第3話 マンダラ1階層【3】


 ああ、流石、流石だ。無数にある三国志を題材とした創作物において「最強」の枕詞を与えられた武将、呂布奉先。

 一撃一撃が必殺。

 方天画戟の一撃は、例え刀で禦いでも衣服が傷つき、ボロボロになっていく。

 深層のモンスター相手でも、一切ダメージを受けなかったのになぁ。


『三国志に出てくる有名武将、呂布奉先との一騎打ちを生配信しているにも関わらず、同時接続数0は、もはや世界記録では?

せっかく良い感じに、制服が破れてエロさが出ているのにも関わらず、これでは……。やはり素体が悪いのではないでしょうか?』


「胸なんて脂肪の塊のどこがいいの! 確かにっ、私は胸は、巨乳じゃ無いけど、十二分に美乳だしっ。形とか、ハリとか、十分だって可――友達も言ってたんだから」


『数十年以上前の漫画のキャラクターが言った「貧乳はステータス」とでも?』


「貧乳じゃないしっ。美乳だし!!」


 そもそも私はまだ中学生なんだから、多少、貧だとしても、将来性があるもん。


「俺を相手に喋る余裕があるとはなあ!!」


 呂布の怒声と共に、方天画戟の一撃の威力とスピードが更に増してきた。

 だけど、もう――慣れたんだよね。

 戦い始めた当所は焦ることがあったけど、正直、もう呂布の攻撃は慣れた。

 例え呂布が、どこかの尻尾が生えた宇宙人のように、スーパー化したとしても十二分に対応可能なレベルまで、経験を肉体へ落とし込めた。

 攻撃の軌道は、未来視の戦闘特化させた「未来軌道」で把握できるので、どこにどう攻撃してくるか、ハッキリと把握できる。これが面倒くさく胡散臭い詐欺師タイプなら、軌道を隠されたり、偽の軌道を見させたりと油断できないけど、呂布の場合は攻撃が純真なので把握し易かった。

 このまま戦い続けたとしても10分以内には、間違いなく斃すことが出来る。


 ある程度の勝ち筋を見え、刀を振り上げた瞬間のことだった。

 突如、刀を斬られた。

 呂布との戦いで、ボロボロになっていた刀とはいえ、一体誰が――ッ。

 先程、射撃で私を狙ってきたシモ・ヘイへの件もあるので、呂布の攻撃範囲外へと出て防御の構えをとった。


「――白起! 俺の邪魔をするなっ」


 怒声を放ち呂布は、手に持つ方天画戟を、白起と呼んだ者の方へと向ける。


「敵対個体を確認。アナライズ完了。個体名称:白起。中国戦国時代末期の秦の武将。戦国四大名将の一人。長平の戦いにおいて10万人以上を生き埋めにした人物」


 ……えぇぇえ、秦って紀元前前の中国の国の1つだったハズ。なんかの漫画で読んだ。

 幾ら紀元前前の時代とは言え、普通10万人以上の人を生き埋めにする?

 現代人の感覚なら限りなくアウトだけど、あの当時は大丈夫だったとか、あるのかなあ。


『資料は少ないですが、紀元前とはいえ非難する声はあったそうですよ』


 だよね!

 改めて白起を見て観察していけどヤバイ。かなりのヤバイ。

 単純な武力なら呂布と互角ぐらいかもしれないけど、私の「未来軌道」が反応しない。したとしても不安定で、ありえない軌道を視せられる。

 流石、10万以上の人を生き埋めにした将軍。読めないし、理解できない。

 に、しても……呂布が読みやすいと考えた直後に、読めない相手を出してくるなんて。

 ――ダンジョンの、マンダラの創造主は、私を見てたりするのかなあ。


『どうかしましたか』


「なんでもないよ」


 見るなら見るで、千里眼みたいな覗き見でなくて、私の配信動画を見て下さい。そうしてくれれば接続数1となって、私がとても嬉しいです。

 まあ、何か仕掛けてきている確証がない以上、何かするつもりはないし、出来ない。

 今、集中するべきは呂布と白起のこと。

 流石の私とは言え、この2人を相手を同時に相手にするとなると、少し面倒かも。


 そんな風に不安を抱えていると、呂布は邪魔された事が酷く不満だったようで、白起の方へ赤兎馬を駆けていった。

 白起の方も応えるように馬を駆り、私を一切無視して呂布と一騎打ちを始める。


『不満のようですね』


「当たり前じゃん。せっかく楽しい戦いをしてたのに、邪魔された挙げ句に、対戦相手を横取りされんだよ。これを不満を抱かずにどうしろというの」


『こういう時は、2人に対して女性なら一度は憧れるという『私のために争わないで』と悲劇のヒロインぶって見てはどうですか。煽られたと思って、2人同時に戦えるかもしれませんよ。非推奨ですが』


「――なに? クエビコは私が呂布と白起と同時に戦ったとして負けると思ってるの」


『貴女はスポンジの如く経験を吸い取り、相手より強くなっていきますが、――果たして苦戦をするように仕組まれた空間で、どれだけの相手を同時に捌く事ができるでしょう』


「……」


 クエビコの言葉で、周りを索敵してみると、探知範囲内で二桁はいるね。

 どうやら私と呂布の戦い、今行われている呂布と白起との戦い、両方の戦いの臭いに釣られて、戦闘狂が集まってきているようだ。

 ――はぁ。人類史から戦争がなくならない訳だよ。


 内心。私はもっともっと強者と戦いたくてウズウズしている。

 どちらかというと呂布と白起の戦いに介入して、更に集まっている戦闘狂達と戦いを繰り広げて、どこまで強くなれると、生と死の境界線上で自分を試したい。


 ――ああ、でも、残念なことに、今日は時間切れだ。

 両親に内緒でダンジョンに潜っている以上、きちんと門限までは家に帰宅しないといけない。

 せめて今日が土曜日なら、玲衣奈の家に泊まるという事にして、土曜日の朝から日曜日の夕方までじっくりと潜れたのに――。

 これ以上、ここに居たら戦闘欲求が増加して自分自身を抑えられる自信がなかった。


 私は断腸の思いで、マンダラ1階層から退くことにした。

 本当ならダンジョンの感覚で、マンダラ上層部は攻略するつもりだったけど、思った以上に楽しめそうな世界だと分かったのが、最大の収穫だ。


 あとは、同時接続が増えてくれたら良いんだけどね――





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