第8話 負けず嫌い
ふぅぅぅ。危なかったぁ。
玲衣奈に相談して帰宅までの時間を考えたら、ギリギリになりそうだったので、今までの中でも最高速度で、ダンジョンを駆け上がって来て良かった。
もし何時も通りのスピードだったら間に合ってなかったよ。
「想定」「ヨリ」「1」「秒」「速」「カッタ」
白金の鎧のモンスターが喋った。
男とも、女とも、子供とも、大人とも、老人とも、青年とも、全ての声を合成したキモチワルイ声。
思わず鳥肌が立つ。
咄嗟に膝を曲げ、フルパワーで腹の所に蹴りを入れた。
白金鎧は端の壁まで、勢い良く飛んでいく。
「――――ィ」
蹴りをいれた右足が痛む。
まるで幽霊を蹴るような感触と同時に、絶対零度の冷気、最高温度の高温、その両方を蹴ったわずか0.5秒にも満たない間に受けた。
――前世・超魔神皇としての時にも、似たような感触を味わった経験が知識としてある。
ダンジョンで初めてダメージを受けた以上に、もしも私が想像通りだとすれば、ちょっとだけ厄介だなぁ。
『アナライズ完了。個体名、『シューティング・スター・プラチナ【ナイトメア】』
ダンジョンにおけるユニークモンスターの頂点・EXTRAモンスターに該当。中でも【ナイトメア】と呼ばれる一種は、階層移動、またはダンジョンの外に出る権限を与えられた強個体』
「――【ナイトメア】は、2体ほど斃してるけど、あれほどじゃあなかった。
別物じゃない?」
クエビコのアナライズには信頼を寄せているけど、今回ばかりは、ね。
今まで戦った【ナイトメア】がジ○ングだとすると、さっき蹴り飛ばしたのはネオ・ジオ○グぐらいのスペック差だと言っても良い。
「あの、貴女、何者――?」
呆然としていた……えっと確か、東雲絵馬さんだ。
私は探索者の配信は余り見ないので、他の探索者は知らないけど、この人はきょーちゃんが動画でよく見せてくれたから覚えていた。
「現役女子中学生ダンジョン探索&配信しているLANです。
宜しくお願いします、東雲絵馬さ、」
東雲さんに挨拶を最後まで出来なかった。
上層へ向かう方から石が思いっきり投げられてきたから、咄嗟に避けることにした為だ。
石が投げられた方を見ると、きょーちゃんが顔を真っ赤にして立っていた。
「はぁはぁはぁ。らぁぁぁあん。あ、貴女、配信で、何を言ってくれてるの!!」
「え。配信。――――もしかして、今って配信中、デスカ」
「う、うん。さっきのモンスターを少しでも後生に残そうと思って、それで――」
そっか。そうなんだ。配信中だったんだぁ。
余計な事をいっちゃった……。
ちょっと殴られるぐらいは覚悟しておこう。
きょーちゃんが、私の前までやってくる。
殴られる、そう思ったけど、予想外な事にきょーちゃんは私の胸元に顔を埋めた。
「きょ、きょーちゃん?」
「私の秘密を、生配信で言ったのは、絶対に、絶対にっ許せないけど……。
絵馬さんを助けてくれた事は感謝しているわ。ありがとう。蘭」
「もしかして、泣いてる?」
「泣いていないわよ。ちょっと、こうしていたいだけ
――そもそもなんで蘭は、此処にいるのよ
「私、探索者で配信者してるんだあ」
「……初めて聞いたんだけど」
「だって、きょーちゃんってお母さんに何かと言うじゃん。
両親に内緒に潜ってるのに、バレたら大目玉確実だもん。言えるわけないよね」
きょーちゃんは私の両親と仲がいい。凄く良い。
その為か、お母さんが「外堀が埋められていくわね。意外と孫の顔を早く見られるかしら?」と、意味不明な事を呟いていた。
その時に思わず、「お母さん。何言ってる? 呆けたの?」と言ってしまったんだけど、どうしてもその後の記憶がない。
思い出そうと無理矢理記憶を掘り起こそうとすると、寒気と吐き気と頭痛に見舞われてしまうので、もう思い出すことは諦めている。
「――もしかして負けたの」
「あははは。負けてないよ。あのまま戦ってたら私の完勝で終わってた」
「相変わらず、戦いの事になると負けず嫌いよね、蘭は
何処まで潜ってたの? 蘭の実力的に下層? それとも、もしかして深層?」
「ううん。深層よりも更に奥の世界、マンダラだよ」
「は? 深層よりも先が、あるの?」
「あるよ。今日初めて行ったけど、呂布とか白起が出てきて、楽しかった。
今日の配信分はアーカイブにあるから、時間があるなら見てね」
顔を胸元から放したきょーちゃんは、あんぐりと口を開けている。
なんだか可愛い。
ほっぺをつんつんてしたい。怒られるかな。
その後ろにいる尻餅をついたままになっている東雲さんも、信じられないような表情をしていた。
と、そろそろ向こう側を相手にしないとダメか。
「きょーちゃん、東雲さんと一緒に私の少し後ろに居て。
まださっきのは斃しきれてないみたいなんだよね」
「わ、分かったわ」
きょーちゃんは私の所から離れて東雲さんの横へ行く。
そして『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前』と、9字の印を結び、結界を張った。
正直、アレ相手だとあってないような物だけど、ないよりかはマシだね。
そもそも私が此処にいる以上は、きょーちゃんに傷の1つもつけさせる気は無い。
「いつまで死んだふりしてるのさ。さっき蹴り入れた感触で分かってるんだけど?
たいしてダメージ受けてないよね」
私の言葉に反応するかのように壁にめり込んでいた、白金鎧は再び姿を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます