学力の差

 アルが本を売り出してから、2週間余りが過ぎた。

 売ってきた本だが、これがまた面白いことに、手書きでこれをコピーして売っている者がいると言うのだ。

 何と言うか、実に素早い動きだと思った。


 元からそうなるであろうと思ってはいたが、矢張り内容が面白いと言う事なのだろう。

 童話集が売れると分かって良かったと思った。


「童話集、フローラもお好きですもんね」


「ええ!これが教科書の一つになる日が、今か今かと待ち遠しいですわ!」


 二週間の間、アル達は教科書から文字の書き取りから読み取り、そして計算を行っている。

 何度も何度も何度も。

 紙はアルが作っている紙ではなく、コピー用紙を大量に配ったため、幾らでもある。

 木札ではなく、幾らでも書き損じをしたら捨ててもやせる紙を用いて、散々行った。

 すると皆目覚ましい学習力で持ってこれを出来るようになっていったのだ。



 因みに国語は今回母国語と同じなので取ったが、歴史は取らなかった。

 歴史は帰ってから学び直す形になる予定だ。


 教科書を持って、書き取りをして、各々教科書を丸暗記していった。

 普通の学生はこれが出来ないため落第するのだ。

 だからこそ教科書を買える自分達は強いと言える。


 アルは皆に足りない部分を反復予習させている。

 フローラとアルと、侯爵家出身のエルザは勉強が進んでいて正解率が高いため、教師役を全うすることにしたのである。


 そしてこれが大事なのだが、歴史書も買ってきたのである。

 歴史の教科書だ。

 自国でもこれを元に歴史書を作るのだ。


 実際の習う歴史は面白いもので、王族が大活躍する話だったりする。

 ただ、事実は異なるとだけ言っておこう。

 大貴族だけが知っている内容があると言われれば、面白いのでぜひに知りたいと渇望する。

 実はこれ、公爵は知っているのだそうで――貴族と言えど、王族でもある為知っているとの事。

 そうした公爵だけ知っている歴史書を紐解いてくれると言うのだ。

 これはがぜん興味があって、学んでいて楽しかった。



 だが今回は学ぶのは書き取り聞き取り、算数、魔法学、大陸地理、そして大陸歴史となっている。

 実際にルッチェロで学ぶ学生たちはここに、自国の歴史と地理も加わる為、必死だと言う。

 二教科も増えるのだから大変だろう。


 教科書を買ってきたのだからと――ここで面白いことに、地図も買えたので――これを持ち帰ることにした。

 大陸図が公爵邸にはあるが、それは公爵の持ち物であり、アルの持ち物ではないからだ。

 良い買い物が出来たと飛び上がらんばかりに嬉しかった。


「これも絶対に複写します」


「まあ、地図を増やしますのね。素晴らしいですわ!」


 地理を学ぶのに一番いいのは地図を見ながら行うことだ。

 正確な地図があるため、予想以上にこれがはかどった。


 ただし、下級貴族はここにきて、家庭教師を満足に雇えなかった者もいたことが露呈する結果となった。

 初めて勉強するようなことばかりだったのだ。

 だから何故なのかやんわりと訊ねてみた所、どうせこちらで学ぶから?

 公爵からの持ち出しで金貨一枚貰えば、どうせ一年ばかり勉強ができるだろうと言う事で、家庭教師を雇わなかったのだそうだ。

 何と言う事だろうか。


 親が許してくれなくてと言って、エナが泣きながら吐露する。

 仕方なく、皆でエナを元気づけながら勉強を教えるのだった。



 *****



「フローラ、そこ、大丈夫ですか?国名が間違ってるように思うのですが」


「あら? 本当ですわ。有難う御座います」


「アル様は、ひっ算が得意ですけれど、地理も得意ときてます。羨ましいです」


「いえいえ、ただ、良き家庭教師を付けて貰えただけです」


 世辞でも謙遜でも無くそうだと言えた。

 伯爵は大枚をはたいて勉強を教えるのにかなり良い家庭教師を雇ってくれたのだ。

 それも異国の者をだった。

 だから地理は得意となった。

 それだけだった。


 ひっ算が得意な理由は、元から日本で教育を受けたから。

 ひっ算は出来る。

 簡単だった。


 だが皆は、家庭教師を満足に付けられないものもいるようだった。

 これは、後の亡命チームは今回一緒に来ていないが、彼らもそうかもしれないと思うと、幼年学校をやり直す必要もあるかもしれないと思った。

 自国では満足に勉強にお金を費やすことが出来るのが、どうやら伯爵以上のようなのだ。

 だからこれは幼年学校を5年程行う自国でも必要になるだろうと、教科書を持ち帰ると決めた手が熱くなるのを感じるのだった。


「子爵、男爵、準男爵、騎士爵の者は、どうしても勉強にかけるお金がないですよね」


 アルの言葉に皆が悪いと思っているのか、俯いて筆を止めてしまう。

 そんなつもりではないとアルは言った。


「自国の税の締め付けの所為です。ですから、亡命してくれた際は、是非とも自国に残ってくださってる方方に勉強をつけましょう。じゃないとこれは学力の低下につながります」


「そうですわね」


 公爵家と侯爵家、そして伯爵家のものは皆頷く。

 肩身の狭そうな思いをさせて悪いと断って、頑張って早く合格して帰ろうとアルは元気づけるのだった。





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