閑話25王都民よどこへいく?
王都の城下町には、今、路地裏までゴミが居なくなったと言われている。
どういう事かと問われれば簡単だ、孤児の一人までも見かけなくなったというのである。
一人も居なくなったのを受けて、王族派の貴族は、何ら気にも留めずにいた。
成程ソイツラ孤児は金を生み出さない愚者だったからだ。
けれど炊き出しをしたりなんだりと、姫巫女が彼らを甘やかすから孤児の数が減らなかったが、今度は数が一気に減った。
有難いことだった。
けれど貴族たちはこうも思うのだ。
一体何があって彼らは消えてしまったのだろうか、と。
「はてさて、確かに不思議なものですな」
「そうであろう?」
元老院に出席するために皆で王城に上がるたびに上る議題。
だが、誰もその理由を知らぬのだった。
*****
≪元王都民のアトラ≫
アトラは貧民だった。
元は王都で少ない賃金でこき使われる労働者だったのだ。
今では公爵の奴隷と喧嘩をして生活をしている。
彼らはここの家を貰って暮らしていると言うのである。
それは良いが、流民になった俺等に家をくれてもいいじゃないか。
そう言った所公爵は皆で住めるよう、家を増やしてくれたのだった。
新市街地までは徒歩で二日程かかるが、そっちにはもう既にここの元住民が住んで居るという。
だからこの家を貰いたいと言ってるのに、こいつらは開け放とうとしないのだ。
何で怠惰な奴隷が俺等の分まで家を取るんだ!
「家は使わなければ古く使えなくなってしまうからですよ」
「言われなくても分かってらあ!だったら奴隷は出て行けばいいだろう!俺等はもうこっちに引っ越してきたんだ。有難いと思って出て行けよう!お前らはそこらに退け!」
そう言うと奴隷たちは、「怠惰な奴隷は居ないと言われた」と言う。
どういう事か?
ちょうどそこに公爵様がいらっしゃった。
ゆっくりと悠然と歩いてくる公爵さま。
ははあと腰を折って皆拝むようにして公爵さまのお越しを待った。
俺は目の前を歩いてくるときに、公爵さまに恐れ多くも声掛けをさせて頂いたのだ。
「あのう、公爵さま。俺達にも家を下せえ。ちょうどこいつら怠惰な奴隷が居ましたんでそう言いましたところ、怠惰な奴隷がいないっちゅーんですわ」
「まあそうだろうな。あれは王族の作りだした法螺話だからな」
だからそれを真に受けて奴隷を差別してはいけないと言う。
だ、だからって俺らが住む家が無いのはどういうこった。
ここに来れば皆暮らして行けるって聞いていたのに、ひでぇじゃねえか!
否定された途端に激昂する俺に、公爵さまは悲しそうに目を伏せて言うのだ、皆王族が悪いと。
現王族が、近年奴隷に墨を入れ出した、それは三代前の王族からだったというのだそうだ。
だから、墨を入れて俺等より下の階級を作って虐めるようにしたのだと言われれば、戸惑ってしまった。
そんな事、俺はしているか?
していねえよ!
「そうだろう?我らは奴隷を差別したりなどしない。そう言うふうに思っていけばいい。だが、実際に君は奴隷だから家を捨てろと言ったではないか」
「あ………」
そうだ、そうだった、俺は奴隷だから家なんぞ要らないと思っていた。
だが違うのか、奴隷は家なしでも当然だと思ってるこれが間違っているのかと、自らの手のひらを思わず呆然と眺めてしまう。
「俺ぁ、何て事を、済まねえ!奴隷だからってあんたらは人間だ!俺が間違ってた!」
「なんだ、分かってくれたんだな」
奴隷は皆首輪をしていたが、墨を入れていなかった。
皆ここでは借金奴隷になって、墨を入れずに生活をしているのだと言う。
ただ、王都から流れてきた生活苦からの奴隷たちは違った。
墨を入れていない奴隷を見て、羨ましそうに見つめていたのだった。
「悪かったなあ、本当に」
「いいってことよ。それより、家を作るのを手伝ってくれ。もっと多くの流民が来るはずだから、他にも村を沢山作って、アル様、フローラ様が戻ってきたとき、あっと驚く様な景色をご覧に入れようじゃないか!」
「ああ、公爵様のご子息とその伴侶様だな!分かったぜ、いっちょやってやるか!」
こうして公爵領では、公国となった折には奴隷蔑視をしないと言う文言が法に記載されることになるのだった。
他国では当たり前の法だが、この公国では、元の国の法律もあり、それは大きな一歩だった。
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