奪われたバスの行方

 神様に祈って、供物を捧げる。

 この習慣を止める気はもうないけれど、どうしてこうなったのか分からない。


『そう言えばこのスキルばれてるんでしょ?どうしますか?敵対してしまうかもしれませんよね?』


「え………そうか、そうかあ」


 まさかの二人が敵対者だったらどうするんだと言われ、慌てる。

 確かにその関係の場合は面倒だ。

 野営したのはあれから二つ目の街だ、少し、余裕があるならマイクロバスを探す必要がありそうだと思ったのだった。


「あれからガス欠起こしていないんだとしたら、この辺までは来れてる可能性はあるんですよね、何をしたくて先に言ってしまったのでしょうか?」


 入学金は此方の手元にあるのに?と言えば、ジルクもミーンも、そしてフローラも首を傾げている。

 きっと彼らはそう言う事ではなくて、ただひたすらにこちらと一緒に居たくなかったのかもしれないと言われ、うっと呻く。


 でも神様から言われて敵対している可能性もあると言われれば、そうかと頷く皆。


「男神様、男神様、本当にそう言った理由なのでしょうか?」


 敵対しているから?と聞けば、男神は理由は知りません。

 干渉しない事を約束させられていますから。

 ただ、ヒントを上げられます。

 と言う。

 どういう事だろう?

 先ほどの敵対者だったと言うのは、適当に言ってみただけ?と問えば、そうだったらどうするんだと言っただけだと言っていますよと、その神の声について解説してくれた。


 何だ違ったんだと思えば肩に入っていた力がすっと抜ける。

 実際のところは?ヒントをくださいと言えば、男神はこう答えた。


『自分達は荷物じゃない』


「?」


『荷物になりたくなかったのかもしれません』


「どういう、事でしょうか?」


 あれから大規模に二つ目の街の周囲を捜索して見たが駄目で、結局三つめの街に立つことが決定した。

 彼らはあれからどうなったのだろう?

 分からないまでも、元気でいればいいのだが――


「元気でいればいいって、お人よしだなお前は」


「でも、こっちに来ないとバスも置き去りになっちゃうだろうし、大丈夫かなって本人たちも心配だし」


「そう言うところがお人よしだって言ってるんだよ」


「そうかなあ」


 ただまあ、支払いはしたくないと思ってはいるけれど。

 どうする気なんだか聞きたいよほんと。


 アルが嘆息を零すと、フローラが言うのだ。

 ヒント?は分かりました。

 とりあえず暗示やそれを示唆することだよと伝えてある。

 意味は通じたらしいので、考えてくれることになったのだった。


「荷物になりたくなかった、つまり、荷物を持ってくれて全部運ばれるだけでは嫌だったのでは?」


「そう言う事?」


「もしくは荷物を運ばれて自分も運ばれるだけで自力で移動していると言えないからでは?」


「じゃあ敵対関係者ではない?」


「かもしれません」


「もしくは敵対関係だから荷物を預けられなかっただけ?」


「ですがもう既に彼らの父母である貴族の方方は、もう、新領地に来てますよね?」


 法衣貴族だから亡命することも出来たが、先に此方に来ていたはずだと言えば、そうだよなあと頷く者達。

 じゃあ、敵対関係ではないだろうと思われる。


 では一体何なのか――?




 でも、考えるだけ無駄な気がして来た。


「だってどうせ王都に向かってるでしょう?だったらそこで鉢合わせる。そこで話をすればいい話だもの。お金が欲しければ話して返してって言えば済む話だよ」


 とアルは言うのだった。



 *****



 ≪バスを奪ったドーン視点≫


 こんなもの簡単に運転できると思っていた。

 けれど、運転が必要以上に難しくて、街道脇に落っこちてしまうのだった。

 面目ないともう一人の子には言うけれど、何やってるんだと怒られる。

 だって、こんな簡単だと思ったのに出来ないなんて言えなくて。

 だから落ちてしまったのに怒らなくてもいいじゃないか。


 仕方なしに皆、脱輪してしまったマイクロバスから下りて出て来ると、ここはどこだと言った様子。

 え、だってこっちだって言ったのはエナじゃないか、エナに言ってよ。

 僕は悪くないと言い出すと、エナがあんたの方が年上だからあんたが悪いというのであった。


「こんなことならあっちに居れば良かったぁ」


「エナ!君がバスを奪って先に言っちゃおうって言ったんだろ!君が言ったのに何言ってるんだよ!」


「だって、荷物扱いで腹立ったんだもん。兵士はその場で雇ったし、別にいいじゃない」


「なあ、雇い主様たちよ、俺等片道であっちまで行ったら終りなんだが、本当にたどり着けるのかいあんたらは」


 王都で元衛兵だった者達が、今はここで兵士崩れをしている。

 そんなやつらを雇ってきたのだが、早まったかもしれなかった。


「ちゃんと道は分かってるんだろうな?こっちで良かったんだろうな?大丈夫なのかい?」


 他の兵士が訊ねてくるのに僕はまともに返すことが出来なかった。

 だって道なんてエナが言うのに合わせてるから知らないもん。


「ぼ、僕知らない。エナが知ってるって言ったからきたんだもん。知んないよ」


「はあ!?私が悪いって言うの!?私が道を知ってるって言ったって?何時よ!」


「いつって、昨晩テントの中で、」


「そんなの誰も聞いてないじゃない!だから私悪くないわ!あんたしか聞いてないんだからあんたの言葉を真に受ける誰が居るってのよ!」


「だってそんな、こんな乗ってないだろ、君が自分で抜けてしまおう二人でって言ったんじゃないか。なのにそんな」


 ずるいよとこぼすと、頬を張られた。

 何するんだと腕を払って手を払いのけると、エナが尻もちをついた。

 そして暴力に訴えるなんてひどいと言うのだ。

 先にやっておいてよくもまあそんなことが言えるものだと思う。

 だから兵士はどちらにも手を貸そうとせず、ずっと見ているだけ。

 こんなの、ないよ。


「僕、元来た道を引き返すよ。それで、きちんと謝罪する。荷物は………捨てる。一旦合流しないとどうにもなんないし」


「はあ!?私は残るかんね!ばーか!死ね!」


「勝手にすると良いよ。兵士の皆、アル様がお金は持ってるから、きちんと追加の日付分は支払うよ」


「いや、まだまだ日付は余ってるからいいんだが、良いのかい?嬢ちゃんあのままで」


「いいに決まってる」


 こうして僕は5日後、アル様と合流を果たして、エナを迎えに行くのだった。



 *****



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