「空間(ソラ)に浮かぶのは、普遍的無意識内にある、人間が様々な創作物において生み出した古今東西三千世界にある武器の数々だ。どうだい、人間の想像力は豊かだろう?

キミがダンジョン内での最高速度を上回る速度で落下してくる、10000を越える流星を相手にどう立ち回る?

ワタシに可能性を見せてくれ」


 白銀鎧は指を上から下へ向けると、10000を越える武器の数々が、まるで流星の如く、私達へ降り注いでくるのを見ながら、私は場違いな感想を抱いていた。



――なるほど、個体名、シューティング・スターはここから来たのかぁ。



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