レスーチェ領への移動



 彼らに大量の小麦粉とワインを手渡すと、先ほどのバスにしがみついてきていた男が言うのだ。


「ほんとはあそこに戻って欲しいが、戻って貰えないだろう?」


「戻ってもいいですけれど、彼らは今どこに居ますかね?食料があるよと言ってついて来れるでしょうか?他の場所でまたパンなどを渡すまで居られるなら別ですが、襲い掛かってこないとも限らないわけですから、そこだけ確約して貰わないといけません」


 袋に大量のパンと革袋を20個用意し、その中にワインをたんまりと詰め込んでやると、これを届けに行きますが、こちらに合流すれば野菜も肉もあると言っておきます。

 アルはここで事前に買っておいた干し肉の詰めた麻袋と、野菜を詰めた麻袋を幾つも取りだす。

 ここには50人が暮らしていると言うから、これくらいで十分だろう。

 山盛り出された食料を見て、皆感謝していた。


「有難う御座います、有難う御座います!!」


「いえ、とりあえずお金は今回いいですが、また何かあったら困るので、一度他の領地を回ってきます。領主と会ってからこちらに戻ってきますので、その時また補充しましょう。あなた方の税なども考えないといけないですし」


「連れて、行かれないのですか?」


 アース達が言うのをクレアも後押しする。


「そうよ、何で連れて行かないの?」


「領主に黙って先に連れて行っていいと?」


「そう、か、ついてきたいですか?先に聞いておきます。ついてきたいなら、一緒に歩いてきてください。ここからは我々は皆を助けに来たと言っておきます。助かりたいなら一緒に来てください」


「だども、俺等はここの土地を捨てられねえ。土地を捨てたら文無しになっちまうよりひでえぞ」


「そーだそーだ」


「土地を持ってる、オラ達、ここの土地を持ってんだ。だからついていかれねえ。だども、子供達だけは連れて行ってくれねえか?」


 そう言われ差し出されたのは、栄養失調が見られる小さな子供達だ。

 もう死にかけていると言ってもいいだろう。


「分かりました。子供達を先に連れて行きます。領主に言って領地替えなども考えて貰いましょう。土地が別にあればいいのですよね?」


「そったらこといっても、無理だろー」


「………」


 アルは何も言い返さず、一旦預かりますと言って引き返すことにした。

 何故ですとクレアが言うが、全員希望者で連れて行くとあちらには言ってある。

 希望せぬ人間を連れて行って軋轢が生まれるのは避けたいのだ。

 それでもってこの地で彼らがこのままじり貧で死のうとも、仕方のない事なのである。

 バスの中で小さな声でそう言えば、クレアは分かったと言った。

 兎に角食料は一年持つ量を渡してある。

 だから次に進もうと言うのであった。


 子供は3人。

 新しい領地まで行くのにあとどれくらいかかると聞いて見れば、この速度だったらたぶん今日の夕方には着くと言われる。


「じゃあアクセルをもっと踏み込んでいきましょう。夜間は危険ですから」


 アクセルを踏み込んで、均していない土地を走る。

 街道と言ってもただ土を踏み固めているだけの場所が多いので、致し方ないのかもしれないが、速度を出すと横転しそうになるのである。

 だから50キロキープで走っている。

 これが限界だ。


 子供達はベルトを締められて拘束するのかと吠えていた。

 だが、車に乗る場合は全員座りこれをつけるのだと言うと少し大人しくなったのだった。


「ほらね、やっぱり見張りみたいな目的で子供達を連れて行けって言ったんだよ」


「ですかね、それは流石に無いんじゃ……アル様みたいな子供はそうは居ませんから、きっと単なる口うるさいだけですよ」


「そうかなあ」


 アルのように頭が切れる子供じゃないに違いないと言われるが、そうだろうか?

 矢鱈先ほどからほらね!やっぱりだったよなどとブツクサ言っている。

 見張られてませんか?と時々こちらまで護衛兵が言いに来るが、どうやらあの子達、小さなナイフを持たせられているのだ。

 警戒していると言っていいだろう。

 何のためについてきたんだろうか?


 はあ、先が思いやられる。


 レスーチェ領内に入った所で、アル達は野宿は御免ですからと、速度を落として走行することに。

 領内を見て回る為、速度を落としたのだ。

 此方も荒れ果てている。

 だが治政は上手く言っているのか、どことなしまだ先ほどの街より余裕が見て取れた。

 何故なら街のいたるところにため池があった所が随所にみられるのだ。

 つまり――


「まだ水があるんじゃないか、ここ」


「でしょうか?」


「ため池が何か所か合って、水分を農地に撒いてる人がチラホラ居るよ。ってことは水に余裕があるんだよ」


「本当だ。アル君、本当だね。ってことはここ………領主の館に行けば、皆のこるって言うのかしら――?」


 それは――どうだろう?

 だが、クレアは怖いらしい。

 残れば確実に死が待ってると言いたげなので、どうすべきか迷っている様子。

 だが、残った所で一年分小麦粉を渡せばいいんじゃないかと思うのだが――?


「クレア様、この土地は元から台風が多く危険なのです。ですから避難して他所の土地を与えられるならそれは良いことだと思う領主の方が圧倒的だと思っているはず」


「俺の父はどうだろうかとは思うかもしれない。そんな上手い話って思うかもしれない。けど、説得は必ずするから」


「そう、ですよねきっと大丈夫ですよね」


 そうしてようやくレスーチェ領、領主の館に辿りついたのだった。



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