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 所変わって、夏休みの池坂高校体育館。むわっとした空気の中、女子バレー部と男子バレー部が先ほどまで練習をしていた。

 下級生にボールを片付けさせていた、バレー部男子キャプテンの高山圭に、同じ部の女子キャプテン、皆沢ゆりが近づき話しかける。

「はぁ、もう汗でべちょべちょ……。ねえいいでしょ、今日も」

「うーん、毎日は困るんじゃないかなぁ」

「そこをなんとか! このまま制服に着替えたくないです!」

「……わかったよ、一応、頼んでみる」


 何の話かと思えば部活後に水泳部のシャワーと借りるか借りないかの話である。そして水泳部のシャワーを借りることに関しては、バレー部男子部長、高山圭ほどうってつけの人材はいないのだった。


「いいよー、体育館、蒸すでしょ」

 女子水泳部部長である椎野すずのありがたい言葉を受けて圭は頭を下げた。男子水泳部も池坂高校にはあるのだが、ことシャワールームを借りることに関しては、どうしたって女子部の承諾が必要なのだ。

「エアコンないから地獄」

 そして圭の代わりにゆりが答える。圭はゆりに聞いた。

「どっち先にする?」

「いいよ男子先で、うちら長いから」

 ゆりは圭に言った。

「そうか、じゃ遠慮なく」

 そういって男子バレー部は水泳部のシャワーを借りることにした。



「ふぃー生き返る」

「おい、お前ら、きれーにつかえよ」

 圭が部員に注意した。男子バレー部はみんなチンポ丸出しの丸裸で冷たいシャワーの洗礼を受けている。

「しかし良かったよな! 水泳部の椎野とうちのキャプテンが幼なじみで」

「おかげで夏の間ほぼ毎日シャワーが使えてありがたいぜ」

「まったく高山先輩さまさまですよ!」

 キャッキャと喜ぶバレー部部員。

「あんま貸しは作りたくないんだけどな……」

 圭がぼやく。

「とかなんとかいっちゃって、しっかり浴びてるじゃねーか」

 同じバレー部で悪友でもある牧田タカシゲが圭に言う。

「まあ俺もこのまま着替えるのいやだしなー」

 ぼんやりとシャワーを浴びながら圭。


 体が少し冷えたところで圭が部員に言った。

「おい上がるぞ、女子がうるさい」

「えーまだ冷えてないぜ!」

「冷やしすぎは良くない」

 圭は言う。

「ちぇ」

 みんなシャワーのコックをひねり水を止める。そして用意していたスポーツタオルで体を拭い、制服に着替えて男子バレー部はシャワールームを出た。

「遅い」

 すると、ゆりが腰に手を当てて圭に言う。

「そうかな」

「あまり椎野に面倒かけるんじゃないわよ」

「お前がこれから面倒かけるんだろ!」

「それは、そうだけどさ」

 ただウザ絡みしたかっただけなのだろう。圭がそう言うと最後はムニャムニャと言った感じで小声で言って、ゆりたち女子バレー部はぞろぞろとシャワールームに入っていった。


「いいな」

 タカシゲが言う。

「なにがさ」

 圭が応じた。

「皆沢の汗の香り」

「変態か」

「お前も嗅いだだろ」

「鼻に入ってきただけだ!」


「あれ、男子もう上がったの」

 圭とタカシゲがそんな話をしてていると、プールサイドから金網越しに、競泳水着姿の高山圭の幼なじみで女子水泳部のキャプテン、椎野すずが立っていた。

「ああ、すず、毎日すまんな」

「いいって、役に立ってシャワーも喜んでるよ」

「俺たちも喜びまっす」

 タカシゲがお茶目に言うと、すずはおかしそうに笑った。

「ふふふ」

「これからも泳ぐのか?」

圭はすずに聞いた。

「うん、でももう少ししたら終わり」

「そっか、頑張れ」

「ありがと」

 そういて二人は会話を終えた。


「いいな」

 タカシゲが言う。

「なにがさ」

 圭が応じた。

「椎野のキョウスイ姿」

「変態か」

「お前も見ただろ」

「偶然目に入っただけだ!」


 部室への道すがら、タカシゲは圭に聞いた。

「なあ、俺たち、ループしてね」

「お前が女子見つけてはエロいこと考えるからだろ!」

 あきれたように圭。

「だってここんとこの女子どもエロいじゃん」

「だから女子からエロシゲとか言われるんだ。あとどもはないだろどもは」

「年頃の女子に性的魅力を感じるのは仕方ないと思いまーす」

 圭の指摘にもケラケラと笑うタカシゲ。一方圭の方はといえばため息をつく。

「……はぁ」

「感じない? 感じない? クラスメイトでオナニーしたくない?」

今度は肩をつかんで身を寄せてくるタカシゲ圭はそれを振り払うと言った。

「はいはい、感じないです。クラスメイトでオナニーもしません」

「そうか、つまんね」

 実につまらなそうにタカシゲは言った。

「すまんな」

「それよりもさ、小耳に挟んだんだけど」

「なんだ」

「これはドラゴンの思いつきらしいんだが」

 タカシゲが言う。

「ドラゴン?」

 圭が頭をひねる。

「うちの生徒会長。クラスの奴らはみんなそう呼んでる」

 タカシゲが説明した。タカシゲと生徒会長は同じクラスである。圭は別のクラスだったのでその名称は初耳だった。聞く。

「で、そのドラゴンがどうしたんだ?」

「ドラゴン主催でうちの学校でプロムを開くんだってさ」

「プロムって何だ」

 不思議そうな圭にタカシゲがプロムについて説明する。

「馬鹿馬鹿しい」

 説明を聞いて圭は一蹴した。

「そうかな」

 タカシゲは言う。

「そうだ。俺はでないぞ。どうせそのドラゴンとやらの思いつきだろ」

「ダメよ」

 突然女子の声がして、二人は驚いた。見れば物陰からドラゴンゆかりその人が二人の様子を窺っているではないか。人の噂をすれば影さすである。

「げ」

「なにが、げ、よ。それよりエロシゲとエロいこと話してたことは見逃して上げるから聞いて」

 物かげから姿を現し生徒会長。

「しかも聞かれてるし!」

 焦りまくるタカシゲ。

「だから聞いてくれれば黙るわよ」

「しょうがない、聞くだけ聞こう」

 圭は言った。エロシゲはともかくエロいということをかしましい女子たちにばらされたら男子たちはこれからの日常を明るく生きてはいけない。

「あのね、私ね、プロムの参加者に応じてこれからの部活の予算が配分されることにしたの。つまり参加しないと部費は没収! 下級生から一生恨まれるわよ」

「チッ……考えたな」

 舌打ちをする圭。悲劇だと叫ぶタカシゲ。

「部活やってるやつはほぼ強制参加じゃん! 相方を見つけられない場合は?」

「見つけなさい」

「ええっ無理! 俺死んだ! 絶対無理!」

 冷酷な生徒会長の言葉にもだえるタカシゲ。

「女子の部活も同じだから、あぶれた同士で組めば?」

「生徒会長と組むとかダメ?」

 横目でちらっと生徒会長を眺めてタカシゲ。

「……ダメよ」

「今の間は?」

 圭がつぶやく。

「わ、私! ほかの部活動にも説明しなくちゃいけないから去るね」

 頬をわずかに染めたドラゴン生徒会長は慌てて背を向けると早足で去って行ってしまった。


「行ってしまわれた」

 返事をはぐらかされたタカシゲが口惜しそうに言う。

「ほんとうにドラゴンみたいだなぁ」

 圭は感想を述べた。するとタカシゲが食ってかかる。 

「のんきなこと言ってる場合か! でも、お前はいいよなぁ」

「なんでさ」

「もう相手いるじゃん、しかも候補は二人」

「だれだよ」

 圭が聞く。

「椎野と皆沢」

 要はゆりとすずである。

「はぁ?」

 けれどもその言葉を聞いて圭は声をあらげた。

「似合うと思うけどなぁ、どちらにしても」

「はぁ……やめろよそういう話……」

「なんでさ?」

「皆沢はともかくすずが迷惑する」

「はいはいすずちゃん可愛い!」

「うるせえ!」

 拳を振り上げるポーズをする圭。

「ご、ごめんジュース一本で」

 慌ててしどろもどろになるタカシゲ。

「……まあいいけど」 

 別に本気ではなかったと、圭は拳を下ろす。

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