エッフェモンテス領とルンダリア領の人々

 道がもう以前知っていた景色ではないため、案内して貰ったアース達。

 彼らの知っている土地はもうそこには無かった。

 人が道で唸って吐いて、喉が渇いた食べ物が無いと軒下で虫が集るのを見ているのだ。

 己に集る虫を見る、それくらい絶望していて、それだけ元気がないのだろうと分かっていても、人の成れの果てがああだとは思いたくなかった。


 領主の館についた所で、そこも同じようなことになっていた。

 領主自らも働いていたのだろうが、水もなく薄汚れている。


「エッフェモンテス領、領主のライズ・エッフェモンテスと申します」


「父さん!」


「クロア………帰ってきたのか。もうここは駄目かもしれない。そうか、クロアの友人か何かかい?食料を下さるとか……今水もなく皆おかしくなっているので、まず水からいただければと……」


 自制するだけの気力はあるのか、水を寄越せと言わずに、邸に仕えている住人全員が、用意される水を待ち望んでいるようだった。

 アルは水を全員にペットボトル500mlを渡していく。

 まずは軟水の天然水を用意して、そして炊き出しを同時進行で進めていく。


 またここでもパンがゆになりそうだ。

 前と同じシチューでいいだろうか。

 芋を大量に入れて満腹になって貰おう。

 護衛兵には半数残って貰って半数はクロアと共に領内をバスで領地の生き残った人民を連れてくることになった。

 どうやらこの飢饉で弱者である子供や老人はほとんど死に絶えたとのこと。

 若い体力のあるモノだけが今生きていると言われ、ぞっとした。


 小領地と言うだけあって、1500人程度しかおらず、何とか何往復もして集めてきたのだが、その胃袋を皆満たすには炊き出しだけでは足りないだろう。

 柔らかなパンとワインも出して、皆の胃袋を満たしていく。

 シチューとワインとパン、何て贅沢なんだ。

 あの子たちにも食べさせてあげたかったと言われ、もの悲しい気持ちになる。


 アルは言った、胃袋が満たされたところで、移住を提案したのである。

 ノールも言った、移住先は台風の来ない地方であると。

 その代わり時々竜巻が来る地方ではあるが、基本大人しい気候であると伝える。


「――ですから移住をされませんか?ここを捨てて、国そのものがこのままではこちらは瓦解してしまう。ですから移住先に土地を用意しますから。如何ですか?」


「そうだよ父さん、食料もあっちには大量にあるんだ。だから行こう!移動手段も用意してきたんだよ!?」


「それは………」


「このままここに居れば食料問題が片付いても税が払えないでしょう。だから全員死んだと偽装してでも逃げようよ、父さん」


「だが、そんなこと許されるはずが、」


「許されるよ!命を繋ぐことは、残された人の使命なんだから!」


「………領主さま、あたしらは、生きていきたい。だから、全員で行こう。それが供養になるならなおの事だ。行きましょうよ」


「そうだ、そうだ!行こう!」

「そうだ、行こう!」

「行こう!」


 声が上がり、皆で行くとなった時、荷物も運べるのかと言ったものがあった。

 死体は運べないだろうけれど、でも死んだ者達の形見は持って行きたいと言うのだ。

 それくらい全然余裕で持っていける。

 だから皆に一度たらふく食べて貰って帰宅して貰い、各々持って行きたい物を持って戻ってきて貰った。


 遠い地方に住む人はバスで移動して、歩けない人もバスで移動して貰って。

 何とか皆荷物を取ってくると、アルは皆に触れてサンクチュアリと唱えるのだった。



 *****



 エッフェモンテス領ではこれくらいで済んだと言えば済んだが、もう一つの領地であるルンダリア領は、大きな島の隣にある島国である。

 引き潮の時に歩くことが出来る道を通っていくのだ。

 そこに行くのは大層危険であるとも言っていた。

 ケントの親兄弟はどんな人達なのだろうか?

 もう食料寄越せコールとか怖くて聞きたくないのだが。


 ルンダリア領に行くのに、引き潮の時を狙って行けるのは、数時間らしく、とりあえず船も用意しておくけれど、これで行けるかどうか分からないため、止してある。

 座礁してしまったらとんでもないからだ。


 徒歩で向かう道すがら、ようやくここまで来たのだとケントが言う。

 ここに来るまで既に20日過ぎている。

 あちらはどんな状況だろうか?


 たどり着いて見たそこには、もう人はほとんどいなかったと言う。

 島民は500名を切っており、本島に体力のあるモノは逃げ出しているのだとか。

 兎も角こちらも転居を願ったため、連れて行くことにした。

 死んだと偽装をして、アルは最後にもう一度、レスーチェ領に行くことにしたのだった。


「なんだ、また来てくれたのか?」


「食料でもう少し必要なものなどはありますか?」


「もう少し小麦をくれないか?」


「小麦ですね」


 金貨20枚分程の小麦粉を売り、また来ると約束してアルはその場を後にした。

 湖に居る者達に声を掛けると、その者達は付いていきたいと言うので連れて行くことに。

 これでようやく大陸に戻ることが出来ると、皆喜ぶのだった。


 全て終り、大陸に戻った時にはくたくただった。




 *****

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