第4話 深層・最深部・セーフティルーム


「……どうしよう」


 マンダラ1階層を出た私は、深層最深部のセーフティルームで溜息を零した。

 呂布との戦った高揚感はなくなり、冷静に自分の状態を見た。

 戦っている時はあまり気にしなかったけど、制服がボロボロの状態だ。

 肌には傷1つ付いてないけど、布面積なんとか胸と、腰回りが少々残っているぐらい。ほとんど半裸。逆に着ているのが恥ずかしいかも。――いや、乙女のプライドにかけても絶対に脱がないけど


『その姿でダンジョン深層探索しましょう。サムネをちょうどいいアングルにしてやれば、視聴者は釣れて、きっと人気になります』


「私は露出狂じゃないよ! そもそも下手するとBAN対象じゃん。と、言うか今は撮ってないよね。撮ってたら壊れるまで全力で殴るからね!」


『そんな人間がよくやっている、殴って記憶を消す方法を実践されても困ります。そもそも今の貴女の全力でもで殴られたら、私は全壊します。

心配しなくても今「は」撮ってません。

どうせこの後は超高速化による最高速度でダンジョン入り口まで戻るだけでしょう。何一つとして映える映像が撮れない以上、無意味です』


 つまらなそうにクエビコは言う。

 そもそもどうせ映える映像撮ったところで、見る人が居ないから無意味だよ!


『自虐乙です』


「ふんだ。まぁ、映える映像と言えばマンダラに行けばいくらでも撮れると思う。まさか今の私と互角に戦える存在が、上層で既にいるとは思わなかった」


『おや。マンダラから帰還したため、情報がアンロックされました。マンダラは初回深層踏破した人物を基準として、苦戦するようにしてあるとの事です』


「――――え。もしかしなくても、初回深層踏破者って私ですか?」


『そのようですね』


「た、例えばだけど、今いる青木ヶ原樹海のダンジョン以外の3ヶ所、海外のダンジョンを他の人が深層踏破しても、マンダラに出現する敵レベルは私基準?」


『ええ。初回踏破者は貴女ですからね』


「ま、まぁ? 深層踏破したって事はニュースで聞かないし、ダンジョンに潜る人も少ないようだし、現時点でマンダラまで行けるのはいない。うん。だから、無問題」


『現時点ではいないようですが、未来はどうでしょう。もしも辛うじて深層踏破する実力者がいて、その感じでマンダラに入った場合は自殺行為ですね。

ダンジョンが深層最深部のモンスターレベルが100としたら、マンダラはレベル5000オーバーほどでしょう。

しかも相手は古今東西の人類史に悪名有名を轟かせる者達がいるのです。普通の強者ならエンカウント直後に死ぬ可能性99%以上』


「わ、私は悪くないっ。そんな情報は知らなかったもん」


『では、事前に知ってたら深層踏破はしなかったんですか?』


「……クエビコって意地悪だよね」


 例え知っていたとしても私は、踏破した。

 だって未知の強者がいるんだよ。行かない理由がない。

 マンダラとダンジョンの創造主は、ちょっと性格がアレっぽいけど、力を解放する事が出来る場を作ってくれる点では感謝している。

 とはいえ、知らずに深層を攻略してマンダラに突入して直ぐに死亡というのは、なんだか私の所為みたいで目覚めが悪い。


「次回の配信は、マンダラの危険性を配信しようかなぁ」


『見る人が0で、危険性を説いたところで意味があるのでしょうか』


「今は見られなくても、私の死後に、マンダラ到達した人が情報を求めて見る事があるかもしれないじゃん」


『おや、ランから初めて死ぬというネガティブな発言を訊きました』


「私をなんだと思ってるの。死ぬよ、私は人間だもの。死因は天寿全うして老衰以外で死ぬつもりはないけどさ」


 前世、超魔神皇と呼ばれいた者の望み。

 人として生き、人として死ぬ。

 ただ、それだけの為に、今まだ積み上げてきたものを破棄して転生を選んだバカ。

 どれだけ上位存在になっても、隣の芝は青く見えるようだ。まぁ、前世のアイツが何を考えていたとしても、どうでもいい。

 私は私で、超魔神皇とか呼ばれていたアイツじゃあない。

 それよりも今一番の問題は、


「ボロボロの制服をどうやってお母さんに誤魔化そうか」


『下校途中に不審者に襲われたとかどうでしょう』


「いや、ここまでボロボロの状態って、その、事後っぽくない? きっとお母さんとお父さんがガチ切れして、大変なことになると思うんだぁ」


『ふむ。なら、怪異にでも遭遇したというのは?』


 お父さん――京極弥杜は、国の官職である陰陽師。

 怪異や魔物を討伐したりする仕事をしていて、今では友達の玲衣奈とも、ある呪いによる怪異事件において知り合った経緯がある。

 一応、国家公務員であるため、収入は安定しているけど、警察並みに休みが不安定で、休日出勤もザラ。私の誕生日の時に呼び出しの電話がかかって来た際は、『娘の誕生日だから何があってもかけてくるなって言ったよな』と怒鳴り合い、辞職もチラつかせていたので、私が説得してシブシブと出かけていった事もあった。


 お母さん――京極雅は、超能力者……らしい。

 どんな超能力を扱えるか知らない。聞くタイミングが無かったんだよね。

 まあ、きっと、お父さんよりかは強いと思う。お父さん。お母さんの尻に敷かれているし。


 下手に不審者とか怪異とか学校でイジメられたとか、そんな言い訳をしたら、なんだか酷い事になりそうな気がするので、両親に嘘を付いて誤魔化す気にはなれない。

 とはいっても、ダンジョンに1人で潜ったって知られたら……、


 正座をした私の前に、天使のような笑顔で、呂布以上の威圧を放ち立っている母さんの姿が容易に想像できた。


 全身が恐怖で震える。


「と、とと、とりあえず、ち、地上に戻って、かか、可奈に相談、する。う、うん」


 この恐怖を少しでも紛らわせる為に、私は再び時が止まるほどの速度で、地上へ向けて移動を開始した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る