入学式の後の懇親会

 でも普通に考えたら、大人に子供がこう言った契約話を持って来れば、当然ながらこんなことになるよなと言うくらいには、最初門前払い気味だった。

 だけれどスクアーロを連れて行ったら話がトントン拍子に進んでいったのだ。

 まあ、これが普通だよなと今であれば思うけれど、行ったばかりのあの日はなんでだと思ってしまった。

 反省せねば。


 兎に角あと少しだからと学校に何度も通いつめ、いざ入学式になったら、とてもじゃないが、この国の広さが分かったほどだった。

 ルッチェロの学生は、矢鱈多いのだ。

 それこそ、400名前後居る。

 5年制と聞いたことがあるから、普通に考えて幼年学校を一年で卒業後、魔法学校を四年だ。

 時間の許す限り通えるわけではないから、普通に一年で先に進めないと汚点とされると聞いたことがある。

 つまり留年イコール跡目は継げぬと言ったようなことであろうが、それでも貴族だけでこの人数が居るのだから、凄まじい。


「10歳から通えるようになり、15歳までに通うべしとされているそうですわ」


「だから皆さんと一緒の学年で行けるんですものね」


「ええ。嬉しいですわアル様」


 すっと脇から抱き着かれて、少し恥ずかしく思う。

 フローラは結構積極的だ。

 此方に来てからこうなったのだが、なんだか不思議な心地がする。

 きっと親の目が無くなったからなのだろうが、良いのだろうか?とも思っている。

 それが嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しいが、恥ずかしくて少し距離を置きたくなる気持ちもあるほど。

 分からないのだ、フローラとの距離が。

 どこに身を置けばいいのかが分からない。

 時々こちらに公爵を招く算段は付いているのだが、とてもじゃないが困ってしまう。

 妙に距離感が近づいていれば、どうなるかと思うと難しいのだ。

 どう対処すればいいのか、分からない。



 結局、この日までにノールを追いかけて付いて行った者が3名居る。

 そしてここの寮に留まる決意をした者もある。

 三か月でここの学校を卒業出来る算段で来ているが、予定通り行けばの話。

 行ければいいのだが……。


 入学式のその日、晴天であった。

 何が困ったって、そこに教師陣が並んで待っていたのだ。


「何名枠がありますかな?」


「それは、本日スキルで公王を招く予定ですので、その時にでもどうでしょう?話でも」


「それは結構ですな。現時点で10名弱でしょう?であらば100名近く引き取っていただければと思うのです」


 成程、こちらルッチェロでは人が多すぎて引き取って欲しいわけだ。

 成程成程と思っていれば皆給与は上がるか据え置きだろうと言うことで、うきうきしているのだ。

 職にあぶれた貴族の三男四男の勤め先がここと言うことで、相当数を養っていると言う魔法学校。

 如何にか皆引き取って欲しいと目を輝かせていた。

 此方にとっては嬉しいのやらだが、相手にとってはどうなのか――不憫ではあった。


 兎に角入学式である。

 楽しい楽しい入学式だ、懇親会と言うことで、皆ドレスを着てパーティだ。

 アルも自由貿易で買った服で懇親会に出席している。

 フローラは、この時代この世界に有り得ない、レースを大量に使ったドレスで登場し、会場を沸かせていた。


「その、ドレス素晴らしいですわね。レースがとても素晴らしいですわ」


「有難うございます」


「あなたの衣装もそれは素晴らしい出来栄えですよ。それを着ているあなたも美しい」


 小さな紳士淑女が先輩達の用意した会場の中を必死で泳ぎ回る。

 そしてルッチェロの王族に挨拶をしていくのだ。

 順番に行う行為だが、彼らルッチェロの公爵がこちらに挨拶をしに来た。


「やあ、こちらに留学生の一団がやってきていると聞いていたが、凄いな。今年の留学生の人数は。9名かい?凄いね」


 留学生の場合は本来の学生の倍の金額を支払わないと受講できない事を言っているのだろうが、そんなのはアルが何とかしたからいいのだ。


 だが、下級貴族も着ているから何事かと言った様子。

 確かに留学費用を工面できそうにない彼らからすれば、居ることが不思議な存在なのだろう。

 今回はアルがドレスも用意出来ないエナのために用意しているため、そう言った面では下級貴族がゴージャスになった理由を知りたいのだろうと思えた。


 単にアルが居ただけだが、そんなことルッチェロ貴族に言ってどうなる事でもあるまい。

 そのため、適当に、新しい公国から来たものですと言う。

 此方に幼年学校に入学し、学びに来たのだと言えば、そうかと嬉しそうだった。


「公国の話は早馬で聞いて知っているが、まさか、ルザーリアから来たと聞いていたが、ルザーリアから独立した公国の者だったとはね。驚いたよ。では公国の姫君もいらっしゃると言う事かな?」


 と、言ってフローラを見やる小公爵――だと自身で名乗っている。

 彼の言に、そうですわねとフローラが扇子を閉じて初めましてと名乗っていた。

 フローラは幾分緊張している様子だが、今日はこのまま一旦王族に挨拶をしたら捌けて、その後公爵を召喚し、こちらで王族と話しをする予定である。


 だが小公爵である彼に話をする必要はないだろう。

 アルがフローラの腕を引いて、ダンスを踊りに行く。

 アルは颯爽として舞台の中央へ進んでいく。

 華麗なステップで床を踏み出す。

 まるで風のように自由だった。

 音楽はフローラとアルの身体と心を一体化させ、寄り添いながら回転し、時には身を寄せ合い、時には遠ざかりながら美しいダンスを披露していく。

 波の中を泳ぐように、するりするりと動いていく二人に、ジルクが手を叩いてはやし立てるようにする。

 無作法なと言うように周囲から見られてしまい肩を竦めるジルク。

 ミーンも一緒に居たのだが、大丈夫だと言った様子であるので、アル達は戻ることをやめて目いっぱい楽しむことに決めたようだった。

 10歳になり、何とか身長が追い付いてきたアルは、ブーツを作って貰い、少しだけ身長を合わせていた。

 その為ダンスが楽しくてしょうがないのはアルもフローラも一緒だった。


「ようやくアル様と普通にダンスが踊れますわ」


「耳が痛いですフローラ」


「ですけれど、今まで身長が足りずにダンスがあまり踊れませんでしたもの」


「分かっていますけれど、それは私の責任でもなんでもないんですよ?」


 身長が少しだけ足りなかったアル。

 そんな彼をリードするのはいつもフローラだったが、今ではアルがフローラをリードしている。

 彼の努力のたまものだった。


「アル様、私凄く楽しいですわ!」


「そうですね、私もですよ、フローラ」


 そんなこんなで楽しいひと時を彼らは過ごしたのだった。

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