第4話

 それからの出来事は、はっきり言って和也には、まるで夢の中の出来事みたいだった。

 だけど……

 だけど。

 病院に担ぎ込まれる、血だらけになってしまった千奈津。

 手術室の上にあるランプがばち、と音をたててつくのを、和也はまるで遠くの出来事みたいに感じながら見ていた。

 そうこうする間に、多分一緒にいた優治から皆の家族に連絡が回ったのだろう、和也の両親、優治の両親、そして千奈津の両親が病院にやって来た、だけど和也は誰が来て、何を話しかけようともほとんど何も答えられなかった。

 もし……

 もしも、千奈津が死んでしまったら……

 その考えだけが、ぐるぐると頭の中を巡っていた。

 そして……

 ややあって。


 ばちん。


 と。

 音がして、手術室のランプが消える。

 そして……

 出て来たのは、手術着に身を包んだ女性の医師だった。

「……千奈津は……」

 和也は立ち上がり、その女医に詰め寄った。

「千奈津は、どうなったんですか!?」

「落ち着いて下さい」

 女医が言う。

「今、ご説明しますから、ご家族の方は……」


 そうして。

 女医から聞かされた事実に、和也は……

 和也は、頭がぼんやりと霞む程の衝撃を受けた。

「神藤千奈津さんの手術は、ひとまずは成功しました」

 女医が言う。

 だが。

「ただ……打ち所が悪く、後遺症が残り……」

 女医は、目を閉じた。

 そして。

 彼女は、はっきりとした口調で告げる。

「千奈津さんは、多分もう一生、歩けないでしょう」


「……っ」

 和也は、いつの間にか閉じていた目を開けた。

 そう言われた時。

 和也は、自分が何かを聞き間違えたのだ、と思った。

 でなければ、例えば『もし今度こんな事故に遭えば』とか、そんな言葉を聞きそびれたに違い無いのだ、と思った。

 だけど……

 だけど。

 『現実』は。

 そして……

 『運命』は……

 何処までも……

 何処までも、残酷で……


 千奈津は、もうずっと車椅子か、或いはベッドから下りられない……

 そして。

 高校も、今でこそ優治や和也に、『プリントを持って行ってくれ』とか、『授業のノートを纏めて持って行ってくれ』とか頼んではいるけれど……既に学校に来られない彼女は、出席日数だとか、授業の内容が遅れているとか、そんな事を言われて、もうじき退学させられる、という話が教師達の間で出ているらしい。

「……っ」

 和也は、拳を握りしめる。

「どうして……」

 和也は呟いた。

 そうだ。

 何故、彼女があんな目に遭わねばならないんだ……?

 和也では無く、彼女……千奈津が、あんな目に遭わなければいけない、一体どんな事をしたって言うんだ……

 どんな、事を……?

 和也は、項垂れる。

 だが、何を言っても。

 何を考えても。

 何も変わらない。

 何も……


「……それでも」

 優治が言う。

「お前は、彼女と一緒にいたいんだろう?」

 その言葉に。

 和也は、ゆっくりと……

 ゆっくりと、頷いた。

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