第6話「ドロイド=シヴァ」

【1週間ほど前】


 私が調査隊を止めると隊員たちに告げると、美桜が泣きながら抱きついてきた。近衛さんは落ち着いた様子で、誰もが気になるであろうことを最初に尋ねてきた。

「ここをやめてそのあとはどうするんだい?一人で惑星にも帰れないだろう。経験した通りここのご飯は食べられないし。」

「そうですよ部隊長!考え直しましょ?」

それでも私は首を縦には振らなかった。

「これからどうするかなんて考えていない。でも、今の私は、調査隊として1歩も歩くことができないの。ごめんね、美桜、みんな。近衛さんも、すみません。これからは、近衛さんを隊長として行動を続けてください。美桜、サポート頼んだよ。」

美桜がより一層強く抱きしめ離そうとしない。近衛さんは、私を理解してくれているようだった。いや、理解しているというより、私の意思が動かないことを悟っているみたいだ。

「それじゃあみんな、また。」

そう別れを告げて部隊を離れる時、近衛さんは食料物資全てと、1台のコンピュータをくれた。

「これは、、?これじゃあみんなが。」

「大丈夫だよ夏目ちゃん、戦略班との連絡も取れないし、これじゃあまともに作戦ができない。一度惑星に戻って指示を仰ぐよ。」

すると、名案を思いついたように美桜が勢いよく話し始めた。

「なら部隊長を惑星まで送り届けてあげれば良いじゃないですか!」

うんうんと周囲の隊員も美桜に同意する。しかし近衛さんが得意げに、それでいて同時に悲しそうに話し出す。

「それじゃあ戻った後どうする?作戦行ってすぐに帰って、『私はもう参加しません』って、通用するかな。この世界のアンドロイドは、私たち人間への敵意がない。だったら、そこまで危険ではないと思うんだ。大丈夫、隊長には夏目ちゃん不在の理由はうまく話すから。」

本当に、近衛さんには頭が上がらない。きっと彼も私が惑星に帰る方が良いことなど重々承知であるはずだ。それを、私の気持ちを汲み取り、理論立てて隊員を説得してくれる。本当に、頼りになる人だ。


 近衛さんに丸め込まれるかたちで、アルファ隊は私をおいて帰還することが決まった。


 

 彼らからもらった食料には、まだ手をつけていない。手をつけることができなかった。一人で勝手に部隊を抜けると意地を張り通したくせに、彼らの助けを得る罪悪感に耐えきれなくなると思ったからだ。ただ、死のうと思って部隊をやめたわけじゃない。とりあえずは、生きといた方が良いのかな、私。

味のしない硬いパンをかじった。

そのパンは、気づくと少ししょっぱくなっていた。


「私、、、どうすればいいんだろ。」


その声は、誰にも届かなかった。



––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


やっぱり、その話に出てくる彼女は、どこまで話を聞いても俺の知る夏目先輩の像からはかけ離れていた。だが、今まで時折見せてきたあの哀しい表情は、話に出てくる彼女を彷彿とさせるものだった。

「先輩は、どうして今の先輩になったんですか。昔とは、ずいぶん印象が違ってそうです。」

彼女は少し驚いた表情をしたが、すぐ笑みを浮かべ答えた。

「そうね、この先の話でわかると思うけど。」


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


 そのあと私は、もらった食料を背負ってふらふらと彷徨った。歩き回っては野営という生活を2ヶ月ほど繰り返していく中で、周囲に何もない中でぽつりと立つ空き家を見つけた。私はそこで暮らすことにした。当然もらった食料だけでは足りないので、家の周りで作物を育て、自給自足の日々を過ごした。一日でやることといえば、寝て起きて、作物を育て、食事をすることくらいだった。暇な時間はずっと考え事をしていた。なぜ世界はこうなったのか、私はなぜ今こうしているんだ、とか。毎日同じことを考えていた。


 ある日、珍しくいつもと違うことを考えていた。一人で暮らし始めてからもう4年も経つ頃だ。地球に出発する前の惑星での日常が、ふと頭の中で再生された。春人はどうしているだろうか。戦略班でうまくやっているかな。アルファ隊のみんなは、、、近衛さんがいれば大丈夫か。あぁ、家が懐かしいなぁ。あの頃の、アンドロイドを憎んでいた頃の私は、今の私を見てどう思うんだろうか。


《ねぇ、アンドロイドを倒せる力が欲しい?》


「いったいなにっ!?」

思わず声が漏れたが、周囲を見渡しても何もいなかった。聞き覚えのある声だった。アンドロイドを倒せる力、、か。今はそんなものあっても、使う気なんて起きないかな。


”これを受け取ったものへ、、、、–––––––––此の名は「シヴァ」–––––––––”


「はっ、、、、シヴァ、、、!」

全身が凍りついた。私は部屋中の至るところを探したが、赤い塊はなかった。私は家を飛び出し、私たちが上陸した方へと向かった。

 私には、そのシヴァの実態がなんなのか全然わからない。でも絶対に見知らぬ誰かの手に渡って良いものではないと確信していた。よく考えれば、あんな小さなものを一度失くして簡単に見つかるわけがないと分かっている。でも、身体が走ることをやめさせてくれない。春先ともなると、流石に走れば汗をかく。同時によくわからない汗までかいてきた。すっかり地球の三月にも慣れてしまっていた。


 あの街に辿り着いた。私が、私を失った場所。街を歩く人々に、これまでに見たことないような赤い塊を見なかったか聞き回った。おそらく失くしてから4年も経つというのだから、もしかしたら壊れてしまったのかもしれない。それならそれで良かった。そうであって欲しかった。

–––––––––日も暮れようとしていた。



 心臓を握り潰されるような感覚が、私を襲った。

その瞬間、少し遠くで爆発音が鳴り響いた。あの赤い塊の存在とそれを託してきた少年が脳裏をよぎる。嫌な予感がした。最も恐れていたことが起こってしまったのではないかと、そう思った。

 私は再び走り出していた。向かう先からは、何度も大きな音が鳴り響いている。少しずつではあるが、段々とその音は大きくなっていった。焦りで脚の運びと鼓動が速くなっていった。音の鳴る方へ、とにかく音の鳴る方へ。


 音を頼りに着いた頃には、その音はやんでいた。目の前には、ただ焼け野原が拡がっていた。私はひたすらに泣き叫んだ。怒りか、悔しさか、虚しさか。あらゆる負の感情が自身を襲った。その場で崩れ落ちた私が右下に目をやると、そこにはあの赤い塊が転がっていた。

 私は『それ』を見つけたときから、何秒かは覚えていないが息をしていなかったと思う。自分を責める全ての感情に、心臓が耐えきれなかった。

「はぁ、、はぁ、、、私は、、、私は、、、!」

ひたすらにその赤い塊を踏み潰そうとした。でもその赤い塊は変わらず輝きを保ったままであった。私は自分の両手を首に当て、自分を殺そうと試みたが、失敗した。

「なんで、、なんでよ、、、誰か、、、私を殺してよ、、、。」

どうしてか、急に頭がクリアになる感覚がした。私は右手に赤い塊を持ち、歩き始めた。目の前に広がる赤く染まる街へと、一歩、また一歩と足を進める。この火の海に入りさえすればいい、ただそれだけでいい。しかし、壊れて遺体となったアンドロイドの横を通り過ぎると、また私は足を止めた。

「み、、、美桜、、、?じゃないよねまさか。」

飛んできた瓦礫に下半身を砕かれ、辺りは血の海だった。私はそこに倒れている女性が彼女だと信じようとしなかった。でも、信じるほかないことも当然わかっていた。今の地球にある人間の遺体、この街、知っている顔。間違えるはずがなかった。そして、ふと数メートル先が視界に入った。

「あぁ、、、うぁああああ!」

ただひたすらに泣き叫んだ。そこにいたのは、私の後に部隊長を引き継いだ彼であった。そう、彼女と同じようにそこにいた。


 また歩き始めた。ゆっくりと一歩一歩、今度は街を離れながら。身体中が痛いが、そんなことはどうでも良かった。もう自分が死ぬことすら許せなくなっていた。

 私はこの4年間、なんのために生きてきたのだろう。美桜は、近衛さんは、皆は必死で人間が住む場所を取り戻そうと頑張っていたはずなのに、どうして私だけが今生きている?ただ死んで許されるのならば、どれだけ良かったのだろう。

美桜の作る料理って、すっごい美味しいんだ。訓練中の食料なんて、味のしない最低限のものばかりなのに、彼女が調理するといつも楽しい食事になった。あ、でも楽しい食事になったのは、近衛さんのおかげかな。いつも周りを気にかけてくれて、雰囲気を和やかにしてくれた。


 私は、、、彼らにどんなことをしてあげられたのだろうか。


 一日かけて歩き続けた私は、無意識に4年前に訪れた古田の家に辿り着いていた。

ドアをノックすると、彼が出迎えてくれた。

「あなたは、、、東雲さん、、、!」

「古田さん、私、、、私は、、、、。」

そこからの記憶がない。きっと私はすぐにその場に倒れた。体力も気力もとうに限界を超えていたのだろう。


 目を覚ますまでに、確か1週間はかかったと思う。目を開けると、またもや無数の電極が私の身体中に繋がれていた。身体の痛みはだいぶ消え、気分も少し落ち着いていた。今度は電極を一本一本ゆっくりと丁寧に身体から外した。それにしても、直接身体に電極を繋がれているって、よく考えると恥ずかしい。右手の近くに”OPEN”と書かれたボタンがあったので、押すとカプセルの上部が開いた。

カプセルから右脚、左脚と下ろし、立ち上がった。歩き出そうとすると、よろけて転んでしまった。

「あはは、、、何やってんだか。」

すると、転んだ音に気づいた古田さんが飛んで見にきた。

「東雲さん!起きましたか、、、大丈夫ですか。」

「はい、なんとか。」

声の出し方も忘れてしまいガラガラ声で答えた。

「ひとまず、お茶でも飲んでください。」

一瞬レストランの料理が脳裏をよぎったが、古田さんの家に最初に来たときに飲んだお茶が、普通の緑茶であったことを思い出し、いただくことにした。


 私はそれから、古田さんに美桜や近衛さん、仲間をシヴァの暴走で亡くしたことを話した。もちろん、私がシヴァの持ち主であったことや、自分たちの正体は隠した上でではあった。古田さんの話によれば、シヴァの暴れた街から逃げ出すことができたのは、たった三人しか確認できていないという。そして、シヴァの存在は瞬く間に世界中に知れ渡っているということだった。

私は、シヴァの姿を見ることもできなかったと言うのに–––––––––。

 私は不思議と落ち着いた口調で、自分が何もできなかったことの悔しさや、死ぬことすら考えたことを古田さんに話した。

「古田さん、私はどうすればいいですか?」

「実は今日、久坂さんを呼んでいるんですよ。彼ならきっとあなたを助けてくれるでしょう。もうそろそろ来るはずなんですが。」

久坂さんって、あの時のレストランの人か、髭面の割に優しそうな人だったのをぼんやりと思い出す。そしてその言葉通りに、ノックが聞こえた。

「お、きたきた。」

「あれ、彼女もう起きたのか!良かった良かった!」

久坂さんが満面の笑みでそう言う。

「久坂さんは、あなたが寝ている間、たまにきてあなたの状態を診てもらっていたんですよ。実は医師経験のある方でしてね。」

「そうなんですか?あ、ありがとうございます、、。」

私が驚いたのは、アンドロイドにも医者という職業があることであった。というか、私の状態を逐一見られていたってことは、私の裸を、、、、。あぁ、考えるのやめよう。

 久坂さんは私の前の椅子に座り、少し雑談した後、古田さんにした話と同じ内容を彼にもした。

「夏目ちゃんだっけか。実は俺には、息子がいるんだ。そいつはな、つい最近とんでもねえ事故に巻き込まれちゃってな、口には出さないんだが、、そう、今の夏目ちゃんとおんなじ顔をしてんだ。自分を責めてる顔、許していない顔、全てを悟ってしまった顔って感じにも見えるな。そんで、詳しいことはわからないが、夏目ちゃんも俺の息子も、辛いことを経験してるわけだ。どっちの方が辛いかとか、そんなの関係なしにな。そういう時、あんたみたいな責任感の強い人はどんな思考で、どんな行動に出ると思う?」

髭を生やしたその荒々しい容姿や話し方とは対照的に、とても真剣で繊細な問いに迫られる。何か心の中をえぐられるような感覚だった。しかし、真摯に彼に向き合おうと、心から思う返答をした。

「理由を追い求める、と思います。私が生き残った理由、仲間が死ななければならなかった理由、世界がこうである理由。」

それはそのまま私が考えていることだった。久坂さんは深く頷き、私の返答に続いた。

「そうだ、もちろん全員じゃない。しかし、あんたや俺の息子みたいな表情を浮かべるやつは決まってそういう思考に陥る。いや、そういう思考だから今の表情になる。そして、自分で抱え込む、一人でな。だがそういう思考は、自分をさらに殺していくことになるんだ。」

「ちょっと久坂さん、説教に来て欲しかったわけではないんですが、、。」

古田さんがたまらず心配そうに口を挟む。

「古田は早とちりなやつだなぁ、まあ聞けって。」

「なら、私はどうすればいいんですか?理由を探してはいけないんですか?このまま、責任を放棄して、忘れて生きていくべきと?」

私も古田さんに反応して口を挟んでしまった。

「だからよく聞けって。」

「すみません、、、。」

久坂さんはニヤリとしてそのまま話を続ける。

「理由を追い求めろ。それでいいんだ。だがな、一人で追い求めるな、これは絶対だ。仲間を作れ。全ての事情を共有しろとは言わん、話せないこともあるだろうしな。ただ、一部でもいいから、自分が理由を追い求めていることを仲間と共有しろ。他にも理由を求めている奴がたくさんいる。その重みの大きさに違いはあれどな。」

久坂さんがさらにニヤリとする。

「夏目ちゃん、大学に行かないか?あんた今一人でとぼとぼ暮らしてんだろ、若いのに。大学にはな、色んな考えを持ったやつがいっぱいいる。考えすぎな奴、何も考えてないやつ、ど真面目なやつ、イカれたやつ。そこには必ずいるんだよ、あんたみたいに理由を追い求めてるやつが。俺の知り合いに大学の関係者がいる。話はつけといてやるよ。」

突然の話に、頭がついていかなかった。大学?アンドロイドの、、、?話を聞く限り、人間の大学と同じような気がするけど、、、。でも、アンドロイドと過度に接触するのは危険がすぎるんじゃ、、、。

「でも私、人と一緒に過ごすのは、、、。」

久坂さんは一瞬にして真剣な表情へと変えた。

「もちろん、決めるのは夏目ちゃん、あんただ。ただ、どうしてあんたはここを訪れたんだ?助かりたい、ただそれだけだったのか?自分には理解者が必要だと分かっていたんじゃないか?あんたは見たところ賢い。美人だしな、ガハハ!」

なんだか全てを見透かされているような気分だった。

この先の自分がどうすべきかなんて、今は分からない。でも、私は理由を追い求めてる。だから、今はそのための一歩を踏み出さなきゃいけないのかもしれない。

「行ってみようかな、大学。」

再び久坂さんがニヤリとする。

「よく言った!俺はあんたを応援するよ!」

「東雲さん、私も手伝えることがあれば、いつでも手伝いますよ!」

古田さんも笑顔で言葉をかけてくれる。

「ただ、一人暮らしはこれからも続けます。先ほどもお話しした通り、あまり他人と関わっていい身分ではないので。ですが、大学に行き、理由を求める仲間と一緒に自分を見つけていきます。」

「うっし!じゃあ手続きだなんだは俺がしといてやるから、来週またここに来な、通う大学について色々説明してやっから。1年生の3月から編入ってことになるから、すぐに2年生になる。そこだけ覚えといてくれ。俺は今日はそろそろ帰るわ。」

久坂さんはそう言って腰をあげ、荷物をまとめてドアまで向かうが、振り返って話し始めた。

「おっとそういえば、そういえばなんだがな?夏目ちゃんを入れる大学に、たまたまだが、さっき言った俺の息子が入学するんだ。まぁ、話した通りとんでもねえ事故に巻き込まれた直後でよ、あんたと同じ顔してるから、すぐに分かるよ。もし会うことがあればな、よろしく頼むよ。」

「久坂さん、本当は今日それを伝えに来ただけなんじゃないですか?まぁ、分かりました。」

皮肉混じりに私は返事をした。

「ガハハ、どうだかな!若い子には敵わねえぜ。」

そう言い残して彼は古田さんの家を後にした。


「古田さん、私もそろそろ行きますね。」

「身体の方は大丈夫ですか?東雲さん。まだお休みしていっていただいてもいいのに。」

「まだ動くのに違和感がありますが、そのうち慣れます。お気遣いありがとうございます。本当にお世話になりました。また来週伺いますね。」

「はい、お気をつけて。」

私は古田さんに軽く会釈をし、その家を後にした。



 【1週間後】


 ドアをノックし、古田さんが出迎えてくれたが、まだ久坂さんは来ていなかった。

「お茶でも淹れましょうか。」

いつものように彼がお茶を淹れてくれた。

「ありがとうございます、古田さん。いただきますね。」

少し冷ましてから飲もうと思っていたところ、ドアの開く音がした。

「よお、遅れちまってすまんな。」

太い声で久坂さんはそう言うと、荷物を下ろし椅子に腰をかけた。そして鞄からいくつか書類を取り出し、私に渡してくれた。

「これはな、大学に入るにあたって必要ないくつかの書類だ。ちょっと境遇が特殊な子だから色々免除してやってくれとは頼んでおいたから、夏目ちゃんが提出したくないようなもんはそうないだろうさ。後で目通しといてくれ、質問があったら聞きな。」

確かに書類は大した量はなくて、中身をざっと見ても戸籍関係はないみたいだ。久坂さんが話を通しておいてくれたってことみたいだ。とても助かるが、戸籍確認せずに大学に入れてくれるって、彼はどれほど影響力のある人なんだろう。

「ありがとうございます、久坂さん。目通しておきますね。」

「うむ。んでな、今日話しに来たことは、大学でのアドバイスだ。まぁ参考程度にな、最終的にはあんたの自由だが。」

彼は私が大学生活をどう暮らしていったらいいか、いくつかアドバイスをくれた。

中でも、サークルを立ち上げることを最も勧められた。

「あのシヴァによる街の惨劇を直接目の当たりにした人間は少ないが、きっとああいうもんに興味あるやつはたくさんいる。タイムリーだしな、話題性もあるだろ。きっと人が集まる。あんたの本当に知りたいことが何かは分からんが、最終的な目的が違ったって、そこに辿り着くための仲間は多い方がいい。まぁ、よく考えときな。」

 サークル、かぁ。確かに、私がシヴァを失くしてからの4年間、誰かがそれを所持していた可能性があるし、それを一人で調べられるわけもない。ここで暮らしていくには、やはり地球のアンドロイドと関係を持つ必要がある。

 そして、私は知りたい。なぜ彼らはアンドロイドでありながら、同時に人間であるのか。私は知らなければならない。百年の間にこの地球上に何が起こったのかを。そして何よりも、私のかつての憎しみの行き先はどこであるべきだったのかを。



–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「そして私は今の『ドロイド研』を作って、ケイに会って今に至るってわけだね。」

先輩はいつもの明るい口調でそう言ったが、受けた印象はとんでもなく重い話だった。

「じゃあ先輩は、俺のこと最初から知ってたんですね。こんなに絡まれたのにも納得がいきます。」

冗談混じりに言うと、彼女はニヤリと笑った。

「ケイの顔見て一瞬でわかったよ、本当に私とおんなじ目してるんだもん、笑っちゃった。」

「それは酷いなあ、俺は先輩の顔見ても自分と同じなんて思いませんでしたよ。」

「だって私も久坂さんに言われるまで自分がどんな顔してたかなんて気づかなかったもん、当然だよ。」

確かにと感心しつつ、俺は本題に入った。

「先輩、俺は先輩を信じます。だからこそハッキリさせたい。俺は、いや俺たち地球上に存在する人類は、実はアンドロイドである。そして夏目先輩、あなたは本当の人間である。ということですか?」

彼女は瞬く間に真剣な表情へと変わる。

「そう、その通り。でも、私はケイ、いや君たちの敵じゃない。この世界はどこかおかしい。ここで暮らすうちに、自分が何者であるか分からなくなってきたの。でもこれだけは言える。私は、これからも君と一緒に、、、、ってケイ?」



 –––––––––なんなんだこの目眩は、経験したこともない頭痛は、、、。クソっ、周りが見えない。せっかく先輩が全てを話してくれたっていうのに!何も聞こえない、何も見えない、ここは、、ここはどこだ。俺は、一体何者なんだ。


《キオクサクジョプログラムシンチョクド70パーセント.......》


 また終わらない夢を見ている。幸せな、、、幸せな夢、、、。なんだか、大事なことを忘れている気がするんだけど、なんだっけ。あぁ、でも気分は凄くいい。そう、知らなくていいことは世界にいくらでもある。俺にはどうしようもないこと、人間には変えられない自然の摂理。そう、、、人間には。


「ケイ、、、!ケイ!」

「はっ」

 詰まっていた息を吐き出すように俺は飛び起きた。ここは、、、夏目先輩の部屋か?どうして俺はここに、、、。そういえば、学校で先輩に声をかけられて、家まで来て、、、それから、、、。

「お、俺、先輩に変なことしてないですよね、、、?」

おそるおそる聞いてみたが、彼女はとても心配そうな顔をしている。本当に何かやってしまったのか?

「ケイ、大丈夫?いきなり倒れちゃったの。もう1日経ってる。」

1日も倒れていた?どうして、、くそ、、ダメだ。何か思い出そうとすると頭が痛くなる。

「俺がなんで倒れちゃったか分かります?全然思い出せなくて。」

「ごめん、わからない。でも、私が人間で君がアンドロイドっていう話をしていた時に、急に倒れちゃった。」

先輩の話に思考が追いつかない。1日もぶっ倒れてたからなのか。俺がアンドロイド?何言ってるんだ先輩は。どういうことだ。俺と先輩がそんな話を、、、?

「あの、、俺がアンドロイドって、、、どういうことですか、、、?」

「ケイ、、、覚えていないの?」

先輩が確認するように俺に尋ねる。返答しかねていると、

「ううん、なんでもない。今のは冗談、忘れて。」

先輩の顔色が変わった。一瞬青ざめたようにも見えたが、何かを確信したような、それでいて決意に満ちた顔だった。

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