医師協会

 全員が全員完璧な回答が出来るまでになった所で、ひっ算と読み取り書き取りを行い復習も欠かさなかった。

 あと一週間で学業をと言う所で、一人の教師が宿にしている邸を訪ねてきた。


「私はそちらに付いていきたいのですが」


「では、私たちがテストに合格して全員が戻るとき、又は三か月後に来る迎えに、乗っていく形でどうでしょうか。一応私たちは三か月後に帰還する予定ですので、如何ですか?」


 ご予定はと言うと、それで大丈夫だと言う。

 彼は算数と魔法学の教師と言うことで、既に教師を止めて来たらしく、こちらの邸に滞在したいと言う。

 なので余っている部屋を用意してやると、喜んでいた。


「寮を引き払っていくならもう辞めてもいいと言われて、すぐさま引き払ってしまったのですよ。三か月も宿を取るわけにいかないので、助かるねえ」


 いやあ、有難いと言ってる彼の名は、スクアーロ。

 貴族と言っても三男坊で家を継げないため、学校の教師をやっていたのだが、芽が出ないと言うことで、副担任以外任せて貰えないのだそうだ。

 結果全く暇で何もやることがないと言う。

 そのため今日は此方にやってきたと言われ、どんな教え方をするのか気になったため、テストをやってみて欲しいと言ってみたのだ。


「ではテストですね。じゃあ今からひっ算の問題を音読します。これを全て解いてください」


「はい!」


 9名全員が行儀よく答えると、問題の音読が開始された。

 一つ一つひっ算で解いていくと、問題を解いた部分を全て提出して、そこで採点である。

 上位貴族三名は良いのだが、下位貴族六名は多少問題は間違えたようだった。

 だが合格するだろうと言われてやったと答えた。


「どうせなら勉強も教えましょう。教科書があるんですね。私も持ってきましたが、これも使って勉強をしましょう」


 そう言ってスクアーロは教えてくれることになったのだった。

 その後、また教師を止めてきたから医者になりたいと来た者と、医者か教師どちらかになりたいと来たものが出てきた。

 家は首都にあると言うことで、引き払って三か月後付いてくるとの事。

 邸に滞在したいと言う事なので、余ってる部屋を用意するがこれで流石に打ち止めである。

 教師が三名、そして医師が三名程、邸に滞在してくれることになった。

 このまま連れて行けるので、万々歳と言う事であろう。


 だがこれを聖域を伝ってノールと公爵に伝えた所、民間の病を直す医師が不足しているからそちらも声を掛けて来てくれと言われた。

 そのためアルは医師協会に駆け込むのであった。



 *****



「本日はどのようなご用件でございましょう?」


「私たちは公国の使者です。本日は医師の派遣または、医師を雇い入れたいと思い、こちらまで出向きました」


 既に独立までもう一歩と言うところまで来ているため、公国であると言ってしまう。

 どうせ彼らが公国が本当にあるか調べ終えた時には、実際に公国が生まれているのだからそちらで言わなければならないのが事実ではあった。


「どういう事でしょう?公国?」


「今度ルザーリアから独立する公爵領、伯爵領、侯爵領などが集合し、新たに公国を建国します。その建国に当たり、医師を欲しております。どうかいらしてはいただけませんでしょうか?」


「そう言う事でしたか。成程」


 国が出来たとなれば、教会も医師協会も派遣を断る事はない。

 むしろ派遣先が増えたということで、喜ぶほどだ。

 だからお願いしたところ、5名の医師が来てくれると言うのだ。


 何でもこちらも人手が足り過ぎていて、なのに医師は増える一方。

 だからどこかで派遣先を探していたと言う事のようなのだ。

 渡りに船と言う事だろう。


 ではと三か月後にお願いすると伝え、支度金を渡していく。

 必要ではあるかと思うのでと言って、医師を派遣してくれる医師協会にまず手付金じゃないが金貨一枚を。

 日本円にして百万位である。

 支度金にしては相当な金額であるが、これで足りるはずである。

 ただし、五人も派遣してくれるのだ、足りなければ追加で出すと伝えた所、大丈夫だと言う事だった。


「何とかなりそうで良かったですわね」


「そうだね。と言うか子供だったけれど、スクアーロ先生が来てくれて良かったです」


 子供だけじゃあ追い返されていたかもと言えば、スクアーロは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「役立ったようで良かったよ。でも急だったね、医師の方を派遣してほしいって決まってたんだとしても、大人の人がいないんじゃ舐められてしまうよ」


 それでなくとも医師協会は偏屈が多いんだと言うスクアーロ。

 確かに、スクアーロを見て彼らは派遣を決めたようだったし、アルの事を視ていなかった。

 偏屈かは分からないが、自分達は物事をきちんと見て、対処していると言う自負が感じられたほど。

 だからアルの事を思い切り値踏みしていたし、平民の集団だからって特にこちらにおもねる事は内容だった。


 まあ、どちらにせよ自国の貴族ではないと言う事もあったのだろうけれど。


 値踏みされた視線を思い出し、何とも言えない苦い思いが胸中を締める。

 だが、良かったと思おう。

 医師協会に来て、教科書となる書籍を買って言ってもいいと言うのだから嬉しい。

 文献を5冊も買い占めたアルは、この世界の医学を学ぶのに、楽しみだと漏らすのだった。

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