物資補給

 バスを降りて、アル達一行は各々食料を手に持たせ、レスーチェ領、領主の館に入っていく。

 いずれもネコ――一輪車に乗せてあるため、その物資の量は大量だ。

 バスを収納してしまったアルは、さて、どうなるかと言った所。

 子供三人を領主の館の門番に目通りをさせ、街道沿いの街の50人をどうするかを聞きたいのである。

 あそこはどうやら港町の区分らしいが、それでも50人をどうにかしてやりたいと思ったのである。

 後は何名居るか分からないが、湖だった場所の襲ってきた者達。


 彼らもとなると、どれくらいの数になるだろうか?


 アース達がこの場から土地を捨てて領民全てを引っ越せる土地があると言ったら来るかと告げると、何を馬鹿なと一笑に付している領主であるケヴィン。

 彼はこの土地を捨てられないと言うが、じゃあ置いていくしかなくなってしまうので、アースに他の土地に行く前に物資だけ出しておきますと言っておく。


「待ってください、まだ話は……」


「分かってます。説得は続けてください。でも、食料支援だけはしなければならないからするんです。移動されないつもりならば」


「………はい。でも説得して見せますから」


「分かってます。――それよりも領主の方、こちらにどれくらいの物資があれば生きて行かれますか?」


「あれば幾らでもと言いたいが、予算としてはそうだな、大金貨2枚程度だ」


「でしたら小麦粉と根野菜がこれくらいです。食糧庫はどこですか。そちらに置いておきますから」


「そ、そんなにですかな?!こんなに出してくださる何て、何て有難いのか」


 食糧庫三つ分位をアルは山ほど出していく、小麦粉は用意していたけれど、他の干し肉とかの物資が不足し始めたので、また途中で物資補給をすべきだろう。

 盛りに盛って提出すれば、大金貨を引き換えにもらい受ける。

 これをチャージして完了である。


「うん、3000万ね。ok」


「兎に角皆飢えてるでしょうからここでも炊き出しをしましょう。今晩今から作りますから、領民を呼んでいただけますか?」


「領民をこの時間に呼ぶなど危険ではないか。彼らには松明をつけるだけの油も無いのだぞ」


「成程。では本日は良いですけど、明日人を集めてください。我らはこちらにテントを張って寝ますね」


「いや、中に部屋を用意するから、中で寝て下され」


「いいのですか?物資が足りないと言ってましたし、水が圧倒的に不足しているのでしょう?」


「ここであなた方を外に寝かせるだなどとできようはずもありません」


 さあ中にどうぞと言われ皆で中に入る。

 アルは個室に通されたが、個室では何だか怖いため、クレアたちと合流するのだった。


 てくてくと歩いて行くと、そこには全員で集まっている様子のアース達一行。

 客間が20部屋も余っていたのはこんな状況だからだろう。

 その一室ではなく、食堂に集まっていた。


「どうかされましたか?」


「それはこっちの台詞だ。大丈夫かアル」


「いえ、一人だったので出て来てしまいました。ノール父様は?」


「私もだ」


「私達も個室だったから話をしたくて集まったのよ」


 そう言って面々を見渡すと、そこには三人の子供もいた。

 彼らは下男下女の宿舎に泊まらせて貰えるらしいと聞いた。

 泥で薄汚れていたから流石に客間に通せなかったと言う事だろう。


 兎も角聖域に通せば連れて行けるかと言われるとそうはならないだろうと言える。

 皆土地に拘っているように見える。

 それもそのはずだろう。

 日本でも昔土地に農民は縛り付けられていた。

 だから同じことがあったと思えば分からなくはないのだ。

 だが――


 それなら今すぐ聖域に入ってしまえばいいが、聖域からあちらの扉で出たとしても、即座に家を用意、土地を用意出来るわけでもないわけで。

 難しいと言わざるを得ない。


「――ねえ、どうして嫌がるのかしら?こんな土地なのに」


「先祖代々守ってきた土地と言う自負があるからでしょう」


「だからと言って、死んだら元も子もありませんよ」


「そうです、なのになんでここに拘る?何故ですか?」


「それは父に聞いて見ないと分からないよ」


 と、アースが言うのであった。

 現代社会とちがって、土地を購入することはほとんど無理に近いのがこの世界だ。

 何故なら全てが領主のモノなわけで。

 開墾したらお前のモノになるよと言うのがそれである。

 だがしかし、領主がお前の土地没収と言ってしまえばそれでおしまいなものでもある。

 だから皆と土地から離れたがらないのだ。


 分かってはいたが手ごわかった。

 とりあえず聖域に入って貰って、食料を定期的に繋ぐ道を一つ作っておくことにしたのだった。


「父さん、俺達は行くよ。本当に言ってしまうよ?本当に本当に別の国で領地を貰わなくていいんだね?」


「いいのだ。ここで生きていく我らの先祖代々の土地だからな」


「分かった。じゃあ出よう」


 アル達は朝から炊き出しをして食料物資を届けた事を告げて次の領地に向かうことにした。

 子供達三人はナイフを取り上げ、聖域に送った。

 そこで無理そうなら新市街地に出してやって欲しいと伝えてあるので安心である。


 一行は一路エッフェモンテス領を目指すのだった。



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