バスと共に失踪する二人とトゥエリ

 アルは言った、どうしてこんなことになったのかと。

 何でこうなったのかは分からない、けれど、アルは大変なことになっている。

 宿泊施設に泊まっていたら、今度はマイクロバスを勝手に二人が乗って出て行ってしまったのだ。

 勿論、お金は此方にあるけれど、出て行ったものはどうしようもない。

 アイテムBOXの中に入れてあったバスで追いかけることにしよう。

 じゃないとそろそろガス欠でどこかでくたばってるはずだから。


「何で置いて行ったんでしょう?」


「分からないけど、何か気に入らなかったんじゃないかな?」


「元から気に入らないからこっちのほうに荷物入れなかったんだし、ってことだよね」


「残念だけど自分で金貨支払って貰おうかな。知らないよもう」


「そうですわね」


 フローラに言われ、アルは俯く。

 だが俯いている場合じゃない。

 ノールとアルで運転手を交代しながらバスは駆けていくのだった。


 所でだが、何故彼らがおいて行ったのか、今朝何があったのか時間を巻き戻してみることにする。

 彼らは朝食の席で普通に野営時と同じシチューを食べたくなったため、街の外に出てシチューを作っていた。

 するとバスに鍵をつけてあるため、鍵を借りて急に出て行ったのだ。

 荷物は勿論彼らのものはバスに乗っていたし、それは良いのだけれど。

 彼らは聖域で寝ることも無かったし、荷物を預かる事も無かった。

 お陰でテントを用意したりと大変だったのだ。

 だけれど何故こうなったのだろうか?

 どうして置いて行ったのか分からないままに、大型バスは進んでいく。


 全員を一台で乗せられるようになったのは、彼ら二人が居なくなったからだ。

 彼らは自分の護衛兵を連れて来ていた。

 臨時雇い入れの兵士らしい。

 辺境伯爵や公爵は自領が魔獣の森にある為に、兵士を持つことも騎士団を持つことも許されているが他の領主は許されていない。

 その為臨時で雇い入れたのだろう。

 彼らがいなければ、公爵領からの貸し出しの騎士を10名だけで済んで居るのだ。

 洗濯女中は聖域に居るし、何も困らないのだが――彼らはそう言ったものはおいてきて、兵士を連れてきたのだった。


「何がしたかったんでしょうね」


「そうだな………とりあえず、後2時間通しで動けるが、燃料をそろそろ補給したい。街にいこう」


「ええ、そうしましょう」


 大型バスで何とか次の街に辿りついた時、そこにはあのマイクロバスの姿はなかった。

 つまり先に言ってしまったと言う事だろうか?


「そんなに燃料無かったですよね、父様」


「ああ、そうだな。もう燃料が無いはずだが」


 しかも燃料はあちらに予備など詰んでいない。

 その為どこかでエンストしてバスが停車ではなく完全に沈黙しているに違いなかった。


「どうしたんでしょうか?本当に」


「どこに言ったのやらだな」


 地図を広げて皆でパウンドケーキを齧りながら見る。

 ジルクが言うには、後三つ街を越えれば首都だから、そこで勉強と言っていた。

 ミーンは地図の視方が分からないらしく、地理が出てきたら相当厳しいと思った。

 あちらに付いたら地図の視方から教えなければならないだろう。

 兎も角頑張らないと勉強と、アルは気を引き締めたのだった。



 *****



 ≪トゥエリ視点≫


「筆談でいいだろう、文字は書けるか?」


「がげ、がぐ、よ゛ご、げっげっげぶっ」


「あああああ、きったねえ、吐いたぞコイツ」


 トゥエリは必要だと覚えさせられた筆をとり、書こうとしたが、インクのにおいが喉にきて、吐いてしまった。

 けれど誰も服を変えてくれない。

 いつもならトゥエリが粗相をしても、皆黙って服を替えてくれると言うのに、ここに居る人間はどれもこれも遅すぎる。

 服を替えろと言いたいけれど伝わると思えないため、インク壺にペン先を浸し、書いてみる。


 そこには「服、かえる」そうあった。

 だがこれで伝わると思えないが、トゥエリは兎に角これで伝わればいいのにと若干やけになりながら考える。

 案の定妙な反応が返ってきた。


「服かえる?服を替えろってことか?そんなの御前の荷物を見たが、服なんざ何も持ってねえ、それでどうしろってんだ。それとも何か?俺等にお前の服を買って来いってか?」


「冗談だろ。こんなやつの服をだと?」


 ッハ!無理無理と言って取り合わないのだ。

 どういう事だろう、服を買って来ればあると言ってる。

 だったらそれでいいじゃない、寄越せと書けば殴られた。

 衛兵から物を強奪しようとするとは、何たる所業と言っていた。

 どういう事?

 何であたしが殴られなくちゃならない!?


 この手枷があるからいけないんだと手枷を外そうと試みると、毎回周囲の人間が引っ込んでしまう。

 化け物がまたやってら、話しも聞けねえだの言いたい放題だ。

 何言ってるの、あたしが誰だか分かってないくせに!!


「だんじゃぐ、だんじゃぐ、え゛り、み……ゃに゛」


「何言ってっかわっかんねんだよ!」


 蹴りあげられた、顎を掴まれ頬を張られる。

 何で、どうして、今までは暴力を振るう側だった。

 だと言うのにこの手枷をつけられてから誰も言う事を聞かないし、誰も話を聞こうとしない。

 男爵のところのエリミヤを呼んでと言っているのにそれも聞いてくれない。

 だから仕方なしに文字を書くが、男爵の単語が分からない。

 だからえらい、にんげん、よべ、こう書いたのだった。


 すると出てきたのは知らない人間。


「私を呼んだのは貴様か。誰だこいつは」


「ええ、偉い人間、男爵男爵と言うので。エリミ?と言う何か、単語にお心当たりは?」


「いいや?兎に角顔を合わせればいいと言われてきたのだから、いいな?これで疑いは晴れたろう?」


「はっ!有難う御座いました!」


 牢の中は冷たくて、辛くて堪らない。

 何であたしがこんな目に。


 *****


 トゥエリはまだ現実に向き合わないのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る