第2話 マンダラ1階層【2】


「私は服装は今のままで行きます。それよりも、マンダラ、だっけ。ここに来た事で情報がアンロックされたんだよね。情報開示をお願い」


『チィ。――――仕方ないですね』


 銀色の球体で、上下左右前後にレンズがあるだけの存在の癖に舌打ちをしたよ。


『ここは新世界・マンダラ。地上にある108ヶ所のダンジョンの深層踏破後に拡がる共通の世界。今までのダンジョンとの最大の違いは現実世界ではないという事です』


「現実世界じゃない――つまり異世界ってこと」


『異世界というよりは異空間と言った方が正しいでしょう。ここマンダラは、人間でいう集合的無意識、或いは普遍的無意識と呼ばれる場所。

ここはダンジョンと同じく上層、中層、下層、深層の4層に分かれています

上層に現れるのは、人間の英雄達。例えば織田信長。本田忠勝。宮本武蔵。などです』


「へぇ、つまり歴史上の偉人と戦えるってこと?」


『本人ではなくあくまで影ですが。ただし、この影が厄介。

例えば織田信長。

彼が歴史上にあるそのままのスペックで現れた場合、深層踏破した貴女では瞬殺してしまうでしょう』


「いやいや、モンスターじゃないから会話は試みる、かも。まぁ最終的には斃すけどね」


『相変わらずの脳筋振りに安心します。

話を戻します。ここに顕れる影は、普遍的無意識にあるifや数多の作家が想像し創造した『織田信長』を纏めた『織田信長』です。更には深層踏破した者が、苦戦するように強化されてます』


「え。強化。強化と言った?」


『はい。アンロックされたデータによると、ここに顕れる影達は為べからず深層最下層ボスを瞬殺できるように調整されてる、との事です

――どうやらあまりピンときてないようですね。

丁度良いことに、記念すべきマンダラにおけるファーストエンカウントです』


 クエビコがそう言った直後。

 私の感知範囲内に飛来物を確認出来た。

 腰の所に下げている刀の柄を握りしめ、向かってくる飛来物に対して抜刀をする。

 それは矢だった。

 通常の矢よりも大きく、成人した男性が貫かれれば真っ二つにされかねない大きさ。私が貫かれた場合は、間違いなく上半身と下半身がさよならである。


――――思った以上に重い。


 刀を操り矢のベクトルを僅かにずらし向かっていく方向を変える。

 矢は私の頭の横を通り過ぎ、地面に激突すると、まるでミサイルが地面に激突したかのような大きな音を立てた。

 少しだけ振り返って見ると、巨大な大穴が空き、土埃が舞っている。

 先程はまるでミサイルのようだと思ったけど、ミサイルよりも恐いよ、これ。ミサイルなら斬る事が出来るけど、この矢はベクトクをずらす事しか咄嗟に出来なかった。


「俺の矢を逸らすか、小娘」


 重圧がある声。

 蹄の音を立てながら向かってくる奴を睨み付ける。


 それは、赤いまるで血のように紅い馬に乗っていた。

 それは、背に弓矢の筒を背負い、古代中国の鎧を着込んでいた。

 それは、手に自身の背丈よりも長く、三日月状の「月牙」と呼ばれる横刃が2枚付いた方天画戟を軽々と片手で持っている。


『アナライズ完了。敵対個体名称、呂布奉先。三国志演義において張飛と関羽が同時に相手をしても斃せず終始圧していた、最強の武将』


 これが、あの呂布。

 中学生の私でもゲームや漫画で名前程度は知っている。

 本当はじっくりと戦ってみたいところだけど、明日は学校。友達の玲衣奈にアリバイ作りをして貰って放課後の僅かな時間に来ている身。

 悪いけど、さっさと斃させて貰うよ。


 私の周りに雷が奔る。

 バチバチと音を立て、一歩踏み出すと、世界の時間の流れがほぼ0となる。

 超高速で動くことで時間停止となった世界を走る。

 赤兎馬の頭を踏み台として利用して、呂布の眼前へ向かい、刀を頸へ向けて走らせた。が、刀の刃が呂布の頸を切断する事は無かった。

 方天画戟を柄の部分を動かし、刀を禦いで見せたのだ。ほぼ停止していると言っても過言ではない世界でだ!!

 再び赤兎馬の頭を蹴り、今度は後方へと飛んで地面へ着地すると、時間が動き出す。


「少しは速く動く事ができるようだ」


 あははは。停止する時間内を移動した攻撃の感想が「少し速く動ける」……?

 面白いっ。さすが深層のその先にある世界!

 闘志を漲らせていると、常に展開している魔法障壁を貫通、仮面からも貫き、私のこめかみに当たった。

 幾重に重ねて展開している魔法障壁と仮面を貫いた事で、こめかみに当たった際には威力が無くなっていたことで、致命傷は回避できたけど――。誰が攻撃してきた?

 呂布じゃない。

 一瞬たりとも目を離してないし、この攻撃は銃弾だ。


『300メートル先にある林の中に敵対個体を確認。アナライズ完了。個体名称:シモ・ヘイへ。フィンランドの軍人。『白い死神』と呼ばれ怖れられた、世界屈指のスナイパー。当たると確証を得た時点で撃ったことから命中確率はほぼ100%を記録。狙撃に失敗したと悟ると撤退を開始。――なるほど一流のスナイパーです』


 いや、ほぼ成功しているよ。

 私が魔法障壁の数を少しでも減らしていたら? 仮面を付けてなかったら? もうちょっと弱かったら、こめかみを貫いて一度は死んでるよ。一度は、ね。

 まぁ脳天を貫かれた程度で、完全に死ぬ事はないけど。ないけど、今世で初めて死を錯覚した。

 『白い死神』と呼ばれていただけはある。


「死神の弾丸を受けて死なぬか。面白い、戯れてやろう」


 呂布の言葉に赤兎馬が啼くと、人馬一体の見惚れるような動きで攻撃を繰り出してきた。



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