第3話
さて、回想はこの辺にしておき。
俺たちは今、ギルマスから連絡をもらい拠点に向かっている最中だ。この世界に存在する文房具の生みの親といわれている魔女について、情報が入ったとのこと。
「ほら、本が面白いことは分かりましたから。街が近くなってきて、人も増えてきたからちゃんと前を見て歩かないと―」
ドンッ
(あー、言ったそばから…)
小説に夢中でよそ見をしていたオカザキさんが、前方から来たスーツ姿の男性とぶつかってしまった。
「す、すいませ―」
「おいおい、ぶつかったせいで私の一張羅に傷がついてしまったじゃないか。どう責任取ってくれるんだ?(ニヤニヤ)」
…なんとまぁ、典型的な当り屋だこと。こういうのは相手にしたら負けだ。
「こっちは謝ったんだ。それに、ぶつかっただけで服に傷なんてつくはずが―」
ビリビリビリ
「「…え?」」
目の前で起きた事象を理解することに、こんなにも難しく思ったことがあるだろうか。
なんとこの当り屋、一張羅と言っていたスーツを自分で胸元から破り捨てたのだ。そして現れたのはプロレスラー。
(あー、この人が例の人か。)
そう、ギルマスから連絡を受けたとき、街の近くでぶつかっては、その腹いせにプロレスラーの格好になり、プロレス愛を熱く語る男―タカヒロ・サトウ―がいる、と。
「この街の格闘場で最強と謳われるミスターKは、技をかけるときにこの名言を―」
「オカザキさん、オカザキさん。」
俺は呆然と立ち尽くしているオカザキさんに声をかけた。
「ギルマスからもらっている彼の情報が正しければ、このまま無視して横を通り過ぎることができるはずだから、ひとまず無視して進みましょう。」
「そ、そうね。そうしましょう…」
二人で彼の様子を伺いつつ、横を素通りした。彼は自身の世界に入り込んでしまっているのか、俺たちがこの場を離れることに気がつく気配はない。
「あんな人本当に要るんですね、びっくりして思わず固まっちゃいました笑」
「いやー、俺も今まで生きてきて初めて出会いましたよ。けど、オカザキさんも彼に似てますよ。」
「え、あれに?!」
「あれって笑。ほら、文房具のことになると夢中になって周りが見えなくなるところとか。」
「そんなことないですよー。」
とまぁ、話していると我らがギルドの拠点に到着したのだった
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