第11話「罪」



 昨日の作戦の成果物は、惑星へと持ち帰って報告するには十分なものであった。だから、すぐさま機兵待機場所へと戻ることも可能であった。しかし、僕はどうしても夏目の情報が欲しかった。危険を冒してでも街に潜入し、夏目に関する情報を探るつもりだと相馬に話すと、彼は快く自分も手伝うと返事をしてくれた。

「春人、夏目さん探すっつっても、なんも手がかりないよな?どうやって情報を集めるか。算段はついてるんだろ?」

「算段ではない、かもしれない。ごめん。」

「なるほどな。だが考えはあると?賭けなのか?」

「うん。」

「言ってみてくれ。」

僕は息を大きく吸い込み、一呼吸置いてから話し始めた。

「夏目がこの敵地で生き残る術があるとしたら、それは自給自足しかないはずだ。そして、昨日の家の冷蔵庫を見る限り、アンドロイドの食事は人間のそれとは決定的に異なる。そして、自給自足をするなら、田畑は必須だ。広い土地も。そして何より、アンドロイドに見知らぬ植物を育てていることを発見されたくないはずだ。」

「つまりは、昨日の家のような人里離れた場所を拠点としているのではないか、と。なら危険を犯す必要はないじゃないか。昨日のような家を少しずつみていけばいい。時間はかかるが、そう危なくはないはずだ。」

相馬がそう答えているのを聞きながら、僕はもう一度深く息を吸った。

どうしてだか頭が冴えている。

「なあ相馬、アンドロイドは、一体どんな言語体系で話すのだろうか。今、僕らが話しているこの言語は、惑星人類共通の言語だ。もし、仮にだ。彼らが同じ言語を使うことが可能であれば、奴らから情報を聞き出せるかも知れない。」

「同じ言語って、、何言ってんだよ春人!仮にそうだとして、奴らとコミュニケーションをとるなんて無理だろう?見つかったら集団リンチだ。数では勝てないって言ったのはお前だろ、春人。」

そう、僕もおかしなことを言っていると思う。だけど、なぜだか自分の考えが間違っている気がしない。そして、僕が賭けるもう一つの仮説。

「仮に、アンドロイドは僕らが『本当の人間である』と見た目では判別できないとしたら?」

「は、、、?春人お前、、何言って」

「相馬も薄々気づいているんじゃないか?」

相馬の言葉を遮る。

「昨日の夜、何回かアンドロイドの発見に遅れた。その中には、明らかに僕らの姿を見られる位置関係だった奴もいたはずだ。だが決して襲われたりはしなかった。」

「それはそうだがな、、、。」

「だから僕は賭けだと言っている。そして、これは夏目を連れて帰りたいがための僕のエゴだ。でも、もしこの2つの仮説が本当だとしたら、、、。」

相馬は息を呑み、代わりに僕の言葉を続けた。

「夏目さんはアンドロイドとともに生活している可能性がある。そして、俺らもまた、人間だとバレずに調査が可能となる。」

「そう。これが–––––––––。」



–––––––––これが、上層部の言う『アンドロイドの生態の調査』の実態だと僕らは確信した。



 僕らは賭けに出ることにした。しかし、出発の準備が整い、歩き始めた途端、通信端末が振動した。

「ちょっと待って相馬。本部からの着信みたいだ。ん?なんだこれは。」

端末を開くと、マップが表示されていた。そして、一箇所がマーキングされていたのだ。

「これ、どういう意味だろう。」

「この場所に行け、ってことだろうな。」

「なんで僕らにこんな指示が来る?」

「分からん、ただ何かがあるだろうな。向かう価値はある。お前もそんな気がしてるんだろ?」

「うん。きっと、僕らの目的に無関係じゃない気がする、、、。勘だけど。」

「じゃあ、行くしかないな。一応機兵監視班には本部通信で送られてきた目的地に向かうことを伝えておこう。」

「うん、わかった。夕方ぐらいに行こう。逃げる時に明るいと厄介だ。」

  

 こうして急遽、目的地が変わった。だが幸い、今いる場所からはそう遠くない場所だった。1時間も移動しないうちに、目的地付近についた。やはりと言っていいのか、そこは先ほどとは別の街であった。そして、当然マーキングされているポイントは、街の中にあった。僕らは覚悟を決め、アンドロイドの行き交う街へ飛び込むことにした。


 さっきまで山道だったはずなのに、段々と舗装された道へと変わっていった。そして、初めてアンドロイドとすれ違った。



–––––––––そこにいたのは、まるで人間だった。


 

 間近で見ると、ますます人間にしか見えないような見た目であったが、そんなことに感心している間に、僕らが賭けに勝ったことを忘れていた。

何度彼らとすれ違っても、全く不審がられない。いや全くというのは嘘か。なかなか見ない顔なのか、少し不思議そうな目を向けてくる者もいた。だが、僕らを敵だとして襲ってきたり、怯えるような者は皆無だった。

「驚いたなぁ。ほんとにこんなすんなりいくもんだなんて。」

「僕だって正直信じられないよ。でも現実だ。この好機は生かすしかない。」

「しっかし、ほんとに人間みたいだな。俺らも前情報なきゃわかんねーわ。」

 進むにしたがって、すれ違うアンドロイドの数が増えてきた。日が沈み始めたせいか、街が賑わっている。商店街のようなところまで来て、目的地がすぐそこであることがわかった。

「ここ、、、か?」

「店、、、みたいだな。レストランっぽい。」

すると、僕の端末が再び振動した。マーカーが赤く光っている。

「うん、ここで合ってるみたいだ。どうしようか。入ってみる?きっとコミュニケーションを取らなきゃいけなくなると思う。」

「これはチャンスだろ、逃す手はない。でも入る前にちょっと口裏合わせとくか。どっから来たとか、設定必要だろ。」

「そうだね。少し話し合おうか。」

 僕らは、正体がバレないような設定をいくつか決め、そのレストランのような店に入ることにした。あと、こういう演技みたいなのは僕は苦手だから、基本的に受け答えは全て相馬に任せることにした。


 二人揃って深呼吸をして、僕らは鈴の鳴るレストランの扉を開いた。

「いらっしゃい、お、初めてのお客さんかね。」

少し強面の、男性のようなアンドロイドが出迎えてくれた。彼は驚いた表情を見せ、少しの間黙っていた。僕らも乾いた喉の少ない水分をかき集め、息を呑んで黙っていた。目線を合わせることはできなかった。アンドロイドの実態が明らかでない今、何をきっかけに僕らが怪しまれるか分からないため、1秒たりとも気が抜けない。

 だが、その強面の男は少し考えるそぶりを見せた後に、笑顔を見せた。

「おおすまんすまん、お前さんが息子に少し似てたんでな。あいつ当分俺に顔見せてねえもんだから、ちょっと驚いちまった。まぁ俺がこっそり見てんだけどな。って、そんなことはいいか。ほれ、立ったままじゃ疲れるだろ。長旅みたいだしな、そこ座ってくれ。」

 僕らは彼に案内されるままに4人席に2人で座った。どう見てもレストランだったが、僕ら以外に客はいなかった。それにしても、どうして長旅だとわかったのか。単に僕らが疲れているように見えただけだとは思うが、こうも疑り深くなってしまうのはここが敵地だからだろうか。

 そんなことに思考をめぐらせていると、彼がお茶をもってきた。見たところ、緑茶のようだ。

「緑茶、、、ですかね。」

「おう、そうだぞ?飲んだことないのか?」

「あ、いいえ、、いただきます。」

どこからどう見ても緑茶なので、問題なさそうには思える。ここで出されたものを拒否し続けていると、逆に怪しまれてしまう。そういえば、惑星を出る前に戦略班から伝えられたルールとして、『食べ物は全て惑星から用意した物資のみで賄うが、飲み物に関してはその限りではない』と伝えられていた。

 一口その緑茶を飲んだ。

「あ、美味しい。」

「久しぶりに飲みましたよ、緑茶。やっぱ美味いっすね。」

相馬が会話を続けてくれる。

「おおそうか!飯は何にする?見ての通り、客いねえから、作れるもんならなんでもいいぞ。」

彼にそう言われたが、ここで食事をするわけにはいかなかった。僕らは現在の地球の食物が自分たちのそれとは異なることを知っている。すると、相馬がすぐに答えてくれた。

「すみません、僕らはちょっと特殊な持病がある2人なので、決められた食事しかだめなんす。申し訳ないです。今日は、ここで少し伺いたいことがあって来ました。」

「なるほど、聞きたいことか。」

何やら訳知り顔のようだったが、焦って突っ込むことはやめておいた。だが、僕らが何も言わずとも彼は話し始めた。

「これを話す時が来るんじゃないかって、思ってたんだがな。もうちょい先だと思ってたんだ。案外早かったな。」

本当に僕らは何も話していない。正直彼がどんな話をするか予想がつかなかい。その思わぬ展開に僕も相馬も黙っていることしかできなかった。ここは本当にアンドロイドの正体に近づける場所なのかもしれないと、そう思った。

「って、まだなんも聞かれてなかったな、ガハハ。まずは自己紹介しなきゃな。俺は久坂だ。ここの店主。」

「俺が童磨、こいつが四宮です。と言っても、本名を明かせない身なので偽名です。すんません。」

「おうおう、いいってことよ。誰にでも人に言えない秘密はあるってな。」

「それでなんですけど、久坂さん。単刀直入にお尋ねします。」

僕は鼓動が速くなるのを抑えられなかった。そして、横目に見る相馬もまた同じであった。



「『東雲夏目』をご存知ですか?」



 久坂さんは、何も言わずに席を立ち、厨房へと入っていった。僕らは彼をただただ目で追った。そして、右手に湯呑みを持った彼がすぐに帰ってきた。

「ちょいと長い話になりそうだな。」

受け答え担当ではなかったが、彼のその答えに僕は思わず口を挟んだ。

「知ってるんですね。夏目のこと。」

「そうか、お前さんたちは、夏目ちゃんの同郷の仲間か。」

「仲間なんてもんじゃない!」

思わず両手でテーブルを叩きつけ、立ち上がった。

「落ち着け、はる、、あーいや四宮。久坂さん、あなたは夏目さんを知っている。そして、今の話し方からして、ただ知っているだけの関係ではなさそうだ。違いますか?居場所を、、知っているんじゃないですか?」

相馬が丁寧に質問を投げかけるが、冷静に見えて少し興奮気味なのが見て取れる。

そんな相馬の質問に、久坂はため息をした後、少し下を向いて答えた。

「居場所は、正確には分からない。これは本当だ。」

「正確には分からない?つまり見当はついている、と。」

「そこはどこだ!」

再び僕は口を挟んでしまった。だが久坂は躊躇いの表情を見せる。

「言えないのですか?」

「いや、教えることはできる。だが、それを伝える前に、きっとお前さんたちは知っておいた方がいいと思う。ここに来てからの彼女を。それを知ってからでも遅くはない。彼女を見つけた時、『仲間』でいられるようにな。」

久坂の言葉をすぐには理解できなかったが、相馬に説得される形で、ひとまず久坂の話を聞くことにした。

 そして僕らは知ることになった。夏目の『現在』を–––––––––。



「これは俺の推測も混じっている。まぁちゃんとそこら辺は事実と分けて喋るから、最後まで聞いてくれ。初めて夏目ちゃんが来たときの話だ。

彼女も含めて3人くらいでこの店に来た。俺の知り合いが成り行きで連れてきたんだ。ちょうどお前さんたちと似たような服を着てたな。3人は、俺のとこの飯を食ってみんな体調崩しちまった。かなり悪かったみたいで、しばらく起きなかった。知り合いの家で休ませてたんだ。

だが、彼女は起きた時、その俺の知り合い、まあ古田って言うんだが。古田に銃を向けた。そして泣き叫び、古田のことを『アンドロイド』と呼んだ。彼女はとても辛そうだったと古田は言っていた。憎しみに溢れていた、とな。

それ以来しばらく夏目ちゃんとは会っていなかったんだ。3、4年くらいは。だが、あの『シヴァ』が暴れたあと、彼女は古田の家にやってきた。その時の彼女は、まるで抜け殻みたいだった。憎しみの感情すらない、自分が何者かも分かっていないように見えた。後で話を聞いたんだが、同郷の仲間を失ってしまったらしい。

俺は、古田に呼ばれ彼女に会いに行った。俺には、彼女は『理由』を探しているように思えてならなかった。『自分が生きている理由』をな。だから、きっかけを与えてやろうと思った。目の前で生きる意味を見失っている女の子一人をただ助けようとしたのさ。俺は彼女が生きられる環境を整えてやることにした。しばらく会っていなかったが、きっとそこで上手くやっているんだろうと思っていた。過度に干渉するもんじゃないし、彼女なら強く生きられると思ったからな、特別会いに行こうとも思わなかった。」



 久坂は緑茶を一口のみ一息ついた。

「だが俺は、もしかすると大きな罪を犯したのかもしれない。」

「大きな罪?」

すかさず相馬が尋ねる。

「俺は、夏目ちゃんが『何者であるか』を変えてしまったのかもしれない。」

「何者であるか?」

再び相馬が尋ねる。僕もその言葉が全く理解できなかった。

「彼女が、昔の彼女、つまりお前さんたちの知る『東雲夏目』ではなくなってしまった可能性がある、ということだ。」

「それはどういう、、、。」

僕も思わず声が漏れてしまった。

「まぁ聞いてくれ。」


「『ドロイド=タイタン』だっけか?そいつの襲撃の時、嫌な予感がしたんだ。また彼女に何か不幸なことが起こっているかもしれないと思った。なんせ、奴らが襲撃した場所に彼女が通っていたからな。最初は安否を確認しに行こうと思った。その場所に送り出した責任があると思ったからな。ただ、同時に違和感があった。彼女が来てから、彼女の周りで、事件が起きすぎている。もちろん、今までの夏目ちゃんの辛い経験を聞いて原因が彼女だなんて思っちゃあいないさ。だがな、今までのことをよく考えると、彼女は俺たちと何か決定的に違うんじゃないかって感じてな。なんにせよ、情報が少ないからな。ただ、、、俺に変な考えが浮かんじまってな。」



「変な考え、、、ですか?」

静かに聞いていた相馬が、思わず尋ねる。



「俺たちは、人間ではなく、アンドロイドなんじゃないかってな。そして夏目ちゃんは俺たちとは異なる存在なのかもしれん、と。」



–––––––––僕らの認識は、前提から間違っていた。

彼らアンドロイドは、見た目がいくら人間であったとしても、『自分たちがアンドロイドである』という自覚はあるのだと思っていた。さっきの久坂の話から少し引っかかっていた。なぜ彼らは夏目から銃を向けられ、敵意を向けられようとも、まるで人間同士のように助けようとするのか。なぜ自分たちの食事で腹を壊した理由が分からないのか。


 アンドロイドは、自らを人間だと認識している–––––––––。


 僕や相馬がその時どんな表情を浮かべていたのかは、あまり覚えていない。驚愕か呆然か、あるいは憎悪か。ただ、久坂は真剣な表情のまま話し続けた。

「そして、ちょっと前にな、夏目ちゃんがここに来た。数年ぶりのことだ。」

「夏目がここに!?今はどこに行ったんだ!」

興奮が抑えられていないことは十分自覚していた。今は落ち着いて情報を聞き出すべきだということも分かっている。それでも、感情を表に出さずにはいられなかったんだ。

「今は、分からない。彼女は俺に一言だけ言い残してすぐ帰っちまった。」

「一言だけ、、、ですか?」

相馬が落ち着いて尋ねる。だが僕たちは、久坂の答えに衝撃を受けることとなった。

「鮮明に覚えている。そして、その言葉は今の彼女が何者であるかを表している。ドアが勢いよく開いて、急いでいる様子だったが、そこには成長した彼女がいてな。初めて会った時とは別人なくらい明るい表情で言うんだ–––––––––」



『久坂さん!久しぶり!ごめん、時間ないから一言だけ伝えにきたの!私、私ね、絶対に守ってみせるから。ケイを、みんなを!だから、心配しないでね。』



「ケイってのはな、俺の息子なんだ。きっと、俺が彼女を送り出した後に出会った。」




 –––––––––僕は、いつの間にか右の拳を振り下ろしていた。そして、もう一度振り上げた手を相馬に必死で抑えられていた。

「お前は!お前たちは!自分たちが、何者か、どんな罪を犯してきたのかも知らず!なにを自分たちが善人であるかのように振る舞っているんだ!夏目がどんな思いで僕たちのもとを発ったのか知っているのか!それを、『お前たちを守る』だと?ふざけるな。夏目がそんなこと言うはずがない!いいか、お前たちはな!」

「落ち着け!」

相馬に投げ飛ばされるかたちで言葉を遮られる。

「何すんだよ相馬!こいつらは夏目を侮辱したんだぞ!」

「今は耐えろ、春人。ここでこいつに敵意を向けてもなんにもならない。八つ当たりだ。あとは俺が話すから、ちょっと頭冷やしとけ。」

「くそっ、、僕は、、、、。」

相馬に丸め込まれるかたちで僕は横で黙っていることになった。久坂を殴った右手がまだ痛い。熱くなってお互いの本名までバレてしまった。設定が台無しだ。

「なぁ久坂さん、夏目さんの居所はだいたい見当がついた。その『ケイ』って奴を探せばいいんだよな。そんでその息子さんはあんたに当分会ってない、と。ならあんた以外に息子さんを知ってる人を探すべきってことだな。」

「あぁ、そうだ。もちろんケイの居場所のだいたいは知っているつもりではあるが。詳細な住所は知らない。」

「なるほどな、、、。久坂さん、ここは交渉といこう。交換条件だ。俺らから渡せるのは、『あんたらの真実』だ。それを教える代わりに、あんたの息子さんと近しい人物。それも探しやすい奴の情報をくれ。どうだ?」

久坂はその真剣な表情を少しも崩すことなく、首を縦にふった。

「『赤星ユウナ』という女の子がいる。彼女ならケイのこともよく知ってる。夏目ちゃんとも面識あるかもしれない。ユウナちゃんの家の場所なら知ってる。彼女に危害を加えないと約束してくれるなら、教えよう。」

「約束するよ。あくまで俺たちの目的は夏目さんを見つけ出すことなんでね。またこいつが暴れたら俺が取り押さえるから大丈夫だ。」

相馬がニヤつきながら横目で僕を見る。僕はいまだに正常な思考ができない。本当に夏目があんなことを言ったのか。そんなことばかり考え、2人の話にあまりついていけなかった。

「地図を渡そう。そこまで遠くはない。ここから歩いて1時間程度だ。」

「ありがたく受け取っておくことにするよ。ちなみに、久坂さんが知っている夏目さんの情報はもうないってことでいいか?」

今度は苦しそうに首を縦に振った。

「あぁ、特にここ数年では1度、しかも数分会ったのが最後だ。すまないな。」

「オーケー分かった分かった。」


「じゃあ、俺たちが渡す番だね。俺から話せるのは、百年前の君たちだ。それ以降のことは正確ではない。」


 それから、相馬はアンドロイドについて話し始めた。新人類大戦で、軍事AIロボットが人類を破滅に追い込んだこと。残った人類が惑星に移り住んだこと。今地球上に人間は全くいないと言っていいこと。それ以外にも詳細に話していたが、如何せん怒りが治らなかった僕は、あまり内容を覚えていない。ただ、話し終わった後の久坂の表情を見ると、驚きと納得の2つが混じり合ったのが見て取れた。


「そうか。ここにいる人類はみなアンドロイド。そして、君たちが本当の人類、つまり人間というわけか。おそらくシヴァもタイタンも、、、いや詮索はやめておくか。あまり心地いい話題ではなさそうだ。」

「お気遣いどうも。妙に落ち着いてるね、久坂さん。」

「納得感があるだけだ。もちろん驚いてもいるがな。ありがとう。知ることができてよかった。」

「こちらこそ有益な情報をありがとう。久坂さん、あんたはこれからどうするんだ?自分の正体を知ったところで何かが変わるとは思わないが。」

「そうだな。だが、俺たちはお前たちの祖先に悪いことをしたんだろ。それを知らない奴が大勢いる。もちろんあんたの話だけで全部を信じるわけにはいかねぇが、どうしていくかはこれから考えるさ。」

「そっか。あんた見た目の割にいい奴だな。アンドロイドにも感情はあるってね。俺たちはそろそろ行くよ、時間もないしな。」

「分かった。お前さんたち、元気でやれよ。おそらくだが、道は険しい。」

「ご心配どうも、行くぞ春人。」

 僕はその場を動かなかった。1つだけ引っかかっていることがあった。その違和感を覚えた瞬間は妙に冷静で、一時的に全ての怒りの感情を抑えて、ただ尋ねた。



 「あの、『シヴァ』ってなんだ?さっき言ってた。襲撃があったとかいう。それ、知らない。」


久坂が驚いた表情をみせる。

「なんだ、知らないのか。一番初めにきた襲撃だよ。いつだったかな–––––––––。」

 僕らはその詳細を聞いて戦慄した。聞いたこともないドロイド兵機。襲撃の日時、場所。

「おい春人、、、。」

「あぁ間違いない。たった一度だけ、夏目の生存が確認されたという報告が上から来た時だ。そんな兵機がいつの間に、、、。」

すると、少し黙っていた久坂が話し出した。

「その先は、俺がいない方がいいんじゃないか。」

「そ、そうだね。相馬、出発しよう」

「あぁ。」

 僕らはその店を出て、ひとまず野営地へと向かった。






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