第4章、執着
第10話「真実は、近づくほど遠く」
僕らが地球に送り込まれる目的は二つで、そのうちの一つは『全てのアンドロイドを統べるアンドロイドの発見』である。恐ろしく曖昧な任務だ。もし地球上全てから探し出せなんて命令だったら、誰も行かなかっただろう。
しかし、僕たち『搭乗型ドロイド機兵』の調査エリアは、ある一地域に絞られている。
奇しくも、そこは夏目が行方不明になった地域であった。
どうやら、上層部は何かを情報を掴んでいるみたいだ。だが、僕らは詳細を知らされないまま作戦が言い渡された。
この地域に棲むアンドロイドの殲滅は今回の任務ではなかったが、上陸直後は攻撃を仕掛けるとの命令が下された。対抗する戦力を要していた場合に、戦意を削ぐ目的であった。目的である全てを統べるアンドロイド、通称『原アンドロイド』であるが、奴は個体として存在するものではなく、あくまでAIであり、アンドロイド間を自由に移動できるものだと言われている。つまり、この地域のアンドロイドを攻撃して破壊し尽くしたとしても、原アンドロイドが消え去るわけではない。
そして、今回の目的のもう一つは、当該地域にて行方不明となった惑星人類の救出、つまり、夏目の救出である。僕の推測では、夏目の救出こそが最も重要である。上層部が調査エリアを今回の地域に限定した理由、それは夏目に他ならない。きっと彼女は生きている。そして、人類を取り戻す術を掴み、僕らを勝利へと導いてくれるはずだ。これこそが、僕がそこに行く意味であり、全てだ。
「大気圏に突入するぞ!着陸準備用意!」
「はっ!」
「春人!着陸ミスってドロイドの関節イカれさせんなよ!」
「あぁ分かってるさ、相馬。君の方が心配だと思うけど?」
「へっ、どうだか!」
「なぁ、着いたらとりあえずレーザーぶっ放しときゃいいんだよな?」
「そうらしいね、僕には当てないでくれよ。」
「できたらな!」
「近づいてきたね、、そろそろだ。」
着陸直前だった。僕らは目の前の光景に息を呑み、急減速し空中にとどまった。それは、僕と相馬だけでなく他の全てのドロイド機兵がそうだった。
「なっ!?なんだこれ、普通の街みたいじゃん。」
「ここに、、、本当にアンドロイドがいるのか。」
「おい見ろよ春人、あれ!」
僕は目を疑った。一体ここがどこなのか、理解できなかった。下に広がっているのは、僕らが住むような街、そして行き交う人々だった。
「僕たちは、、、なんてところに来てしまったんだ。」
すると、一体のドロイド機兵がレーザーを放つ音が聞こえた。きっと本作戦の隊長である。
「お前たちは何をしに来たのだ!目の前の光景に惑わされるな!自らの役目を果たせ!」
その掛け声に、瞬く間に無数のレーザーが地上に発射された。
「おいちょっと待ってくれよ、、、人間の見た目をしたやつが多い、、、夏目がいたらどうするんだよ。」
「落ち着け春人。きっと夏目さんはすぐ近くにはいない。ID-ICの反応、無かったろ?」
「こんな何年もICチップを持ってる保証がないだろう!」
「春人!作戦に集中しろ!お前が今すべきことをやるんだ。夏目さんは生きてる。」
今すべきこと、、、。夏目にも前に同じこと言われたような気がする。そう、僕はこんなところで止まるわけにはいかない。
「砲撃中止ーーー!」
隊長の声とともに、レーザーによる攻撃が止まった。結局僕は一発も打ってはいないが、辺りは燃え上がっていた。
「全機、マップに示された座標付近まで移動し、ドロイド機兵から降りて待機だ。定刻に遅れぬように!」
「はっ!」
燃えていく街を尻目に、俺は相馬の機兵と並んで目的地へと向かった。
「なぁ春人、なんだったんだろうな、人間みたいな奴ら。」
「きっと、アンドロイドだ。人間に倣って作られているのだろう。」
「それにしても、違和感が無かったな。」
その通りだ。あの街からは、懐かしさすら感じた。あの地域だけなのか、、、あるいは。
「そろそろ着くぞ、春人。あそこだ。」
「うん。」
街も集落も何もないところまで来た。ここが目的地のようだ。僕らが着いた時には、ほとんどの機兵が既に着陸していた。先程のレーザーによる砲撃の一次作戦のあと、ここで今後の作戦の再確認が行われることになっていた。僕と相馬は機兵から降り、隊員が集合している場所へと向かった。僕らが到着してすぐ、作戦の説明が始まった。
今回の作戦は、1週間に限られている。本作戦の要となっているドロイド機兵は、実用化されて間もないのもあり、稼働期間の限界が十日ほどとなっている。もちろん機兵を休めつつ使えばもっと長い期間作戦を行うことができるが、安全をとって1週間となった。それは、地球奪還のために命を捧げる隊員たちが、年々不足していることが理由だった。1人の犠牲者も出さないことが何よりも重要だったのである。
この後は、2つの班に別れて作戦が行われる。ドロイド機兵は移動手段でもあるため、作戦中の破損は致命的であるが、緊急時のために2人乗れる仕様となっている。しかし、機兵に乗ったままの調査は非効率であるため、機兵監視班と調査班の二手に別れて作戦を遂行する。
僕と相馬は調査班となった。僕らが指示されていることは、『地球上のアンドロイドの生態を調査せよ。』であった。生態の調査と言われても、何をどうすればいいかわからなかった。確かに彼らは人間のような見た目をしていたが、彼らに見つからずにどうやって生態を調査せよと言うのだ。そして、2人1組での調査も言い渡された。こんな敵地で、たった2人で行動するなんて馬鹿げていると思った。
思えば、今回の作戦には不可解な点が多い。中でも、僕らがさっき見たあの光景、人間の街のような光景だ。この地域では、夏目を部隊長とした調査隊が調査を既に行っていたはずだ。そして、夏目以外は一度帰還しているはず。確かにその後再調査に向かった後は行方不明となっているが、彼らの報告では、人間のようなアンドロイドがいるなんて内容は全く知らされなかった。なぜこんなにも大事な情報が隠されているのか。このごく短期間でこの街が造られたとでも言うのか?そんなはずは無いだろう。
「明日、それぞれの担当エリアにて、2人組で調査を行ってもらう。今夜はゆっくり休むように。」
「春人、明日から頑張ろうな。夏目さんの手がかり、きっと見つかるよ。おやすみ。」
「ありがと、相馬。おやすみ。」
なかなか寝られなかった。ずっと夏目のことが引っかかっていた。彼女はなぜ、アルファ隊のみんなと帰ってこなかったんだろう。詳細は聞かされていないが、特別な理由があったとは聞いた。でも、おかしいと思った。帰還するよりも大事なことって一体なんなんだ。どんな状況であろうと、生きているのならば、帰ってくるのが最優先だろう。何を考えているんだ。
「・・・夏目、なんで帰ってこなかったんだよ。」
反対側を向いて寝ていた相馬がこちらに身体を向けた。
「眠れないのか?」
「ごめん相馬、起こしちゃったか。改めて地球に来ると、ちょっと色々思うことがあって。」
「そうか、その気持ちは大事だと思うぞ。譲れないものがあるやつ、最近減ってるからな。だから隊員も減ってくんだ。」
「相馬はあるのか?何か譲れないもの。」
「俺は、、、どうかな、あんまないかも。」
「じゃあなんで続けてんだよ。」
「なんとなくだよ、その他大勢と一緒さ。やんなきゃいけない気がしてやってる、それだけ。」
「そんなもんかな。」
「そんなもんだよ、明日に響くから寝るぞ、おやすみ。」
「あぁ、ごめんな、おやすみ。」
自分の譲れないもの。夏目を取り戻したい気持ち。アンドロイドへの憎しみ。それらを噛み締め決意に変えて、僕は目を閉じた。
テント越しに朝日が差し込み、目が覚めた。聞いたこともないような音が聞こえ、僕は外に出た。朝日に一瞬目が眩んだが、目を開けると木々に見知らぬ生物がとまっていた。
「これ、鳥だな。地球に生息する飛ぶことができる生き物らしい。」
相馬がテントから出てきた。
「鳥、か。あの翼を持つ生物、初めて見た。記念に写真でも撮っておこう。」
「はははっ!お前何しにきたんだよっ。楽しんじゃってんじゃん!」
相馬が僕を指差し笑いながら言う。
「これは、、、調査だ。アンドロイドの生態調査に、他の生物の情報は必要だろう。」
「必死だな。」
「うるさい。」
2人は声を出して笑った。僕の昨夜の悩みも消化できた。必ず夏目への手がかりを見つけるんだ。
「そういや、朝は必ず戦略班との通信義務があったよな。春人頼んでいいか?」
「あ、うん。やっとくよ。」
僕は通信端末を手に取り、居住惑星にいる戦略班に通信をかけた。
すぐに繋がったと思ったが、一度電子音が流れ、その後もう一度繋がった。
「東雲春人隊員だな、始業通信ご苦労。バディと機兵の安全は。」
「問題ありません。本日より、調査班として作戦行動を開始します。」
「そうか、、、。君たちの幸運を願っているよ。以上だ。」
「はい。地球を再びこの手に。」
「春人〜向こうはなんだって?」
「特に何も、だね。本当にただの生存確認みたいだ。以前の作戦では通信が取れなかったみたいだからね。そこも含めて確認したいんだよ。」
「そうか?あいつら、俺らが通信できなくなっても助けに来てくれないじゃん。」
そう。彼らは地球に向かい、行方不明になった隊員を誰一人として助けには行かなかった。今回を除いては。
【5年前】
「アルファ隊と連絡が取れない?4日も?どうしてですか?通信環境は完璧だったはずでしょう!なんでアルファ隊だけ、、、。」
夏目が部隊長であるアルファ隊とは、出発から一度も連絡が取れなかった。初めは通信がしづらい場所に着陸したせいかと思っていたが、4日も経ち、それが異常なことであると分かった。
作戦決行直前に戦略班となった僕は、主に作戦立案を担当していた。だが、夏目との連絡が取れないことを知ってからは、当時の僕にとっては作戦どころではなかった。
「救出しに行くべきです!アルファ隊ですよ?今作戦で最も重要視されている部隊です。失ったら大損害ですよ。」
当時の戦略班の班長に直訴しに行った。
「落ち着け、東雲。通信が不可能でも彼らの判断で作戦行動を行うことは可能だ。そして、帰還する術も選択肢も残されている。それは彼らが決めることだ。」
「もし、、、既にアルファ隊が壊滅していたら?それを救出に行かずにどうやって確かめるというのです!」
「その壊滅状態になっているとしたら、救出に行くのもあまりにも危険だろう。無駄死にするだけだ。」
僕は冷静ではなかった。だから、あんなことを口走ったのだろう。今でも鮮明に覚えている。
「彼らを見殺しにするのか。そんなに自分が可愛いのかよ、腰抜けだよ全く。僕が1人で行く。」
「東雲!」
普段は穏やかな班長が怒鳴ったのは、僕の記憶では初めてだった。
その後僕は、班長に逆らった罪で、1ヶ月ほどの謹慎処分となった。
きっと班長は、僕を守ろうとしてくれていたのだと、今は思う。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「でも、この作戦が成功すれば、夏目を助けられる。夏目以外の隊員だって助けられるかもしれない。」
「そうだな。ちゃちゃっと調査して、夏目さん見つけて、さっさと帰ろう。」
「うん。さ、そろそろ時間だ相馬。出発しよう。」
僕らの調査対象とされたのは、最初に着陸した街から少し離れた場所に位置するエリアだった。機兵を置いて行かなければならなかったため、機兵待機場所からその街に到着するまでには数時間を要した。普通に考えれば、地球についてから素早く移動する手段を持ってくるべきだったとは思うが、今気づいても遅い。目立つ移動手段を避けるためにあえて徒歩での作戦をしたという可能性もあるが、5年前から同じやり方だから口出しはしていない。機兵で上空から見たところ、今の地球でも自動車や電車といった昔からの人間の交通手段が使われているようだった。
そのエリアに着いた僕らを待っていたのはやはり異様な光景だった。だがその光景に、もう驚くことはなかった。当然のように『人間の街』がそこにあったのだ。
「春人、この後どうする?正直、俺は何をどうすればいいか全く分かっていない。」
相馬は無責任なことを軽々と口にする。彼は頭のキレる人だが、真面目さにかける。
「ここに着くまでに散々僕から説明したろ。指示されている作戦は、生態の調査。そして予想通り、ここは奴らの街だ。きっと僕らと同じように暮らしているのさ。だから僕らがすべきは、奴らに見つかることなく、この街では何が起こっているのか、生活の源となっているのは何かを突き止めることだ。それがきっと『原アンドロイド』を見つけ出すことに繋がるはずさ。」
「いやだから、それでも曖昧なんだって。今ので行動の一発目が明確になってんのか?」
確かに相馬の言う通りではある。作戦のゴールが分かっていても、そこから逆算して最初の行動まで至らない。この作戦が行われた理由、ここに来た本当の意味、2人班で行動している理由、全てが繋がるピースは何かないのか。
「なぁ春人。『上の連中』は、どこまで知ってんだ?この作戦の結末が見えてないのは、今地球にいる俺たちだけだったりしてな。」
相馬が口にした『結末』という言葉が妙にひっかかった。新型機兵を引っ提げて地球に乗り込みながらも、作戦が明確に伝えられていない理由。もしかしたらそれは、この作戦が僕たちに委ねられているの『ではない』からかもしれない。僕たちの役目は、地球に、いやこの地域に降り立つことだけだったのではないか。そして、その役目が達成された今、約束された『結末』にただ向かっているだけ、、、。
いや、考えすぎか。
「相馬、今夜、奴らの生活の実態を暴きにいく。人間の姿をしたアンドロイドだとすれば、エネルギーの供給をどこかでするはず。そして、人間の生活を模倣したのであれば、それが行われるのは恐らく夜だ。」
僕がそう指示をすると、相馬はやっと納得した顔をした。
「分かったよ春人、お前の判断に従う。」
そう、たとえ結末が決まっていようとも、僕の目的はただ一つ、夏目を連れて帰ること。それさえ叶えば結末なんてくれてやる。
僕らは周辺で野営ができそうな場所を探し、そこを拠点として夜まで待機した。
辺り一帯が暗くなってきた。街灯に照らされた街が見える。ここの景色は、やはり居住惑星と変わらない。むしろ、より人間らしい生活を感じるといえる。
「相馬、そろそろ行こうか。アンドロイドがどうやって僕らのことを検知してくるか分からない。視界に入ってないからって油断しないようにしよう。なるべく距離をとって慎重に行こう。」
「あぁ、ただ見る限り、奴らに戦闘能力があるようには全く感じなかったが。」
「だとしても、ここは今や奴らのホームだ。数では勝てないだろう。実際あの夏目ですら今こうして行方不明になっている。」
「おう、もちろん気をつけまっせ。」
野営地を出発し、街へと向かった。街には人間が住んでるとしか思えないような家々が並んでいたが、僕らは周囲に家が少なく、周りもライトがほぼない場所に建つ家をターゲットとした。その家の住人の帰宅と鉢合わせないよう気を配りながら、その家に近づいた。
窓越しに家の中を確認したが、そこには誰もいなかった。
「どうする春人?入っちまうか?」
「いや、もう少し待とう。住人が帰ってくる可能性がある。」
少しと言いながら、2時間ほど待機した。しかし、住人と思われるアンドロイドがやってくることはなかった。
「もう今日は帰ってこないみたいだな。侵入しちまおう。春人、お前がいけ。俺は外で見張りするから。」
「分かった。何か重要そうなものを見つけたら回収する。十五分以内に終わらせるつもりでいく。」
「あぁ、なんかあったら呼んでくれ。」
僕はターゲットの家まで近づき、窓から侵入を試みたが、当然ながらロックがかかっていた。腰につけた拳銃を二発窓に打ち込み、割れた窓から中に侵入した。明るい色で統一された家具で整理整頓された部屋だった。人間でいうと女性の部屋のような第一印象だ。部屋にあるものに特段違和感がなかった。ただ、それが違和感として働くべきことであることも重々承知であった。僕らの常識と同じではおかしいはずだ。こんな人間ごっこの中にも、必ずアンドロイドの尻尾をつかむ証拠があるはずだ。
侵入した部屋を出て、別の部屋へと移動した。おそらくリビングだろう。ソファや食卓があるが、そこまで大きくはない。1人で暮らしているようだ。キッチンもある。お茶のようなものがあるが、本物だろうか。
冷蔵庫を開けると、そこに入っていたのは食材ではなかった。いや、奴らの食材なのだろうか。ゼリーのようなものが小分けにされてたくさん入っていた。
「やっと人間と違うものだ。これは持ち帰って調査しよう。」
リビングを一通り探したが、さっきのゼリーの他に持ち帰るようなものは何もなかった。
そして最後の一部屋のドアに手をかけ、中に入った。
目の前の光景は、恐ろしいようで、しかし僕らが当初から想像していたままの『アンドロイドが住む部屋』だった。
そこはさっきまでの2部屋と比べて明らかに異質だった。匂いも全く違う、嗅いだことのない匂いだった。今、ようやく僕はアンドロイドの棲む世界にやってきたことを実感した。同時に、先ほどまでの常識が違和感に変わり、違和感が常識へと変貌した。
そして、おそらく今回の成果としては十分なものを見つけた。僕はそれに触れる前に、急いで相馬を呼んだ。
「相馬!来てくれ!」
すぐに足音が聞こえ、部屋のドアが開き相馬が入ってきた。
「これは、、、。」
僕らが目にしたのは、人間一人がそのまま入りそうなカプセルだった。カプセルの蓋は開いたままになっていて、中には無数の電極のようなものがあった。
「相馬、これ持ち帰れるか?」
「ばか言え、こんなでかいもん持っていけるわけないだろ。」
「そうだよね、、。どうしようか。」
僕らは確信していた。彼らのエネルギー源はこのカプセルだ。タイタンで発電所をいくら破壊してもアンドロイドの生命活動が停止されなかったのは、これがあったからだ。
「相馬、これが発電所から繋がっていないとすれば、エネルギー源はどこだと思う?そもそも電力じゃないのかな。」
「うーん、その線もあるかもな。普通の電極じゃねえよこれは。」
彼は電極をもち、目を凝らしてそう言う。そして、電極に繋がるコードを辿り、カプセル内をしばらく見渡した後、相馬が口を開いた。
「っ!これは、、、。」
「どうした相馬?」
相馬は数秒息をしていなかったように思えた。目を見開いたまま、口も開けたまま。
「相馬!」
「あ、あぁ悪い。これは、とんでもないことが起きてるのかもしれねぇ。」
僕は息を呑んだ。彼がこんなにも深刻な表情をするのを見るのは初めてだったからだろうか。
「このカプセルのエネルギー、俺らの乗ってた新型機兵とおんなじだ。」
僕にはなぜ彼がこんなにも深刻そうにしているのか一瞬では理解ができなかった。
「どうして?エネルギー源くらい同じ可能性あるだろう?俺たちはもともと地球で暮らしてたんだし。まぁ先祖の話だけど。」
相馬は首を横に振り、小さく舌打ちをした。
「いや違うんだ。新型機兵のエネルギーシステムが実用化されたのは、惑星人類でもここ半年くらいの話だ。研究もここ二十年だろう。そんなものがどうしてアンドロイドに使われてる?奴らが開発したのか?偶然にしてはできすぎてる。相馬、この意味わかるか?」
ここまで聞いて、ようやく僕はことの重大さに気づいた。
「そういうことか、、、。」
「そうだ、きっとこのエネルギー技術は昔っからあった。俺たちの祖先が地球にいた頃からな。もっと言えば、新人類大戦の元となった軍事ロボットが、この技術によって動いていたってことも推測できる。」
「でも相馬、さっき偶然とは言ったが、AIも百年もたてば、戦争前のエネルギー源を改良することだって可能性として考えられると思う。」
「確かに、その可能性は否定できない。だが、この新型機兵ができたタイミング、俺たちが地球に進軍したこと、そして今このカプセルを発見したこと。やっぱ偶然とは思えねえんだ。」
そう。本当にできすぎていた。出来すぎた悪夢の始まりのようだった。今まで振り払ってきた疑念が、また蘇る。こんなことを繰り返してばかりだった。
–––––––––そして、不幸にも『真実』に近づいている気がしたんだ。僕の本来の目的から遠ざかりながら。
「電極と他の一部だけ持ち帰ろう。相馬が持っててくれ、詳しいだろうから。」
「分かった。とりあえず野営地まで戻らねえとな。重要なもん回収した気がするから、野営も場所変えるか。」
「そうしよう。」
こうして僕らはアンドロイドの家を出て、野営地に戻った。そこで少し休んだ後は、さらに離れた場所に野営地を探した。
新しい場所にテントをたてた後は、どっと来た疲れですぐに2人とも寝てしまった。
朝、また鳥の声で目が覚めた。僕はテントを出て、木にとまる鳥の写真を一枚撮り、グッと背伸びをした。すると、ガサゴソと寝癖まみれの相馬がテントから出てきた。
「もう起きるのかよ、早すぎ。疲れすぎたからまだ寝てたいわ。」
「別にまだ寝てていいよ。朝の通信また僕がやっとくから。」
「お、珍しく優しいな。オーケー頼むわ。あ、昨日の件、まだ上には報告すんなよ。」
少し気に障る褒められ方にムカついたが、それどころではない。確かに、昨日見たものと回収したものは、作戦にとって大きなものだが、不確かなものでもある。まだ報告するには早い。そして何より、何が信頼できるか今は分からない。
朝の報告が終わり、散歩がてら少し周囲を確認し終わると、二度寝している相馬のいるテントへと戻った。結局、朝の通信で戦略班とは昨日と全く同じ会話しかしなかった。僕は寝ている相馬を横目に、昨日この野営地に向かう途中で彼に言われたことを思い出していた。
彼はこう言っていた。
「革新的なエネルギー技術がこれまで隠されてきた可能性があることは重要だが、可能性でしかない。だが、事実として大きな問題がもう一つある。それは、『アンドロイドのエネルギー供給元を突き止めるのは極めて難しい』ということだ。機兵に使われているエネルギーシステムは、通常の電力供給とは違い、遠隔でエネルギー補給ができる。だが、惑星から地球までのエネルギー供給の技術はまだ実用化されてねぇから、今は稼働限界がある。だから今、現在進行形で、エネルギータンクの役割を果たす人工衛星を設置することで、地球へのエネルギー供給を可能にするシステムが開発されている。
もし、奴らアンドロイドがこのエネルギーシステムにより稼働しているとすれば、その発生源を辿ることは極めて難しい。いわゆる無線だ。目に見えないからな。そしてそもそも、それが『地上』にいるとは限らない。仮に『原アンドロイド』の正体がそれだとすれば、俺たちにできることは、、、。」
さまざまな可能性が僕らの頭の中で錯綜している。どれも真実に近づいているような気がするのに、あまりポジティブなものとは言えない。なんだか、知れば知るほど、自分たちが無力であることを知らしめられるような気分だ。
それでも、僕らは真実へと進み続けなければならない。その先に、きっと夏目が–––––––––。
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